第15話 俺の夏休み 前半戦

荷物を部屋に置いた俺は、大広間を目指していた。

「クソっ‼迷ってしまった。どう行けばいいんだあー。はあ、最悪だ。」

と絶賛迷子中だった。

「元いた道はどっちだっけ。」

「ねえ」

「右か左かだよな。」

「お兄さん?」

「とりあえず、感覚的に左だな。よしっ、行こう。」

「ちょっと待てえーー‼」

「何だ足元から声がする。

とりあえず下を向いてみよう。」

意を決して俺は下を向いた。

そこには髪の長い小学4年生くらいの女の子がいた。

「まったく、私としてはここまで無視されたのは、初めて何でよ。」

少しだけ頬を膨らましながら女の子は言った。

「ごめん、迷ってたらイライラしてきてしまって……。」

「まったく、感情を抑えることは必ず行えるようになってくださいよ。」

「すみません。」

と少し申し訳ないと思いながら言った。

「大広間は右ですよ。案内するのでついてきてください。」

少し不機嫌な少女の後ろをついていき、やっとの思いで大広間にたどり着いた。

「この戸の先に父と母、そして祖父祖母がいらっしゃるので、しっかり挨拶してください。」

「はい、わかりました。」

気付いてなかったけど、無意識に敬語になってた。

「はあ、ふー」

俺は深呼吸をして、

「失礼いたします。」

と深く礼をしながらかなりの声量でで言った。

「おお、裕太君ではないか。面を上げるがよい。」

「はい。」

顔を上げると、龍ケ原家の住人が勢揃いしていた。

「儂と儂の妻のことは大丈夫だな。あと、吹雪のことも。吹雪、家族を紹介しろ。」

「わかりました父上。さて裕太君、僕のことは大丈夫だね。じゃあ、僕の妻から。」

「初めまして。龍ケ原麻衣まいと申します。そして、こっちにいるのが、息子のひろと申します。紘、挨拶して。」

「は、初めまして。龍ケ原紘です。4歳です。」

「よろしく、紘君。」

「じゃあ、次私か。」

と言いながら、身長は158センチくらいのポニーテールの中学生くらいの子が、立ち上がった。

「私は長女の愛莉えりです。歳は15歳、お兄さんよりは年下です。」

「よ、よろしく、お願いします。」

「じゃあ、次私ね。」

そして、後ろから声がした。

「さっき話したけど、自己紹介まだだった。私は夏那かなって言います。10歳です。よろしくお願いします。」

「よろしく、夏那ちゃん。」

「なんで私だけ名前呼びなんですか。」

とブツブツ文句を言いながら、夏那は言った。

「とりあえず、僕の方の家族の自己紹介が終わったし、君の番だね。」

「はい、俺は冴河裕太。歳は16歳、高校2年、両親を亡くし、最愛の人もなくした。何にも残ってないこんな俺ですけど、よろしくお願いします。」

「君の自己紹介は少し違うかな。何にも残ってないんじゃなくて、今日、人生をゼロから始めるでしょ。」

と、笑顔で吹雪さんは言った。俺も将来はこんな大人になれたらいいな。

「はい。訂正します。俺の名前は冴河裕太、高校二年生、今日、人生をリスタートする男です‼」

「よく言った。母さん、飯にしよう。今日は派手に行くぞ‼」

「はい、十四文さんもまだまだ若いですね。」

「儂はまだ78じゃ。人生これからじゃっちゅうねん。」

この人、本当に78なのか。このテンションはおかしいよ。

「ねえ、ちょっといい?」

と十四文さんに驚いていた俺の服の裾を引っ張ったのは、愛莉だった。

「どうしたんだい、愛莉さん。」

「まずは、私もみんなみたいに付けでいいよ。とりあえずこっち来て。」

「わっ⁉ちょっとあんまり引っ張らないで!」

と言いながらも、しっかりついていく俺。

そして、俺は愛莉に引っ張られながら縁側に連れてこられた。

「何?何か疑問でもあった?」

「一つ聞きたいことがあって……。」

「俺に応えられることなら聞くよ。」

「それは大丈夫なんだけど……。」

「それで、何?」

「あのさ、最愛の人ってさ……。」

とポニーテールを揺らしながら、彼女は、

「雪乃さんのこと?」

「そうだよ。」

俺は即答した。

「やっぱりそうなんだ。」

「そうだよ。俺は雪乃と結婚も約束していた。」

「そう、なんだ。でも、今はその席が空いてるってことだよね。ならさ……」

と彼女は顔を近づけた。

「その席、私が入ってもいいよね?」

彼女はあくどい笑みを浮かべながら言った。正直驚いた。でも、

「でも、お前が俺を落とせるのか?」

「なあ⁉う~、覚悟しといてね、この一週間で落として見せるから、多分。」

たぶんは違うくないか。まあいい。

「期待して待ってるよ。」

と俺は愛莉の頭を優しくなでた。愛莉は、顔を真っ赤にして、

「じゃあ私、先にもどね。」

と少し速足で大広間へ戻った。

「アイツ、意外と可愛いな。」

と俺はつぶやき、俺も、大広間に戻った。

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