第11話 一日の最後
さあ、観光だ。一度行きたいと思ったら桜来はもううずうずしてたまらなかった。
ギルドの依頼はひとまずここで打ち切って、桜来は和音を誘って観光に繰り出すことにした。
ここはマグマク島。海上にありながら日本のような景色が広がっている。観光地にはいろいろあった。
「おお、奈良みたいな大仏がある」
「立派ね」
「スカイツリーみたいな塔がある」
「高いわね」
「京都駅みたいな大階段がある」
「昇るの大変そうね」
「鳥取みたいな砂丘がある」
「ここって本当に日本みたいね」
電車に乗っていろいろ見て回った。桜来と和音は旅行を満喫した。
夕食を食べて温泉に入って元の場所に帰って来た時にはもう夜になっていた。そこで桜来はハッと気づいた。
「夜のパレードを見なくちゃ!」
「中央の通りで行われるようね。急ぎましょう!」
桜来と和音は急いでパレードの行われる中央の通りへと向かった。途中の夜店で綿飴ややきそばを買って現場に着いた時にはもうすでに多くの観光客が集まっていてパレードが始まっていた。
「何とか間に合った!」
「思ったより凄いわね」
夜のライトに照らされて行進するパレードはとても綺麗で壮観で、桜来と和音はまるで自分達が夢の世界に迷い込んだような感動を受けた。
そんなパレードもやがて去り、空には花火が上がった。
大きな大輪の花が空に上がっては消えていった。桜来と和音は最後まで一緒に見ていった。
放送が終わりを告げるとともに観光客が解散していく。桜来と和音も帰る時間になった。今日はここまでにしよう。
そう思い、桜来は和音に訊ねた。
「今日はどこの旅館に泊まるんだっけ」
「え? もう帰るのよ」
「え?」
桜来はタヌキに摘ままれたようにびっくりした。そして、言葉を飲み込んで言った。
「もう帰るって? この島から出ていくの?」
「そうよ。本部からそう連絡があったの」
「でも、好評なようなら二日目以降の延長が認められるって」
「好評じゃ無かったんでしょうね。偉い人がお金を出したくなるほどには」
「そんなあ。まだスタンプ全部集めてないよ。まだまだ謎の多そうな島だし、三大脅威のサインだって一つしか無いし、ギルドの依頼だってちょっとしかやってないし、多くの出会いがきっと待ってるよ」
「本部の決定なら仕方ないわ。この島はまだまだ面白そうだけど、それはきっと後の冒険者が何とかするんじゃないかしら」
「仕方ないか」
「明日から仕事もあるしね」
「へ? 仕事あるの!?」
「平日だもの。10連休はもう終わったのよ」
「うへえ、やるしかないか」
桜来は明日からの仕事を思って震えた。きっとたくさんあることだろう。ならばいつまでもここに留まっているわけにはいかなかった。
夜の道を歩き、桜来と和音は港から船に乗り込んだ。二人は夜風に吹かれながら遠くなっていく島を見つめた。パレードは終わったが島にはまだまだ活気があった。
短いようで長い旅だった。いろいろあったなと思いながら桜来は感慨に耽っていた。
「また来れるわよ」
その思いは和音もきっと同じで、二人は一緒になって遠く去っていく島を眺めていた。
「またねマグマク島」
明日からまた仕事がある。
島が見えなくなるまで見送って、桜来と和音は船室に戻って眠りに就くことにした。
2019年5月10日、突如海の上に海上都市が現れた。そこはマグマク島。
この島が開発した謎のテクノロジーにより、物語の創作者は自分の作った物語の世界からキャラクターをこの島の限定された空間でのみ具現化することができるようになったという。
多くのクリエイターが訪れたそこは今もまた新たな客が訪れるのを待っている。
桜来と和音の島訪問 けろよん @keroyon
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