第16話

「ならんぞ。

 使者を通す事はならん。

 何をする!

 俺はこの家の跡取りだぞ!

 邪魔をすると斬る!」


「待て、エリアス。

 ガルシア公爵からの厳命だぞ!

 ご当主に逆らえない家臣達を頭ごなしに𠮟りつけ、まして斬るなどと脅したら、それこそ公爵家の後継者失格だぞ!」


 ランドンが兄上を諫めています。

 国境から帰って来てからの兄上の様子がおかしい。

 昔からルークの事を虐めていましたが、家臣にまで理不尽な事をする人ではなかったのですが……

 何か余程の事が国境であったのでしょうか?


 その点ランドンは以前よりさっぱりしています。

 国境に行く前は、思い悩んでいる時があったのですが、今では悩みが吹っ切れたようです。

 それにしても、王家と敵対したとは言え、私とルークへの勅使を邪魔して会わせないようにするなど、とても尋常ではありません。

 まして父上の命に逆らってとなると、余程の事です。


 もしかして、公爵家の跡目の件かもしれません。

 兄上は自分が廃嫡にされる事を恐れているのかもしれませんね。

 確かに王家から見れば、兄上よりルークの方が恐ろしいでしょう。

 それに、公爵家に一致団結されるのも嫌でしょう。

 分断工作でルークと兄上を争わそうとしているのかもしれません。


「お姉ちゃん、スープ飲ませてよぉ」


「はい、はい。

 でも国王陛下からのご使者が来ているのよ。

 直ぐに会わないわけにはいけません」


「えぇぇぇぇ。

 陛下はもう王宮に来なくていいと言ったよ。

 来なくてもお金くれるとも言ったよ。

 だから放っておけばいいよ」


「駄目よ。

 大事なお話のようだから、ちゃんと聞かないといけないのよ。

 ルークはいい子でしょう?」


「お姉ちゃんは会って欲しいの?

 お姉ちゃんが会って欲しいのなら会う」


「ええ、会って欲しいわ」


「じゃあね、先にスープだけ飲ませて。

 あ姉ちゃんが作ってくれたスープ大好き!」


「仕方ない子ね」


 ルークは私が作ったスープが大好きです。

 たぶん、私が初めてルークに食べさせてあげたのが、スープだったからでしょう。

 私もまだ幼かったけれど、父上や兄上に虐待されるルークを見かねて、厨房から運んで食べさせてあげたのです。

 さすがに父上と兄上も、私の前でルークを虐待することはなかった。

 陰でやらせていた母上も……


「おねえちゃん、あ~ん」


「あ、ごめんね。

 はい、あ~ん」


「おいしいよ、おねえちゃん」


「そう、よかったわ。

 あのね、ルーク、お願いがあるんだけど、いい?」


「いいよ。

 お姉ちゃんのお願いだったら何でも聞くよ」

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