第19話

 結論から言えば、兄は人間に戻れました。

 ですが強烈な呪いの魔法がかけられています。

 私が提案したように、ルークに敵意を向けた途端、豚に変化します。

 ですがそれだけではありません。

 年の半分は豚のままなのです。


 ルークは月に連動した呪いもかけたのです。

 半月から満月、満月から半月の一カ月間は豚に変化するのです。

 人間の姿でいられるのは、半月から新月、新月から半月の一カ月間だけです。

 つまり兄は月齢に合わせて一月毎に人間と豚に変化するのです。

 少し可哀想な気もしますが、今迄の行状を思えば仕方ありません。


「おのれ、殺してやる!

 ガルシア公爵家に卑しい血が混じる事は許さん!

 邪魔するな、ランドン!

 放してください、父上!

 ガルシア公爵家の名誉を地に落とす御心算ですか!

 放せ、殺すのだ、だれかルークを殺せ、殺すのだ!」


 いえ、まだ反省していない兄は、人間に戻った途端、ルークを殺そうと剣を抜いて襲い掛かろうとしました。

 それを父上とランドンが身を挺して抑え込んだのです。

 ランドンは兄が振り上げた剣を手でつかんだせいで、左手が血まみれです。

 普段は身嗜みに気を配る父上が、髪を振り乱して息を荒らしています。


 それでも狂気に囚われた兄上は、ルークを罵るのを止めません。

 本来なら死ぬまで豚の姿が相応しいのかもしれません。

 いえ、ルークには兄と父上を殺す権利があるのかもしれません。

 全ての元凶である、母も……


 ですがルークは我慢してくれました。

 私の願いを聞き届けてくれました。

 呪いをかけるだけにしてくれました。

 本当は殺してしまいたかったでしょうに。


 ルークの全身が怒りに震えています。

 固く握りしめた手は、強く握りしめ過ぎて爪が喰い込み、血が流れています。

 普段私に向けてくれる天真爛漫な表情が、怒りを抑えようと無表情です。

 私もルークの我慢に応えなければいけません。


「ガルシア公爵。

 エリアス卿。

 今日を限りに御二人とは絶縁します。

 私の肉親はルークだけです。

 今後一切の交流はないと思ってください。

 王家と争おうと、ベネット王国と争おうと、前回のように助けません。

 その事、くれぐれもお忘れなきように!」


 私は父上と兄上に決別を宣言しました。

 これからは、ルークだけが私の頼りです。

 まあ、そうは言っても、この世界で一番頼りになるのはルークかもしれませんから、私の考えは少々狡いのかもしれません。


 でも、少なくとも、私を愛してくれていた父上と兄を絶縁する事は、私にとってはけじめです。

 でも、まあ、満身に喜びを表してくれるルークを見れば、後悔などありません。

 さっさと王家との交渉をすませましょう!

 

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