第二章 

第13話 僕の心は、柔くて脆い

事件後、俺は警察署に同行し、川崎さんから話があった。

「坂下狂は、自分の父親、母親を嵐さんたちが電話をかける3日前に殺害し、今日、18時ごろに嵐さんたちを殺害し、先ほど雪乃さんを殺害した。そして君だけ助かった。」

「これじゃああの日と同じじゃないですか。」

「確かに君はあの日現場にいたが、君はお父さんに守ってもらって当然だったんだよ。」

あの日、僕はまだただの子どもだった。

「それにしても、君の周りは人が死にすぎだ。警察としては君の保護も考えているんだが、……。」 

「何ですか?」

「いや、君のお母さんの再婚相手がさ、……。」



翌日、嵐さん、母さん、そして雪乃の葬儀が行われた。

学校の先生や生徒、親戚、そして、

「おお、君が俺の息子の再婚相手の子だな。」

顔を上げると、和服を着たかなり怖い顔つきのおじさまがいた。

「失礼ですが、お名前を伺っても……」

「何や、嵐から聞いとらんのか。儂は嵐の父親、龍ケ原十四文たつがはらとしふみというもんや。そうじゃなあ、お前の義祖父っちゅう訳やが、本当に知らんのか?」

「い、いえ、何というか、そのー、龍ケ原組の頭の息子としか聞いてなくて……、あっ、なにから何まですみません。」

「気にすんな。若いうちは少ししかないからのう、葬儀代くらいは持たねえ―と嵐からさらに嫌われちまう。」

と言いながら、十四文さんは、遺影の方を見ていた。

「ところでお前さん、今後はどうするんや。」

「今後って、……。」

「お前さんがよければ、大学までは家で面倒見てやれるが、どうする。」

そうだった。俺、あの家に帰っても、誰もいないから。このまま龍ケ原さんにお世話になった方が楽ではあるが、

「いえ、大丈夫です。学校も知ってるので、アルバイトの許可をもらって、アルバイトしながら、高校に行って、就職します。」

「あの家はどうする。」

「あの家からは離れようと思います。一度離れて、また、大人になって戻ってこようと思います。」

僕は、自分の思っていることを率直に言った。

「そうか。君は思っていた以上に彼そっくりだな。わかった。君のために住むための部屋と、生きるための金を私が出そう。なに、心配する必要ない。これでもかなり稼いでいる方なんだぞ、おじさんは。」

とどや顔をしながら十四文さんは言った。

「ありがとう、ございます。」

俺はそれまで堪えていた涙をこらえきれず流してしまった。

「……はあ、すみません時間がかかってしまって。」

「仕方のないことだ。お前さんにとって身内で、俺にとっても身内、涙を流さなくて、何が家族だ。」

僕はこの人のことは忘れてはいけない。いや、覚えていなければならない。たとえ今後の人生、どんなに苦しいことがあっても、どんなにつらいことがあっても、僕はたくさんの人に支えられているということを。

「じゃあ、私は失礼する。忙しい身でね。明日あたり、わしの息子が連絡すると思うが、今日はうちに泊まるといい。」

と言い残し、十四文は葬儀場を後にした。

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