第17話 俺の夏休み ハーフタイムその②
朝食を食べ終わった俺は、
「今日は何すっかなあー。」
とスマホをいじりながらつぶやくと、
「ねえ、今日暇なの?じゃあ、買い物付き合ってよ。」
愛莉が俺の前に座った。
「別にいいけど、もうさっきのことはいいのか?」
「ちょっと⁉そのことは忘れてくれるって約束じゃなかった?」
「いや、十四文さんや、吹雪さんには秘密にするって言ったけど、忘れる約束はしていない。」
確かそうだったはず……。
「なら今言う。あのことは忘れてください。お願いします。」
机から少し離れて頭を下げていた。
「いや、お前が高校生になったら忘れているかもしれないな。」
と言うと、
「もおおおお‼裕太の意地悪、もう知らない‼」
愛莉はそっぽを向いてしまった。
「ごめん、怒らせたんなら謝るよ。あと、俺にできることを一つだけしてや……」
「ほんとに‼ありがとう裕太‼」
愛莉は笑顔で俺に抱き着いてきた。
やばい、この子無意識でやってるなら、ビッチの才能あるかも。
「とりあえず、俺の理性を壊しにかかるのをやめてほしいんだけど……」
「嫌だ‼このまま既成事実作る。」
「バカかお前‼あ、吹雪さん。」
「お父様これはちが……って、だまして私を引きはがしたね。」
「それくらいしないと離れないだろ?」
「じゃあ、もういい。さっきいてた一つだけ言う事聞いてもらうの決めた。」
「子作りとか話だぞ。」
「そんなのじゃない‼じゃあ言うね……」
愛莉はこちらに顔をまっすぐ向けて
「私とデートして、ください。」
なんとも可愛らしいお願いだった。
「なんでわざわざ駅で待ち合わせなんだよ。」
俺は炎天下の中、かれこれ20分待たされていた。
今日も気温が36度を超えているらしい。
「アイツ、あと何分で来るんだよ。」
俺は愚痴をこぼしながらスマホをいじっていた。
「ごめん、待った?」
「当たり前だろ、俺を熱中症で……てか、どちらさま?」
そこには、白いワンピースに、薄いカーディガンを羽織り少し小さい麦わら帽子をかぶった女の子がいた。
「暑さで頭までゆであがったの、裕太。」
「まさか、お前、愛莉か?」
「なんでわからないの、もう、これだから鈍感は……。」
「ごめん、でも、髪おろしてて、その……」
俺は愛莉の頭から足まで見た。
「そんな見ないでよ。恥ずかしいじゃん……。」
「ごめん、今朝見たときよりも可愛いなと思ってさ。」
というと、愛莉は耳まで真っ赤にしていた。
「べ、別に裕太と遊びに行くからおめかししたわけじゃないし、髪整えるのに時間かかったわけじゃないし。」
ああ、頑張ったんだな。好かれるのは嫌じゃないけど、俺から好意が行くわけじゃないことも、多分気付いてるよな。
「じゃあ、行くか。」
「うん‼じゃあ、今日の目的を言います。」
「んんっ‼」と咳払いをした。
「今日の買い物はずばり、水着を買いに行きます。」
は?
俺は思考停止した。
「ごめん、もう一度行ってもらえるかな?」
「だから、私の水着を選ぶのを手伝ってって言ってるの。」
なるほど。
カップルイベントじゃないのそれ⁉
「ねえ、ダメですか?」
上目遣いするのはずるいんだって。
「わかった。なんでも一つ言う事聞く約束だったからな。」
「やったー!あ、でも、露出度高いの着たりしないから。」
「わかってるよ。着せたりも買わせたりもしない。」
「じゃあ、ショッピングモールの三階、水着売り場へゴー‼」
このテンションで行くのは疲れるなー。
「走りすぎたら転ぶぞ。」
「私そこまで子供じゃない‼」
と言いながらもしっかりつまずいていた。
俺たちはショッピングモールに入り、エスカレーターに乗り、そのまま三階に向かった。
「水着売り場到着‼」
「他にもお客さんいるから静かにしなさい。」
これじゃもうお父さんだ。
でも、この身長差なら、親子に見えるかも……いや、それなら俺は老けずぎていることになる。
「ねえ、あれ見て。」「え、身長差カップル?いや、あれは兄妹でしょ。身長差的に。」「いや、絶対カップルだって。まったく似てないもん。」「いやー、熱々だねー‼火傷しそうだ‼」
などとほざいている客がいた。
「ねえ裕太、私たちカップルみたいに見えてるのかな?」
少し前を歩いていた愛莉が期待を込めた眼差しで見てきた。
「いや、どちらかというと兄妹あたりだろ。身長差の都合上。」
「まあ、別に、あんたが私の兄でも構わいかなあと思うけど……て違う違う、今のはなしでお願いします‼」
何が?と聞こうとしたが、俺もそこまで鈍感ではない。
「まあ気にすんなって。さっさと選んで帰ろうぜ、熱いし。」
「そ、そうだね。じゃあ、選んでくるから待ってて。」
そう言い残し、一目散に店員のところへ駆けて行った。
「てかこんなところに俺一人置いてくなよ。」
ここは女性用の水着売り場だ。男である俺はいてはいけないような場所だ。
「仕方ない。この辺のアクセサリーでも見ておくか。」
俺は水着売り場には珍しい、アクセサリーのコーナーを見ていた。
あ、これアイツに似合いそう。
俺が手にしたのは、ピンクと白のひもに、プラスチック性のダイヤが付いたヘアゴムだった。
これ、プレゼントするか。
俺はそれをレジに持って行った。
「もう、なんですぐいなくなるの。」
レジで会計を済ませ、待ってろと言われていた場所に戻る途中、愛莉に捕まった。
「よお、決まったか?」
「決まったか?じゃない‼あ、何か買ったの?」
「ああ、ちょっと男に必要なものだ。で、その持ってる水着にするのか?」
「あ、いや、その……、あ、し、試着するの!だから、見てほしいなと思って。」
はあ、こいつはやっぱり雪乃とは違うタイプだ。
「いいよ、見てやる。悩殺水着だとしても、俺を落とせないけどな。」
「だから、そんなの着ない‼じゃあ、着るから、試着室の前で待ってて。」
「了解。」
俺は愛莉の入っている試着室の前で待機した。
数分後、
「ど、どうかな?」
少し顔を赤くしながら、愛莉が試着室のカーテンを開けた。
水着は薄ピンクの水玉のフリル付きのスカートタイプにビキニだった。
「うん、似合ってる。愛莉って感じの水着だと思う。」
内心では、こいつ、やっぱり着やせするタイプだ、と確信していた。
「じゃ、じゃあこれにする。勝ってくるから入り口で待ってて。」
とまたしても店員のもとへ一目散にかけていった。
「今日のミッションはコンプリートかな。」
その後は二人仲良く龍ケ原邸へ帰宅した。
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