第21話 俺の夏休み 後半戦
「お、気付いたか、おはよう、裕太。」
俺はこの世界が夢だと一瞬でわかった。
俺が父さんにおんぶされているのだから。
「おはよう、父さん。」
「何か考えていたか?」
「あのね、父さんってどんな仕事してるのかなあ~と思ってて」
「ああ、そのことか。お父さんは、悪い人を捕まえる、正義のヒーローをしてるんだよ。」
「警察官じゃなくて。」
「鋭いな。これじゃ、主人公としてうまくやっていけるのかお父さん、心配だよ。」
「違うよ、父さん。僕は、主人公じゃなくて、誰かの人生の脇役だから。」
「そんなこと言うなよ。裕太、お前にはお前の人生ってものがあって、その人生の主人公はお前ひとりしかいないんだよ。そして、お前は、脇役なんかじゃないんだ。だから、そんな悲しいこと言うんじゃないよ。」
その時思いだした。これは夢なんかじゃない。俺の記憶。
自分を偽るために、ずっと隠していた俺の記憶だ。
この後って確か、
「冴河嚟被兎おおおおおおおお‼‼‼」
「ごめん裕太。」
俺は父さんに後ろに投げられた。そして父さんは刺され、その場に倒れた。
「ひっ、やっとだ。やっと始末できた。ハハハハハ~」
そして、かなり遠いところからパトカーの音が聞こえた。
「チッ、サツの奴、もう来たのか。あばよ、お前だけは見逃してやるから、感謝して生きろよ。」
と言い、男は去って行った。
「父さん⁉」
俺は父さんのもとにかけよった。
「おお、裕太、いきて、いたか。ブフォッ‼」
父さんは勢い良く、吐血した。
「裕太、いいか。今日のことは忘れるな。そして、復讐しようとするな。憎しみは、さらなる悲しみしか生み出すだけだ。だから、お前は……」
父さんは俺を強く抱きしめた。
「父さん?」
「お前は、弱い人を救ってやれ、裕太。そして、強く生きるんだ。本当は成長するまで見届ける予定だったが、ここまでのようだ。じゃあ、な、裕、太」
父さんは、そのまま息を引き取った。
「父さん?父さん、父さん父さん、父さああああああん‼」
「っはあ‼」
目が覚めると、そこは龍ケ原邸で俺が借りている部屋だった。
隣には今日も、愛莉(全裸)はいた。
「どうしたの、いきなり起き上が……て、なんで泣いてるの?」
「えっ!?」
俺は、目尻を触った。そして、涙で手が濡れた。
「いや、これはその……」
愛莉は、優しく、俺を抱きしめた。
「大丈夫、裕太には私が付いてるから。」
「う、っぐ、なんでだろう、涙が、あふれてくる。」
「いいんだよ、今だけは泣いて。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
俺は愛莉に抱きしめられたまま、1泣いていた。その間、愛莉は「大丈夫、大丈夫だよ」と声をかけてくれていた。
30分くらいたったのだろうか。俺は泣き止むことができた。
「よし、もう、大丈夫だ。ありがとう愛莉。」
「私に惚れてくれた?」
「服を着ていなかったから、柔らかさがダイレクトに伝わってきたから、理性がぶっ壊れそうにはなった。」
「⁉もう、そうやってすぐにからかう~。でも、そのくらい元気なら大丈夫だね。」
「ああ、本当に助かった。ありがとう。」
「フフっ、やっぱり裕太はカッコイイね。」
「そんなことないさ。早く服着ろ。朝ごはん行くぞ。」
「待たなくていいよ、先行ってて。」
「そうか。遅くなりすぎるなよ。」
「うん、すぐ行くよ。」
俺はそのまま、部屋を後にした。
〈愛莉〉
「はあ、ドキドキした。」
私は、もう一度、彼の寝ていた布団にもぐりこんだ。
やっぱり彼の匂いが残ってる。
「この匂い、やっぱり落ち着く。」
私は、彼と離れたくない。もし叶うなら、彼とずっと一緒にいたい。そして、私だけを見てほしい。
そう、私は彼が好き。
