第26話 部屋に現る隣人

 俺は夕飯の買い物と、フライパンや包丁などの調理器具をある程度購入し、家に帰った。

「今日は、何作ろうか……」

 俺はスマホを取り出し、何を作るか悩んでいた。

「引っ越してきて1日目だから、引っ越し蕎麦がいいのかな……」

‶ピ~ンポ~ン″

インターフォンが鳴った。

「は~い、どちら様で、すか?」

玄関の前にいたのは、昼間であった女の子だった。

「あ、なんだ、お隣さんあなただったのね。まあいいわ。今日から隣に居住することになりました。」

「は、はあ……」

「これ、母から、お隣さんに渡すよう言われているのだけど、何かわかる?」

「あ、これって……」

渡された紙袋には、蕎麦と、隣の人への手紙が入っていた。

「蕎麦が、入ってるよ。」

もう作り始めてるから、正直、いらない。

「でしたら、私に作ってくださいな。」

「もしかして、料理できないの?」

「もちろん、生まれてから一度もしたことないわ。」

なるほど、かなりのお嬢様なのかな?

「まあ、いいや。上がって。実は、もう作り始めてるんだ。」

「嫌よ。」

「は?」

「だから、私は、男の家にあがるなんて嫌だって言ってるの。」

「じゃあ、蕎麦どうすんだよ。」

「作って私の部屋まで持ってきて。私、ざるそばが好きよ。」

そんなもん、知るか。店行って食えよ。

「わかった。お店ほどのやつはだせねぇーからな。」

「やった~‼初日のご飯の確保はうまくいった。」

なるほど、節約のために、俺、使われるのか。

「でも、今日だけだからな。明日からは自分で……」

「ダメ、かな?」

上目遣いは、反則だって。男なら、誰も断れないよ。

「わ、わかった。間をとって、二人で作る。そして、お前が一人でも大丈夫くらいに料理ができるようになるまでってのでどうだ?」

「つまり、あなたは、私と毎日会えるようにするために、そのような策に出た、ということで通報してもいいのかしら?」

「通報する意味が分からないけど、料理ができなくて困ってるのなら、料理を教えてあげるのも悪くないっつーか、なんつーか……、とにかく、俺は、困ってる人を見ると、どうにかしてあげたくなっちまうんだよ。」

「そう、あなた、いい人なのね……」

お、やっとわかってくれたか?

