【雑記】23時17分

 客の気まぐれで、注文の一つだった洋菓子を貰った。咥えて厨房に戻るや否や、燻製室の中で男女が絡み合う姿を見つけた。

「ああ、あれは宝石だ」「宝石?」料理人曰く、客がミディアムレアまでの生焼きを所望するとそう呼ばれるらしい。皮膚をゆっくり炙り、瞑って息絶えたと思ったら、水分たっぷりの眼球が転げ落ちる。その頃合いの状態が、最も美味しい時頃だと言われている。

 暫く見るが、男女の動きが鈍くなる。女の髪が電熱線に絡んだかと思えば、事更に表情を歪めた。

「良いの、顔直さなくて」「いずれ接着される。気にするな」料理人か上部の換気扇を付ければ、焚かれた足取りで二人はファンを仰いだ。髪を焼いた香りが、鼻先を掠めた。

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