第23話 俺の夏休み 後半戦③
俺は夢を見ていた。
それは、ある夏の日、父さん、母さんと過ごした日々だ。
「この子は、心を広く持ってほしい。」
「なら、心がひろいという意味のある『裕』という字を使うのはどうかな。」
「私、子供ができたらつけたかった名前があるの。」
「なんだい?」
「『ユウタ』って名前。でも、ありきたりの名前だから、字をどうするか悩んだの。」
「なら、この子の名前は、『裕太』でどうかな?」
「広い心を持つ人になるようにという意味を込めるの?」
「ああ。この子には、俺たちの因縁も、何も関係ない、ちゃんとした、心が広く、優しい人間になってほしい。だから、裕太なんだ。」
「いいわ。それの名前で行きましょう。裕太、これから、強く生きるのよ。」
「そして、広い心を持ち、だれからも信頼される人間になりなさい。」
そして、俺の意識はまた途切れた。
どうやら、この記憶は、俺のまだ生まれて間もないころのもののようだ。
「……眩しいっ‼あれ、ここは……」
「あ、起きた。裕太、あんたさっき競争で一位になったのに、溺れてどうするのよ。死んだかと思ったじゃない。」
「ああ、すまない。すぐに起き上がる……」
「ダメ。まだこのまま安静にしておいて。」
「でも、この態勢って……」
「親戚に膝枕されたくらいで何っていうのよ。」
「いや、何でもないです。」
「なら、そのままじっとしていていて。」
「はい……」
俺は、愛莉に膝枕されている状況が、このあと30分くらい続いた。
「おや、裕太君、目を覚ましたんだね。」
「はい、運んでいただき、ありがとうございます。」
「いや、たいしたことないさ。それよりも、君は体重が軽すぎる。もう少し食べたほうがいいと思うよ。」
「アドバイス、ありがとうございます。」
「というわけで、君にはこれをあげよう。」
そういう、千円札を手渡された。
「何かこれで食べてきなさい。あ、買うものは、簡単に食べれるものじゃなくて、定食系で。あと、水分もしっかりとるように‼」
「はい、ありがとうございます‼」
「それじゃ、僕はもうひと泳ぎしてくるから。」
そのまま行ってしまった。
「定食系か。何かあるのかな?」
俺はひとまず、海の家に向かった。
海の家には、なんと、5,6店舗ほどの店が入っており、どこも盛況だった。
中でも、俺が一番注目してしまったのは、イカ墨パスタならぬ、イカ墨焼きそば定食を提供している店だった。
「『屋台 イカメシ屋』なんか、すごくゴリゴリのマッチョが店やってそう……」
でも、ここの定食はどこの店よりも安い690円。スポーツドリンクを買っても850円と、どの店よりも安い。
「よし、ここにしよう。すみませ~ん」
「はい、ただいま~」
この声を聴いて驚いたことは二つ。一つは、女性だったこと。もう一つは、
「お待たせしました……って、なんで冴河君がここにいるの⁉」
その声の主は、うちクラスの学級委員長だった。
「イカ墨焼きそば定食と、スポーツドリンクをお願いします。」
「はい。で、なんでここにいるの?」
「それ、言わなきゃダメ?」
「もちろん。委員長命令です。」
「白状しますと、龍ケ原家の皆さんと、今日は来てるんだよ。」
「え、それって、ヤクザの⁉」
「はい、そのヤクザの。」
「そうなんだぁ~。はい、お待たせしました。スポーツドリンクと、イカ墨焼きそば定食です。」
「委員長いくらですか?」
「850円。でも、クラスメイト割で690円でいいよ。」
「じゃあ、千円から。」
「はい、310円のお釣りです。じゃあ、海楽しんでね。」
「ああ。少し気分が晴れたよ。ありがとう委員長。」
「べ、別に、私なんて何もできてないし、でも、冴河君が元気になれたんなら、私もうれしい‼」
やっぱこの人は、笑顔がとても似合う。
「じゃあ、海、しっかり楽しむ前に、これを食べて、体力回復させます。」
「うん‼じゃあ、また学校で会おうね。」
「ああ。また学区で会おう、委員長。」
俺は、その場を後にした。ちなみにイカ墨焼きそばは、普通に店で売っていたらバカ売れするくらいうまかった。
「あ、やっと戻ってきた。」
「おう、俺も、しっかり海を満喫しようと決意を新たにしてきたぜ。」
「じゃあ、頑張って楽しんでね。」
「ああ、そういやいうの忘れてたけど、」
「何?」
「水着、最高に似合ってるよ、愛莉」
「にゃっ⁉」
「じゃあ、俺泳いでくるわ~」
おれは照れ隠しのつもりでその場を後にし、海に入った。
「もう‼でも、そういう風にほめくれたら、さらに好きになっちゃう……」
______________________________________
(あとがき)
こんにちは、汐風 波沙です。
今週に入り、気温がかなり下がって、寒いです‼
今年もヒートテックに助けられる時期が来たんだなぁ~と、つくづく思う今日この頃です。
さて、今回は、冒頭に、生まれて間もない主人公の名前の由来を載せています。できるなら特徴的な名前にしたかったというのも、自分の本心ですが、この主人公は、普通さをメインにしているので、そこは大事にしていこうと思います。
よかったら、作品のフォロー、レビューや☆、応援、応援メッセージをいただけると、今後のモチベーションが上がると思うので、よかったら、お願いいたします。
そして、この作品、さらに、自分の書いているほかの作品のほうもよかったら、読んでください。
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