始めはlikeだったけど、今はloveに変わった。
「この匂いとも、明日でお別れか。」
彼がいなくなると思うと、胸が苦しい。寂しい。
「あ、あれ、何、これ」
涙が溢れてきた。私、この短期間でこんなに好きになってたんだ。
「チョロいよね。顔がかっこよくて、優しいだけで惚れちゃうなんて……。」
そう、私は、惚れていただけ。夢は必ず覚める。だから、きっとこの気持ちも冷めて、忘れていく。
だから、止まってよ、私の涙。このままじゃ、布団にシミができちゃう。
「なんで、なんで止まってくれないの……。」
このままじゃ、今までと変わらない。
このままじゃあの時と一緒じゃない。雪姉に泣いてすがりついていたあの頃と、変われてない。
「もう、どうしたらいいのよ。」
その時、私を優しく包み込む何かを感じた。
「やっぱり、君の方も堪えていただけじゃないか。」
この声、この匂い、このやさしさ、間違いない。
「……裕太」
〈裕太〉
「なんか心配だ、ちょっと戻るか。」
俺は、大広間の手前まで来て、愛莉の様子が心配になり、見に行くことにした。
そして、俺は部屋の前まで来た。
「なんで、なんで止まってくれないの……。」
部屋をのぞいた瞬間、愛莉は泣いていた。
「アイツも堪えていたのか……。」
俺は、馬鹿だ。なんで気付いてやれなかったんだ。
悲しいのは自分だけだと勘違いしていた。
でも、俺ができるのは、こんなことしかない。
俺は足音を鳴らさないように、部屋に入り、愛莉の後ろまで行った。
「もう、どうしたいいのよ。」
やっぱり抱え込んでいたんだな。
俺はゆっくり、愛莉を抱きしめた。
「やっぱり、君の方も堪えていただけじゃないか。」
俺と同じでこらえていただけなんだ、こいつも。
「……裕太」
「そうだよ。辛いなら、気が済むまでなくといい。その間、俺がお前のそばにいてやるから。」
「……裕太‼」
愛莉は勢い良く、俺に抱き着てきた。
「裕太、私、私は、あなたが好き。大好き。」
耳元で愛莉がささやいた。
「初めて会ったあの日から。」
「ありがとう、気持ちはすごくうれしい。でも、俺は心に決めている人がいるから、その気持ちにはこたえることはできない。」
「うん、そんなこと……」
愛莉は俺の前で、笑みを浮かべ、
「知ってたよ、でも、私のことを好きになってほしかった。」
「俺は、ここにいるうちに、お前のことをだんだん好きになってはいた。でも、……」
「でも?」
悲しくても、このことだけは伝えなきゃいけない。吹雪さんとの約束でもあるから。
「俺は、お前とは、結ばれることない。だから、俺のことは諦めて……」
「いや‼わたしは諦めたりしない。」
「な……なんで」
「私は、あなたが好き、その気持ちは、変わらない。だから、諦めるなんて無理‼」
「……」
「だって、あなたが他の人が好きでも、私を見てくれていたから、私はあなたを好きでいられた。私は、この片思いが、すごく幸せです。」
「そんな顔しないでくれ。俺の決意がむなしくなる。」
「いいんですよ、私は。だって……」
愛莉は俺の頬に手を当て
「私が勝手にあきらめないだけですから。」
神様、俺は、幸せになっていいのか?こんなにもみじめな俺が人並みの幸せを手に入れて、いいんですか?
「裕太さん、あなたは、自分の道を進んでいいんですよ。私はそれを後ろから追うだけです。」
「俺の勝手でお前は捨てられる、そのことを理解しておけよ。」
「大丈夫、私は、あなたを惚れさせて見せますから。」
「フッ、そうかよ。それなら……」
俺は愛莉を抱きしめ、
「やれるもんならやってみろ。」
耳元でささやいた。
「はい‼やってやりますよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます