第5話

 私はルークのくれた転移魔道具で王都屋敷に戻りました。

 母上や家臣を逃がさなければなりません。

 ルークは私さえ無事ならいいので、自分を虐めた母上や、それに加担した家臣など死んでも構わないと考えています。

 ですが私にとっては実の母です。


 性格が悪く、手が付けられない癇性を持っていますが、それでも母です。

 見殺しにはできません。

 家臣もそうです。

 父上や兄上に忖度しているだけです。

 まあ、心底善良かといえば、そうでありませんが、人間そんなものです。


「かさばる物は置いて行きなさい。

 馬車や荷馬車で運べるものだけ移動させなさい。

 屋敷や残していく家財の心配はいりません。

 ルークが護りと呪いをかけていますから、屋敷に入る事も家財を持ちだす事もできないのです」


 こう言っておけば大丈夫でしょう。

 家の家臣なら、ルークの魔法を恐れて手出ししないはずです。

 ルークが魔法を覚えてからは、母上の手先になってルークを虐めようとした従僕や侍女は、何度も半死半生になっています。

 

 私が全使用人を領地に連れて行くのも、半分以上は彼らのためです。

 王家も使用人まで殺すとは思えません。

 ですが使用人たちが悪心を起こし、屋敷の物を盗もうとしたら、彼らは確実に死を迎える事になるでしょう。

 ルークのかけた魔法と呪いで、絶望的な呪われた死を迎えるでしょう。

 これは王国の将兵や普通の盗賊も同じです。


 ルークには嫌な思い出しかない屋敷ですから、略奪にされようが焼き討ちされようが、何の痛痒も感じないでしょう。

 ですが私には、思い出深い屋敷なのです。

 以前ルークとそんな話をしていたら、屋敷全体を護る防護魔法と迎撃魔法を仕掛けてくれました。


 それだけではなく、家財を盗もうとする悪意や邪心に反応して、盗人を呪う魔法まで仕掛けてくれました。

 特に私の大切にしていた物や、私とルークの思い出の品は、厳重な防御魔法と迎撃魔法を何重にも仕掛けてくれています。


 そんなルークですから、その気になれば、屋敷ごと領地に転移させることも可能なのですが、少々陰険で悪戯好きの所があるのです。

 王都に屋敷を残す事で、私に悪意を向けた者や、盗人を酷い目に合わせてやると言う意図があるのです。


 そのルークの陰険さと悪戯好きが、私だけしか転移できない魔道具に現れているのです。

 ルークを虐めた母上や使用人を、楽に領地に逃がしてはくれないのです。

 私が母上や使用人を逃がしたいと思っても、できないようにしているのです。

 まあ、母上や使用人たちが今までルークにしてきた仕打ちを考えれば、当然です。


 さて。

 気合を入れて領地まで逃げなければいけません。

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