第20話 俺の夏休み 昼食

「いやー、待たせてしまってすまないね。」

吹雪さんは、某有名会社の黒塗り高級車で、校門に迎えに来た。

「誰の知り合いだ?」「あ、あれ、裕太先輩じゃない?」 

「は、それって、冴河裕太のことか?」「雨沢先輩の彼氏だった人⁉」「いや待て、あの車に乗ってる人って、龍ケ原吹雪じゃない?」「ヤクザ⁉」「あの人裏社会と繋がってんの?」「もしくは……」

俺から約50メートルくらい後ろの方の、こそこそ話が聞こえて来る。

「吹雪さん、失礼します。」

と言いながら、俺は車に乗り込んだ。

さすがにこの騒ぎは異常だ。

「じゃあ、出すから、シートベルトして。」

「しました。」

「じゃあ、本日の昼食会場にレッツゴー‼」




「ところで今日の学校、どうだった?」

「一発思いっきり殴られました。そして、ろくに授業も出てません。」

「やるねー。兄さんとそっくりだな。」

「はい?」

「ちょっとだけ昔の話をしようか。」

「お願いします。」


もうずいぶんと前のことだが、僕の先輩には、君のお母さん、君のお父さん、そして兄がいた。

君のお母さんの癒魅ゆみさんと、君のお父さんの嚟被兎りひとさんは、その時から結婚を約束してるほどのカップルだったよ。兄は、二人と違って、彼女は作らず、毎日攻め込んでくる他校の奴を打ちのめしてたよ。それでも、嚟被兎さんと兄は友達、いや、親友だった。本来なら、兄が継ぐ予定だった組も、

親父に、「俺は嚟被兎と一緒に警察官になる。だから、組は継がない。」と言って家を飛び出していったくらい仲が良かったんだ。

学校の方も、校内の喧嘩は、自分は攻撃せず、相手の気が済むまで殴らせていた。そして、授業のときは気絶しててほとんど保健室にいたよ。僕は喧嘩とかしないタイプだったから、ずっと剣道に打ち込んでたよ。彼女の方は大学に入ってからだったよ。

そして何より、噂は、嚟被兎さんとコンビだってことがばれたときには、癒魅さんは、ものすごく怒ってたね。癒魅さん、喧嘩嫌いだからさ。ついでに止められなかった僕も怒られたんだけどね。

そして、卒業する頃には、三人とも警察学校に合格してたよ。




「さて、話してる間に着いたし、店に入るよ、裕太君。」

「はい。入る前に一ついいですか?」

「どうぞ。」

「なんでこの店でなんですか。」

そこは、高校生だけだは入れないような高級店だった。

「ああ、ここは龍ケ原グループの店なんだよ。」

「そうなんですね。」

やばい、逃げ出せないじゃん。

「じゃあ、行こうか。」

「はい!」

俺は吹雪さんに続いて店に入った。




「いつものところ、よろしく」「かしこまりました吹雪さま。」

本当にこの店、龍ケ原グループの店なんだな。

「では、ご案内いたします。」

受付の人が、案内してくれるようだ。

「裕太君、僕は少しお手洗いに行くから、先に行っててくれ。」

と言われ、俺は受付の人の後ろをついて行った。


「お待たせいたしましたお客様。こちらの個室になります」

と受付の人は戸を開けた。そこは、六畳の個室で、机が一つあるだけの殺風景の部屋だった。

「あ、ありがとうございます。」

感謝を告げ、部屋に入室した。

「ごゆっくりどうぞ」

と言いながら受付の人は戸を閉めた。

『とりあえず、下座だよな』

俺は下座に座り、吹雪さんを待っていた。



数分後、部屋の戸が開いた。

「ごめん、待たせてしまったね。」

吹雪さんの服装が、スーツに代わっていた。

「いえ、全然待ってないですよ。」

そして、上座に吹雪さんは座った。

「ちょうど料理もきたし、とりあえず食べようか。」

「はい。いただきます」

と言い、高級店の高級料理を食べた。

ある程度食べると、

「さて、そろそろ話そうか。」

「話すって何をですか?」

「もちろん、君と愛莉の関係性について。」

「ヌグッ‼知ってたんですか?」

「知ってるも何も、愛莉が、『私、絶対裕太さんをおとす。』て言ってたからさ。」

「そうだったんですか。あの、一つ聞いていいですか?」

「いいよ。」

「愛莉が脱ぐのは昔からなんですか?」

「それは知らない。」

「親も知らなかった!?」

「まあ、雑談はここまでにして、そろそろ本題だ。」

「本題じゃないんですか?」

「いやいや。単刀直入に言うけど、愛莉と結婚しないか?」

「はあ?」

「いや、あの子は、可愛いし、性格も悪くないだろ?」

「確かに、可愛いし、性格も悪くないし、特に惚れてくれてるし、でも……」

「でも?」

「俺には、もう心に決めた人がいるんですよ。だから、すみません。」

「そうか。なら、しょうがないな。今日の会食はここまでにしよう。愛莉には、」

「俺から言います。明日、海水浴のときに。」

「そうか。じゃあ、明日、必ず伝えるように。」

「はい。」

「そして、君の新居は、学校から10分の所にあるオートロックマンションだから。そして後受人は、父さんだから、ちゃんと大人になれよ。」

「はい、ありがとうございます。吹雪さん。」

「よし、出ようか。」

俺たちは店から出て、乗ってきた車に乗り、龍ケ原邸に戻った。

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