第9話 僕らの待ち合わせは……。
僕は結衣の家を後にして、いつものあの場所に向かっていた。
「どうして俺じゃ、ダメなんだよ。」
いつものバス停の近くで、聞き覚えのある声がした。
「おい、なんとか言えよ。雨沢雪乃さんよお‼」
カシャン‼
金網を強く押した音がした。
少し陰になってるところから覗いてみると、坂下先輩が、雪乃先輩を壁ドンしているような状態にあった。
「私、あなたのような力で何でも解決しようとする人嫌いなの。あと、私は、彼を、この高校で見つけたわけじゃないの。私たちは、どんなに距離をおいても必ず出会う関係にあった。」
「なんでそんなこと言いきれんだよ。」
はあ~。彼女は、溜息を吐き、
「私たちは、10年前の大量殺人事件の被害者の子どもなの。」
「それって、まだ犯人の捕まってないあの事件か?」
「そうよ。彼は、あまり覚えてないようだけど、私はその日、警察署に集まった時に、彼と会ったの。」
もしかして、あの時の女の子が、雪乃先輩……。
僕は、まだ6歳だった。
あの日、朝から父さんと幼稚園に行き、父さんは、迎えに来なかった。その日、父さんは、通り魔による10人の被害者のうちの一人だった。
「裕太、今日から、お母さんと二人で暮らすの。分かった?」
「お父さんは?お父さんはどうしたの?」
母さんは泣き崩れて、
「ごめん、ごめんね、もう、お父さんは戻ってこないの。だから、だから……。」
そう言った。
僕はその時、6歳ながらにして、父親は死んだんだということを理解した。
そしてその夜、遺族全員が警察署に集まったそうだ。大人たちの怒鳴りたてる声が、廊下まで聞こえてきた。
廊下の奥の方で一人の女の子が、うずくまっていた。
この時のことは、いまだに覚えている。
「どうして、泣いているの?」
声をかけてしまった。
「……。」
この時、女の子は、何も答えなかった。見た目からして、7歳か8歳くらいだったのを覚えている。
「ねえ、お姉さん。どんなに悲しくても、いつまでも泣いていたら、涙で幸せが流れて行っちゃうよ?」
とだけ言って立ち去ったのを覚えている。
そして、坂下先輩に、雪乃先輩は、
「あの日、教えてもらった言葉のおかげで、今私は、私でいられてる。だから、高校の入学式のとき、彼を見たとき思ったの。あの日の面影が残ってて、びっくりしたけど。私は、この人じゃなきゃダメだって。この人となら、恋人になれるかもしれないと。だから、あなたとお付き合いすることはできません。さあ、離れてくれるかしら。」
と彼女は言った。
「……ざけんじゃねー。」
「まだ何かあるの。もう少しはっきり言ってくれるかしら。」
「ふざけんじゃねーよ‼なんでみんなあいつなんだよ。俺が好きになった2年も、お前も、みんなあいつじゃないか。ああもう我慢ならねー。このままあいつにとられるなら、……。」
坂下先輩は不気味な笑みを浮かべていた。
「あなたなに考えてるの?」
少し雪乃先輩の顔が青ざめた。
「お前が経験ないのは知ってるよ。だから、今ここっでおまの処女を奪ってやるんだよお‼」
と言いながら、坂下先輩は、制服の上着のボタンを勢いよく開け、左手で先輩の両手を抑えた。
「やっぱ、女は、肉体で分からせてやらなきゃいけねえなあ‼」
「いや、やめて、本当にそれだけは……。」
先輩は、涙目になりながら、言った。
抵抗しているが、力が足りてない。
ヤバイ、先輩が襲われてる。このまま放置でもいいが、先輩、性行為が一生のトラウマになってしまう。助けよう。
そんなことを思ったときにはもう、アクションを起こしていた。
「痛ってえなあ!」
すでに、坂下先輩を殴り飛ばした後だったのだ。
少し笑みを浮かべながら、
「今の一発で許してあげますんで、……」
といい、そして、坂下先輩をにらむようにして、
「失せろ、このクズが。次先輩に手ェだしたら、殺すぞ。」
坂下先輩は、口を切ったのか、口元の血をふきながら、
「もういい。その女も、お前も、地獄を見ることなるぜ。」
と言いながら、去って行った。
「先輩、大丈夫ですか?」
「君、タイミング見計らってたね。なんでもっと早く来てくれないのよ。」
少しだけ起こっているご様子だった。
「先輩って処女だったんですね。」
というと、顔を真っ赤にしながら、
「何よ、処女で悪いわけ‼」
恥ずかしさを隠すために起こってるように見せているが、そっちの方が可愛い。
「先輩、これ、男用ですけど、よかったら、使ってください。」
僕が取り出したのは、未使用の高校のバ男子用のカッターシャツ。今日は体育があったため、一応替えを持ってきていたのだ。
「君はあの人いい、今日といい、準備がいいね。」
と言いながら受け取った。
「準備は少し多めの方がいいんですよ。」
「何それ。フフッ。」
やっぱりこの人の笑顔は最高だな。
「先輩、約束覚えてますか?」
「約束?」
「昨日の夜したじゃないですか。これからは、僕らはパートナーだって。」
「だから助けてくれたの?それでもうれしいよ。」
先輩は着替えながら言った。
「よし、着替えた。じゃあ、そろそろ、帰ろっか。」
「そうですね、先輩。」
「違う。」
彼女は恥ずかしがりながらそう言った。
「二人のときは、そうじゃないでしょ?」
上目遣いは反則です。
「わかりました。……。」
僕は呼吸を整え、
「帰ろう、雪乃。」
と言うと、
「うん‼」
最高の笑顔で答えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます