【調理】金髪碧眼のローストとシュークリーム【※よその子拝借】

依頼人

黒髪褐色の青年【後に自己申告で■■■■音声解読不能と判明】


・金髪碧眼の青年【本人の強い要望により、青みの強い瞳孔と蜂蜜色のブロンドを持つもの】

迷迭香ローズマリー鼠尾草セージ

・薄力粉

・塩コショウ

・マンドレイクの腫瘍、玉葱

・グレービーソース【料理長の意向で極秘】


焼いた肉が食べたい、そう思いましてね。

出来れば肉汁をたんと味わえて、素材そのものを噛みしめつつ、それで腹が膨れてしまうような。

この体、頑丈なんですがやや不便でしてね。鬼……ではあるので、生命の生気を摂取してないと足取りがすぐ怪しくなってしまうのですよ。人の肉はその中でも上質に味わえるのですが……さりとて社会人に紛れ込む中でずっとそうはいかず、常時野菜ジュースやサラダを。それでも質はどうあれ採れているので、それで食いつないでいますね。

 幸い、ヒトには恵まれていますので、経口摂取ではなく粘膜での接種……うん、貴方で言うところのやんごとなきことでも大分事足ります。むしろ、その方面には協力的な方もいらっしゃるので楽ではありますね。それに、相性があれば大層気持ちよくなりますし、何せ激しさに後味の悪さがない。

 後味……、ああ、よくあるんですよね。人って抵抗すると抵抗してきて、爪の間に僕の血肉が混じってしまって、時折それでひどく不味く感じてしまう。種族の性なのか、習性なのかはさておき、理屈を持つのであれば僕はその世界において生きているかは非常に不安定なものかと思います。


 だから生きている者を食らうしかない、それ故に死肉なんて旨味はない……と言ってみます。理屈は定かではありませんが、貴方は人間として理屈を欲しているのでは、と顔から伺いました。どうあれ、僕はこの体が変わることはないと思いますが、存外悪くはないと思っておりますよ。それに気持ちいいですし、捕食は。


 しかし……まあ、それだけでは物足りなさはあります。満ち足りていますが、ある種の惜しさです。名残惜しさ、郷愁、舌の渇き……口使いには自信はありますが、たまに止まってしまうことも多々あります。何かが足りない。煙草の代わりに飴を舐めるような、ブランデーの代わりにトリュフを啄むような、その惜しさが貴方にも共感頂けるでしょうか。

 要は、舌がもう覚えてしまっているのですよ。酸いも甘いも、後世僕は人と時折騙る様に何かを口にしても、化物として体ごと受け入れられても。記憶としてはまだ食べてしまったことが残ります。

 罪悪に嘔吐えずく、だなんて可愛らしい時分でもないので。少し、悩みの種でした。特に相手と同居していると困ったものなんですよ。少し、相手がだらしなく白い首を、擡げるだけで視線がそこに集まってしまう。脈が入り乱れて、神経で噛み応えのよさそうな、薄い薄い皮が。でも彼らとの朝食は悪くないのだから、その時ばかりは耐えるしかない、そんな悩みです。


 蜂蜜色の髪色に。青みの掛かった、暗夜の中でも光るだろう瞳孔。そんな彼が好きなので……ですが一度では勿体ない。だから折角なので言えるだけ、一か月前に貴方の主人にお願いしました。素性は選ばず、暗くても光り輝くその容姿と、華美な衣装を取っ払った丸焼き……彼、同居の方は自分には無頓着の癖して格好は良くてですね、余計、醜く焼かれたものを欲していたかもしてません。白い肌なんですよ、薄くて、血管や鬱血もしやすい。本当に身を裂けば今までの見るに堪えない食材と同じ色味をしている、そうは思えないほどに、だからこそ止められなくなりそうでしたね。

 その容姿……頬肉は惜しいのですが、その首と向かい合わせに食べる。勿論、貴方方が捕まえた人間であって「彼」ではないのですが、でも彼にお願いすると怒られてしまいそうですしね。眺めながら、こういう味かと耽けながら口にする。今の僕にはこうした気慰めで好いかもしれません……でもなんだか、それだけで済むような予感はないのですが。


 とはいえ、一人分の生気を頂くのですし、少しお願いもしてみました……こうして彼が運ばれるのが楽しみです。

 ところで、貴方はシュークリームはお好きでしょうか? 僕も好きなんですよね。だからデザートに……少し付け合わせは特殊ですが、シュークリームを頼みました。しかしメインディッシュがこんなにも早く済んで頂けるとなると、ちょっとデザートも気になって。存じ上げて居れば少しだけ教えてください。


──ジャムを付け合わせた物、成程……それは彼の骨肉を砕いた物とか、そんなところでしょうか?

ああ……いえ、それはお楽しみにとって参りますね……僕、少し笑ってます?いやだって「彼」も甘い砂糖菓子が好きなもので……合っていたら嬉しいです、とだけ。少し先走ってしまうと楽しみになってしまいますね。


 ああ、そうそう。遠い未来、彼がここに来た場合、僕がここで食事をしたことは秘密にして頂きませんか?直ぐ拗ねてしまうもので、ましてや気慰みで行っていただなんて、落ち込んでしまうかもでしょうし。


 料理、もう運ばれて来るようでしたら、宜しければ貴方もご一緒できますか? 話し相手は多ければ好いですし、暗闇に光る姿を、貴方にも分けるのも悪くないと思いまして。

 色々、それこそ貴方がこの世界で生きた話も、僕の話も程々に搔い摘める程度に……僕が本当に何なのか、については、遠い機会のお話になるでしょうが、楽しみましょう。



【備考】

 にしきたなつき様作「朱色の喪失」の登場人物獅黒さんを交えた二次創作作品です。この場をお借りして、キャラクターの借用有難うございました。

本編リンク↓

 https://novelup.plus/story/310823478

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