第12話 幸せの崩壊は突然で残酷だ。下

僕らは狭い小道を歩いていた。

「あの雪乃さん、この道で合ってるの?」

「問題ないよ。お姉さんについてきなさい。」

そこが一番心配なんだけど。この人ほぼ完璧なんだけど、方向音痴なのだけは、異常なんだよなあ。

「着いたよ。」

僕らは、小さな神社に出た。その場所は少し高台にあって、僕たち以外の人はおらず、穴場中の穴場である。

「よくこんな所見つけましたね。」

「まあね。私目だけはいいから。」

と顔を近づけながら目を指で指していた。あと、目だけじゃなくて、顔と性格も最高です。

「雪乃はすべてが最高ですよ。」

「ふにゃ⁉」

あーあ。今日も照れさせてしまった。

最近、照れると変な声を出すようになった。

「雪乃さん、最近、猫にでも取りつかれているんですか?」

「別にそんなことは、ないと思うんだけど、何っていうかそのー……猫、かわいいから」

雪乃さん、あんたが一番だよ。

「ていうか、花火そろそろ上がるよ。」

といったタイミングで、花火が夜空に大きく咲いた。

「ねえ、こっち来て」

と雪乃が、神社の階段に座って隣を叩いていた。

僕は、隣に座った。

「きれいだね」

「そうですね」

でも、僕は雪乃の横顔に夢中だった。

それに気付いたのか、雪乃が、僕の方を向いた。

そして、僕の顔を見て、

「ねえ、キス、しようよ」

「そうですね……、キス、しましょうか」

「じゃあ……」

と言って雪乃は目を閉じ、口を少し前に突き出した。

ゴクリ

息をのみ、僕も目を閉じ雪乃の口に自分の口を当てようとした時、

ピピピピピー

スマホの着信音が鳴った。

表示は、母さんだった。

僕と先輩は目を開け、

「いいよ、出て」

「すみません、ちょっと出ますね」

そして、僕は電話に出た。

「よお、あの日以来だな」

それは、聞き覚えのある声だった。

「さ、坂下……狂」

「久しぶりに話す先輩を呼び捨てか。なあ、ちょっとツラ貸せよ。ついでに、お前のお姫様も一緒に」

「待て、母さんはどうした。答えろ、坂下ああ‼」

「今からいう場所に来れば分かるよ。漁港の、第3倉庫だ」

ブチッ

電話が切れた。

「お義母さん、何って?」

笑顔で彼女が聞いた。

でも、すぐに、顔色が変わった、僕の顔を見て。

「坂下が、母さんのスマホを使って掛けてきた」

「なんですって⁉で、あいつは何で掛けてきたの?」

「わからない、でも、漁港の第3倉庫に来いって言っていた。とりあえず、警察にかけて、僕らも行かなきゃ」

と言いながら、僕は、110番ではなく、父親の同期の刑事に電話をかけた。

「あ、川崎さん、ご無沙汰です」

『おう、どうした裕太君』

「ちょっと同行をお願いしたくて、……」

と言って事情と、作戦を伝えた。

『わかった、君たちも、無理しないようにね。すぐに向かう』

「ありがとうございます」

と言って電話を切った。

そして、僕らは第3倉庫に向かった。



倉庫まではそこまで距離がなく、2,3分で着いた。

「よう、待っていたぜ冴河。そして、雨沢雪乃。」

とコンテナに座たまま、話しかけてきた。

「約束通り来たぞ。母さんはどこだ。」

「まあ、そう焦るなって。おい雪乃、お前俺のものになる気はないか。そしたらお前だけは助けてやるよ。」

「死んでもお断りよ。あんたのものになる気はない。」

「そうか、なら、お前らも、アイツらみたいになるんだな。」

と言いながら、倉庫の右端を指さした。

「う、嘘だろ……。」

「お、おとう、さん。」

雪乃は、その場所までまで行き、崩れ落ちた。

そこには、胸にナイフが刺さっている状態で、床に倒れている母さんと、ナイフで何回も刺したのか、形も分からない状態の嵐さんがいた。

僕も母さんのところに駆けつけた。

「そいつらは、俺の父親の過去を調べてたんで、こいつらについて調べたら、被害者の遺族だったんで、話を聞きたいって言われたときは、チャンスだと思ったね。俺は、……」

と言いながら、俺に近づいてきて、

「親父を殺したついでに、親父が殺したがっていたやつらを殺せんだからおおおお‼」

と言ってナイフを突き立て。

俺はぎりぎりでかわし、腕をつかみ、その場に投げ倒し、左足で、坂下の右腕を踏んだ。

「なんで母さんを狙った。一般人だぞ‼」

「だからだよ。一般人を殺した方が、罪が重くなって、人を殺したって感覚があるだろうがああああ‼」

と言いながら、左手で2本目のナイフを握り、俺に刺そうとしてきた。うかつだった。こいつは、左利きだったのだ。

ここで俺も死ぬのか。

覚悟を決めたとき、

「危ない!」

と雪乃の声がして、

ボフッ

鈍い音がした。

「ぐっ‼はああ‼」

雪乃が俺を押し飛ばし刺され、そして、坂下を蹴り飛ばした。

「ゆ、雪乃‼」

俺は、雪乃のそばに駆け付けた。

「チッ‼こいつが先になったか。」

と言いながら、もう一本のナイフを取り出した。

「雪乃‼」

雪乃の肩を抱え込んだ。ナイフは左胸に刺さっていた。

「痛たたたた。私、死ぬかも。」

「バカ、そんなこと言うなよ。助かって、また一緒に笑おうぜ。じゃないと、俺が、……寂しいじゃ、ないか」

堪えきれず涙が込み上げた。

俺の腕の中にいる雪乃の体温が、だんだんと冷たくなっていく。

「フフ、君はこんな時も君だね。じゃあ、一つ約束して。」

「ああ、何個でも約束してやる。だから、死ぬなよ‼」

「じゃあ、……」

と彼女は笑いながら、

「私が死んでも、来世の私とまた恋をしてください。」

その時、俺の涙が止まった。

「もちろんだ。恋どころか、結婚してやるよ。」

「ありがっとう、嬉しい。」

と泣きながら答え、彼女は静かに息を引き取った。

「別れは終わったか。気にするな。お前もすぐに、行かせてやるよ」

「警察だ、そこを動くな」

と言いながら、川崎さんが、銃を構えて入ってきた。

「チッ、クソがああ‼」

坂下は川崎さんに向かっていった。だが、そのまま投げ飛ばされ、そのまま逮捕された。

「連れていけ」

そう言って一緒に来ていた警察官二人が坂下を連れていった。

そして、俺の方へ駆け寄ってきた。

「すまない、銃を持ち出すのに時間がかかった」

「遅いよ、遅すぎるよ‼あんたのせいで、俺は大事な人を三人いや、四人失ったんだ‼」

「本当にすまなかった。俺も気づくべきだったんだ。嵐さんが来ていなかった時から」

「なんで嵐さんについて行かなかったんですか」

「……」

「もう、いいです。ほっといてください」

「じゃあ、俺は現場検証の方に行くから、裕太、君もついてきてくれ。」

僕は彼女を抱え込んだまま、動かなかった。

いや、動けなかった。

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