第17話

 王家からの勅使の話は、やはり叙爵の話でした。

 意外だったのは、ルークだけではなく、私まで叙爵されるという事です。

 少しおかしかったのは、使者が余りにルークを怖がっていた事です。

 胴震いしていただけではなく、腰まで引けていました。

 むしろ失禁しなかった事を褒めてあげるべきでしょうか。


 まあ、確かに、怖がるのも仕方なかったかもしれません。

 ルークがガルシア公爵城の中庭に創り出した塔は、雲を突き抜け天に届かんばかりの高いモノです。

 初めてそれを見た者は、広まった噂と照らし合わせて、身も凍るほどの恐怖を感じるのでしょう。


「父上、私はルークと一緒に家を出ます」


「待て、待ってくれオリビア。

 ガルシア公爵家を見捨てないでくれ!」


「今更でございますよ、父上。

 私は幼い頃から、何百何千とルークを虐めないように御諫めしてきたはずです。

 それを全く聞き届けられなかったのは、父上と兄上です。

 そのように汚い父上と兄上は、ルークに見捨てられて当然です。

 それに私がどうしようと、もうガルシア公爵家は御仕舞いですよ。

 ルークを見捨てた時から、ガルシア公爵家は終わっているのです」


「見捨てないでくれ、オリビア。

 頼む、オリビア。

 助けてくれ!」


「何と惨めな。

 これが代々天下に聞こえたガルシア公爵家の当代当主とは、あまりにも情けなくて涙も出ません。

 これで、ガルシア公爵家の名誉のために命と誇りを賭けて戦い死んでいった、歴代の御当主に顔向けできると思っているのですか!」


 私とルークがガルシア公爵家を出て王都に向かおうとしたら、父が必死の形相で止めようとしました。

 ルークを恐れてか、騎士や兵士を使う事もなく、己自身で力尽くで止める事もありませんでしたが、広大なガルシア城の奥から表まで、まとわりつくように懇願を繰り返しました。


 父上がガックリとうなだれています。

 戦ってもいないのに、息も絶え絶えと言った様子です。

 もう少し気概のある人だと思っていたのですが、私の眼が曇っていたようです。

 肉親の欲目と言うのは恐ろしいモノです。

 これからは気をつけないといけません。


「おのれ!

 卑しい血が流れる分際で、恥ずかしげもなく叙爵を受けるとは、身の程を知れ!」


「ルーク、殺しちゃ駄目!」


 愚かな兄上が剣を抜いて襲い掛かってきました! 

 眼が真っ赤に血走っています。

 口の端には泡が吹いています。

 乱心したのでしょうか?


 そうとしか思えません。

 ルークに勝てなくなってから、もう何年も経っているのです。

 私にできるのは、ルークに兄上を殺さないように頼む事だけです。

 果たしてルークが私の願いを聞き届けてくれるでしょうか?

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