「いいでしょう。私、あなたと一緒にするわ‼私がちゃんとできるようになるまで、面倒見てね。」

「お前、その言い方……っんぐ⁉」

俺は、いきなり、人差し指で口を抑えられた。

彩雪あやせ、私の名前は、彩雪っていうの。」

「名字?」

「下の名前。名字は、彩冬さいとう。彩冬彩雪です。」

「そうか、よろしくね彩冬さん。」

「ダメ。」

「はい?」

「あなたは、名字呼び禁止。」

「なんで⁉」

「当たり前でしょ。私の料理の先生になるんだから。」

「……まあ、よくわかんねぇ―けど、まあ、いいか。よろしくね、彩雪さん。」

「さん付けもダメ。ちなみに、ちゃんってつけたら殺す‼」

「……」

誰しも殺されるのは、いやだよね。

「わかったよ、彩雪。これから、よしくな。」

「はい、冴河さん。」

「俺はさん付けなんだね。」

「当たり前です。まだ仲良くないですし。」

じゃあ、俺も呼び捨て、しかも下の名前って必要ないんじゃないの‼

「では、私は、一度、部屋に戻ります。」

「結局作らねぇ―のかよ。」

「当たり前です。今日は作ってくれるんでしょ、先生っ?」

この子、あくどい笑顔も、最高に可愛い。

「あー‼わかったよ。作って持っていくから、楽しみにしておけよ‼」

「わーい、先生の料理、楽しみっ‼」

でも、やっぱり満面の笑みが、女の子は可愛いよな。

「じゃあ、また後でね、先生っ‼」

「おう。」

彩雪は、自分の部屋に戻った。

「さて、じゃあ、作りますか~‼」

俺は、キッチンに戻り、蕎麦づくりを再開した。

「さすがに蕎麦だけ出すのは少ないよな。何かサラダでも作ろう。」

この時、いつもより食材を買い込んでおいてよかったと思った。











「……」

俺は今、彩雪の部屋の前にいる。

ただ、それ自体は問題ないんだけど……

「どうしたの、入らないの?」

そうこの対面状態に問題がある。

確かに、季節はまだ夏で、暑いけど、

「服を着ろ‼」

そう、彼女は自分のボディーに自信があるのか、暑いのかわからないけど、タオル一枚で、大事な部分をぎりぎり隠しているという状況なのだ。

「嫌よ。」

「なんで⁉」

「私の部屋だから、私の気分で決める。」

「俺が見て大丈夫なのか?」

「うっ……」

「ほら、隠した」

「さ、30秒待ってて。」

「はーい。でも、早くしないとのびるぞ。」

「わ、わかってるわよ‼」

どうやら、やはり、見られるのは、慣れていないらしい。

「やっぱり、いいところのお嬢さんなのかもしれないのかな。」

そんなことを思っていると、彩雪が戻ってきた。

「もう、いいわよ。さあ、あがって。」

「ま、まあ、さっきよりはマシか。」

格好は、ちょっとダルダルのワンピースだったが、しっかり服を着ているだけましだ。

「お邪魔します。」

「どうぞ。ていってもまだ何も片付け終わっていないのだけれどね。」

「その割には、ある程度は、片付いてるじゃないか。」

部屋には、カーペットやソファー、さらには、机まで置かれており、しっかり片付いていた。

「どこに置けばいい?」

「机の上にでも置いておきなさいよ。」

「わかった。食器は、洗って持ってきてくれればいいから。」

「食器の洗い方も分からないわよ。第一に、この部屋にスポンジも洗剤もないわよ?」

「そうか……、食べ終わったら、うちにもってこい。食器の洗い方も教えてやるよ。」

「わかったわ。」

「それじゃあ、俺は部屋に戻るぞ。」

俺は、玄関行こうと背を向けた。

「あ、あの……」

「どうし……た?」

俺は、いきなり抱き着かれた。

「今日は、ありがとう」

「ああ、このくらいいよ。」

そういうと、離れてくれた。格好のせいで、ダイレクトに女の子の柔らかさが伝わってきて、少しヤバかった。

「じゃあ、また、あとで。」

「お、おう」

俺は、彩雪の部屋を出て、自分の部屋に戻った。

「ヤバかった。まさか、ノーブラで抱き着いてくるなんて思わねぇーよ。」

俺は、興奮が治まるのを待った。

「さて、俺も飯食うか。」

そのまま自分の分の蕎麦を食べ、片付けをしていると、インターフォンが鳴った。

「開いてるぞ~」

「お、お邪魔するわ。」

「なんだよ、さっきは色々言って入らなかったのに、今回は素直に入ってきたじゃないか。」

「まあ、今回は片付けの仕方を教えてもらうためだからよ。」

「そうか。じゃあ、今からやって見せるから、同じようにしてみてくれ。」

俺は、一度やって見せた。

「なるほど、そこはそうやって洗うのね。やってみるわ。」

「じゃあ、はい、これスポンジな。」

「ありがと。」

そして、後ろから見ていると、

「何だかんだ、学習能力だけは高いんだな。」

「何か、私について悪口を言ったかしら?」

「いや、何でもない。」

「そう、ならいいんだけど。洗い終わったわ。」

「じゃあ、そこにあるかごの中に入れておいてくれ。」

「わかったわ。」

彼女は、皿をかごに入れた。

「じゃあ、私は戻るわね。」

「ああ、おやすみ。」

「ええ、おやすみなさい。」

こうして、俺の引っ越してからの1日目が終わった。

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