第34話

 困りました。

 本当に困ってしまいます。

 ルークがとても怒っています。

 これほど怒るのは、ダニエルが私に婚約破棄を言い放った時以来です。

 ローガン陛下が苦境に陥って入るのは分かりますが、もう少し事前に知らせて欲しかったです。

 あ、でも、それは無理な話でした。

 私達に会えるのは、ルークの機嫌がいい時に気まぐれに城下に訪れる時だけです。


 今回会えたのは、ローガン陛下一行が城下で泣き叫ぶように、私とルークの名前を連呼したからです。

 城下に集まっている商人達から教えてもらったのでしょう。

 城下に集まっている商人達は、私とルークが狩人や冒険者から徴収した貴重な薬草や素材が欲しくて集まっています。

 いえ、ルークが気紛れに手を加えた薬草と素材が欲しくて集まっているのです。


「ルーク、ローガン陛下に悪気がある訳ではないのよ。

 ローガン陛下は隣国に無理矢理言わされているの。

 ローガン陛下は可哀想なのよ。

 だから怒っては駄目よ」


「嫌だ!

 絶対に許さない!

 僕からお姉ちゃんを奪う奴は絶対に許さない!」


 ローガン陛下の顔が真っ青になって引き攣っています。

 よほど怖いのでしょう。

 酷い脂汗です。

 抑えようとしても抑えきれない震えで、全身が小刻みに動いています。

 ジェイデン殿が緊張されています。

 ルークが動いたら、敵わぬまでも盾になる心算なのでしょう。

 さすが忠臣の鏡です。


「ローガン陛下が私をルークから奪う訳がないでしょう。

 申し込みがあっただけだから、断ればいいだけなのよ。

 ローガン陛下の言葉や手紙だけでは信じてくれないから、私とルークに断りの手紙を書いて欲しいと言うだけの話なの。

 そんなに怒らなくてもいい事なのよ。

 ルークはお姉ちゃんが信用できないの?

 お姉ちゃんがルークの嫌がる事をすると思っているの?」


「そんな事ないよ!

 お姉ちゃんの事は信じているよ。

 ずっとずっと信じているよ。

 だから怒っちゃいやだよ!

 嫌いになっちゃいやだよ!

 手紙は苦手だけど、お姉ちゃんが書いた方がいいって言うのなら書くよ。

 手紙を書いたらお姉ちゃんがずっと側にいてくれると言うのなら、たくさんたくさん書くよ。

 だから結婚しないでよ!」


 ローガン陛下の顔色が少しよくなってきました。

 脂汗の量が減っています。

 震えも収まったようです。

 ジェイデン殿も気付かれないように息を吐き出しておられます。

 緊張を解く事ができたようです。

 私も安心しました。


 でも、少し寂しいです。

 私だって恋の一つも経験したいのです。

 ダニエルと婚約させられ、嫌々ながら正妃になるべく頑張っていました。

 他の男性に恋心を抱かないように自分を戒めてきました。

 やっと婚約解消できたのに、ルークがいては男性と親しくなる事はできません。

 それは仕方がないと諦めていますが、せめて子供は欲しいのです。

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