第4話

「そこをどきなさい。

 私は屋敷に帰ります。

 近づくとルークの魔法が発動しますよ。

 早くそこをどくのです」


 余程ルークの魔法が怖いのでしょう。

 フルプレートアーマーで完全装備した近衛騎士が後退ります。

 令嬢や夫人達は、壁に身を寄せて震えています。

 情けない事ですが、普段は偉そうにしている大貴族の当主や公子達も、真っ青な顔色で震えています。


「くくくくく。

 無事にここから逃げられると思っていたのか。

 世界最高最凶の魔導師だと?

 ふざけるな!

 世界最高の魔導師は、魔術士組合の最高導師様だ!」


 ああ、そういう事ですか。

 王太子も馬鹿ではなかったんですね。

 ルークを抑える手段として、魔術士組合に手をまわしていたんですね。

 でも、本当に抑えられると思っているのでしょうか?

 抑えられると思いたいだけなのではないでしょうか?


 先代の国王陛下が、何のために私と王太子を婚約させ、父を財務大臣に就任させたと思っているんでしょうか。

 あの当時はまだ王太孫だったダニエルを、私と婚約させることで、ルークを王国の戦力に取り込もうとされたのです。

 先代王は、まだ幼かったルークをそこまで恐れていたのです。


 魔術士組合も、先代の最高導師が憤死した事を忘れたのでしょうか?

 幼いルークに簡単に破れ、大恥をかいた事で半狂乱になって、禁忌の魔法に手を出して死んだと聞いています

 まあ、だからこそ魔術士組合がルークやガルシア公爵家を恨んでいるのも確かです。

 でも、魔術士組合は頭脳派のはずです。


「そうですね。

 ルークは最凶最悪の魔導師ですから、最高最強の魔導師は魔術士組合の最高導師様かもしれません。

 ですが導師様は、ルークと関わるのを恐れて、ベネット王国におられるのではなかったですか?」


「黙れ。

 不遜な事を言うな!

 お前は黙って牢に入ればいいのだ」


「そうだ。

 最高導師様を愚弄するなど許さん。

 我が魔法で麻痺させてくれる。

 麻痺!」


 あ?!


 ドッゴーン!


「キャァァァァア」

「ウァァァァァア」


 馬鹿です。

 真正の馬鹿です。

 記憶力はいいのかもしれませんが、賢さがありません。

 下っ端は私と魔術士長の舌戦と駆け引きを理解していなかったようです。

 自分達に被害が及ばないように、本当に護りの魔法がかけられているのか、魔術士長が探っていたのを、全く理解していなかったようです。


 その報いが全身爆発です。

 麻痺の魔法を放った魔術士が、爆発して血と肉片になりました。

 普通の令嬢なら卒倒するところなのでしょうが、ルークが幼い頃から色々やらかしてきたので、私は少々の事では驚かなくなりました。

 これを少々と言っていいかは別にしますが。


 まあ、みんな卒倒していますから、今の内に屋敷に帰りましょう。

 母上の事が気になります。

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