第6話ローガン王視点

 不味いぞ。

 非常に不味いぞ。

 このままでは国が滅ぶ。

 下手をすれば、トーレス王国は蛙や豚の国になってしまう。

 どこの馬鹿だ、ルークが人は殺さないと言ったのは!


「ダニエル!

 お前はルークが人を殺さないと言ったな!

 オリビアを人質にすれば、ルークを操れると言ったな!

 魔術士組合の精鋭に連携させたら、オリビアを人質にできると言ったな!

 全て嘘ではないか!」


 全部ダニエルが悪いのだ。

 ナオミの色香に迷い、オリビアと婚約破棄するために、ガルシア公爵家を潰そうとしたことが、愚かな判断だったのだ。

 余は知らなかった。

 そうだ、余の知らないうちに、ダニエルが勝手にやった事だ。


「俺ではない。

 ナオミだ!

 全部ナオミが考えたのだ。

 俺の責任ではない。

 ナオミを処分してくれ!」


 何と愚かな奴だ!

 オリビアの前であれほどの大言壮語をしておいて、今更言い訳が通じるはずがないだろうが。

 やはりダニエルは次の王の器ではないな。

 ダニエルを切ってディランに王位を継がそう。


「私ではありません。

 全部殿下がお考えになった事なのです。

 私は殿下のご指示に従っただけなのです。

 臣下でしかない私が、殿下に指図などできません。

 どうか賢明な判断をお願いいたします」


 今度は余を誑かす心算か?

 確かに強烈な色香だ。

 若いダニエルが籠絡されるのも当然だろう。

 だが命を捨てるほどの魅力ではない。

 どれほどの女でも、命に勝る事などない。


「黙れ。

 この女を地下牢に放り込んでおけ。

 オリビア嬢に詫びを入れるには、この女を差し出すしかあるまい。

 だから絶対逃がすのではないぞ。

 殺してもいかんぞ」


「父上。

 分かってくれたか。

 みんなあの女が悪いのだ!」


 愚か者が!

 全部こやつが悪いのだ!

 だが今直ぐ処分はできん。

 仮にも王太子だったのだ。

 忠誠を尽くす者はいなくても、馬鹿を傀儡にして、王国を支配しようとする者がいるかもしれない。


 それとベネット王国だ。

 今回の件に、グレイソン王の策謀があったのは間違いない。

 奴がこの後どう動くかだ。

 狡猾なグレイソン王なら、ルークが死ぬか、オリビアを人質にして動きを封じるかするまでは、ネイサンとエリアスを殺すような馬鹿な真似はしないだろう。


 ルークなら、ネイサンとエリアスを殺しても報復などしないだろう。

 だがそんな事をすれば、オリビアを怒らすことになる。

 オリビアが怒り哀しめば、ルークが大暴れする。

 今までは人を殺さなかったが、今回はいとも簡単に殺した。

 ルークに殺人の禁忌などなかったのだ。

 恐ろしい事だ!


 とにかくルークなのだ。

 ルークさえ手に入れば、世界の帝王になるのも夢ではないのだ!

 ルークを動かせるのはオリビアだけなのだ。

 どうすればルークを手駒にできるか考えねばならん!

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