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思わず飛び出した言葉を引っ込めるように、口を押える。いつから僕はこんなに強欲になったのだろう。去る者追わずのスタンスじゃなかったっけ? 思考を巡らせる。
今日の夕方は露骨に避けられたから追いかけたくなっただけだし、もっとさかのぼれば飲み会の時は心配だったからついて行こうと……。
(あれ……?)
あの時、閑野ちゃんは戸田ちゃんを抱えていたとはいえ、自分の荷物と戸田ちゃんの荷物くらいを持てる筋力はあった筈だ。そんなに重くなかったし、戸田ちゃんもあまり動かなかったから、運ぶのは困難では無かっただろう。
じゃあ、何で僕は……。
「うーん、無い事はないんだけど、芽玄くんの同意がないと駄目だからな……って、どうしたの? 顔真っ赤だけど」
「……なんだ。最初っからじゃん……」
先生の不思議そうな顔には目もくれず、一人でそうぽつりと零す。
閑野ちゃんにあったあの飲み会から、今まで。僕は自分の気持ちに気付かずにいたのか。いや、気付いていたのかもしれない。無意識に閉まっていいただけで。ずっと。
そう考えると、すとん、と
「大丈夫……?」
「あ……すみません。上手く自分の中で解決しました」
「そう? それならいいんだけど」
無理矢理視界に入ろうとしていたのか、立ち上がりかけていた飛騨先生は、改めて座り直し、僕の方へ向いた。
「それで、さっきも言ったんだけど。前のように話せる方法は一応無い訳じゃない。ただ、それには大きなリスクが伴って、最悪、間違うと芽玄くんが死ぬ」
「……それは?」
「簡単に言えば、キスをすること。詳細に言うのであれば、体液交換をすること。でも、そうすると来瑪くんで溶けなくなるけど、その代わり別れた瞬間芽玄くんは居場所を失って溶けるんだ」
「ちょっと待ってください。え? あいすくりぃむってろーそくが隣にいなくても溶けたりするんですか?」
「え、ごめん言ってなかったっけ? するよ。そもそも熱に弱いから、何も持たずに外に出たら十分そこいらで溶け始める」
ふと閑野ちゃんを思い出す。特に周りに人はいなかったし、何か持っている様子もなかった。
「閑野ちゃんは何もつけてなかった気が……」
「あぁ。芽玄くんは左耳にピアスしてるでしょ? それ抑制品。コーンキーって界隈では呼んでるよ」
一際閑野ちゃんの容姿の中で目立っていた真珠のピアスを思い出す。あれにそんな意味があったとは思わなかった。
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