第18話

 別に言葉にする必要などないのに、ルークが魔法を使った事が分かるように、

「えい」

 と言っています。

 それが私に対するアピールなら、少し可愛く思ってしまいます。

 母性愛が強すぎるのかもしれません。


 まあ、それならそれでいいです。

 小さい頃からルークを可愛がっていた事で母性愛が強くなったのなら、後悔など微塵もありません。

 むしろ誇りに思います。

 母とは違う人間に成長できたのですから。


「お姉ちゃん、どう。

 青い豚は可愛いでしょう」


「そうね、原色が眼にも鮮やかだけど、ルークは可愛い思うの?」


「うん。

 僕は可愛いと思う」


「そう。

 でもずっとこの姿なの?

 また七日で元に戻るの?」


「戻らないよ。

 僕を殺そうとしたんだから、もう元には戻さないよ。

 本当は殺したかったけど、殺したらお姉ちゃんが哀しむから、豚にするだけで我慢したの。

 偉い?

 僕偉い?」


「ええ、偉いわよ、ルーク。

 じゃあもう行きましょう」


「ブィヒ、ブゥ、ブィヒブ、ブィヒブゥ、ブゥブィヒ、ブゥブゥブゥブィヒ!」


「待ってくれ。

 許してやってくれ。

 頼む。

 この通りだ!

 もう二度とこのような事はさせん!

 だから許してやってくれ!」


「私からも伏してお願い申し上げます。

 この命にかけて、もう二度とルーク様に剣を向けるような事はさせません。

 ですから、どうか元に戻してください。

 どうか、どうか、どうかお願い申し上げます」


 父上とランドンが土下座して謝っています。

 額が床に着くほどの土下座です。

 このまま放っておけば、床に額を叩きつけかねない勢いです。

 でもそっとルークの表情を伺うと、とても許す雰囲気ではありません。

 私から見ても、ベネット王家の魔の手から救ってやったのに、恩知らずに殺そうとしたのですから、許す道理などないのです。


 でも、こんな卑怯者でも兄は兄です。

 ルークには残虐非道な事を繰り返しましたが、私には惜しみない愛情を注いでくれていました。

 だからこそ、私が庇っている間は、ルークを虐めるのを止めていたのです。

 今度はルークから兄を守る順番なのかもしれません。


「ルーク。

 昔私がルークを兄上から守ったように、今は兄上をルークから守らないといけないの、分かってくれる」


「お姉ちゃん、ルークの事嫌いになったの?!

 嫌だよ!

 ルークの事嫌いにならないでよ!」


 ルークが半べそをかいています。

 両手を強く握りしめ、瞳から涙が零れ落ちそうです。

 捨てられそうな犬のようです。

 可愛くて可愛くて抱きしめてしまいました!


「嫌いになったりしていないよ!

 ルークの事は大好きだよ!

 でもね、あれでも兄だから、豚のままでは可哀想なの。

 でも何の罰も与えないのはルークに嫌だよね。

 ルークを虐めようとした時だけ、豚になる呪いにはできないの?」

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