第5話 噂って恐ろしいと痛感した 昼休み

教室に戻った後は、だれ一人話しかけてはこなかった。

まあ、理由は簡単だった。三年生に呼び出されて無事に帰ってきているのだから。それから僕は、自分の席に戻り、ホームルームが始まるのを待っていた。

「なあ、あいつ三年生に勝ったのかな?」

「知らねーよ。無傷で帰ってきてるってことは、きっと勝ったんだろう。」

「じゃあ、賭けようぜ。俺は、見逃されたに一票。」

「なら俺は、勝ったに一票。」

「俺も勝ったに一票。」

「負けたやつは、勝った奴にジュースな。」

そんな会話が席後方から聞こえてきた。

少し眠い

僕は、内心そう思いながら、机に伏せた。

だんだんと退いていく意識の中、誰かから、背中を叩かれ、現実に意識を戻した。

振り返ると、そこにはいつか見たイケメンがいた。

「今朝は大変そうだったな。」

「氷雨、見てたんなら助けてくれてもいいじゃねーかよ。」

今更になったが、今しゃべってるやつが藍澤氷雨、俺の唯一の友人にして、最強のイケメンだ。

「いや、僕は裕太と違って朝の時間を有効に使う義務が課せらていてね……。」

「で、今日の出待ちは誰だったんだ。」

「僕の話スルーなの。まあ、そういうさっぱりしてるところが気に入ってるんだけど。今日は、確かA組の金井沢さんだったと思う。いや、かわいい子が家の前で待っていてくれるのは、幸せを感じているよ。」

「お前、一回死んだほうがいいと思うよ。悪いこと言わないから、クラスの後ろの方見てみな。周りが殺気立ってるじゃん。」

「大丈夫だよ。日頃努力もしていないやつが悪いんだからさ。」

そういうと、後ろのさっきはなくなり、反省会モードになりつつあった。

「で、結局どこまで行ったんだ。キスした?いや、もうヤった?実は、もう子供もいたりして。」

「煽るなイケメン。お前と違って僕は慎重なんだよ。」

僕はイスに深く腰掛けた。

「それただの臆病なんじゃないの。本当は向こうも、求めてるかもしれないぞ。」

と言いながら僕に顔を近づけてきた。

「それ本当か?」

同じように顔を近づけた。

「これは保健室の先生から聞いた話なんだけどな、実は女子の方が今は性欲が……。」

「ちょっとあんたら何話てんの。」

と後ろから声がして、一発後頭部にお見舞いされた。

「痛って―な、なんで僕なんだよ。」

振り向くと、いつもつるんでる身長が高めの女の子が、戦闘態勢で立っていた。

「前に座ってるあんたが悪い。」

こいつの名前は、坂本結衣さかもとゆい。バスケ部のエースで、大人しければ、とても可愛い。

「もうよかったんだね、部活のミーティング。」

「ていうか藍澤、あんた教室でなんて話してんの。」

少し不機嫌のようだ。

「で、今日は何懸けて勝負する?掃除当番?一週間パシリ?」

と笑顔で勝負を持ち掛けてきた。さっきの一発分を返すチャンスだ。

「明日までの課題でどうだ。」

僕はあくどい笑顔を浮かべて言った。

「いいね、それで行こう。」

「ちょっと待って、そういうのは自分でやるから意味があるんじゃ……。」

今日はしぶといな。

「なあ結衣、勝てばいいんだよ、勝てば。勝ったらお前の嫌いな勉強をしなくていいんだよ。どうするんだ。それとも、負けるのが怖いのか?」

ここまでやれば乗ってくるだろう。

「誰がビビってるって。」

「そこまで言ってないけど。」

「やってやろうじゃない。どんな勝負でもかかってきなさいよ。」

ハイ、こいつバカ確定。これでこいつは負け確定だ。

「勝負は、これでどうだ。」

僕は引き出しからトランプを出した。

「今日は大富豪にしよう。」

「「意義ナーシ!」」

ということで、僕らは、大富豪を始めて、五分後、結衣の負けが確定した。

「それじゃあ、」

「そうだな。」

僕らは息をそろえて、

「「結衣、宿題よろしく。」」

「あんたらサイテー!!」

ノートを受け取りながら、彼女はつぶやいた。

「あ、そろそろ授業が始まるな。じゃあ、今日はお開きということで。」

と氷雨が言った。

「ああ。」

「それじゃ。」

僕以外は、それぞれの席に戻っていった。

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