【雑記】23時19分

 通路を歩いていると、少女が厨房内を見回しては歩き回っている。

 付き添いもいるが、フリルが着いたドレスの足取りは拙い。梳られた髪も、よく見たら少し枝毛もあるのだから、買われて間もないだろう。富豪が目をつけたのは、大きな青い目と、裂けば程よい朱で彩れる白い肌だろう。少女と自分が目が合うと、そそくさと駆け寄って耳打ちを促した。

「あたし、私ね、髪飾りを忘れたの、白い百合で.......お風呂に入る間、お屋敷まで取りに来て下さる? お気に入りなの」たどたどしい言葉遣いだが、了承して、そのまま彼女を洗浄室へ連れてってやった。

 数時間後、クライアントの富豪から百合の髪飾りを渡される。それをそっと、敷きづまに見立てた髪の束の上に載せた。突然の余興は、クライアントの些細な気紛れなのだから慣れていた。

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