第8話 巫女はてんてこまい
レストランは探すこともなくすぐに見つかった。
ここは観光地だ。人のいるところにレストランもある。商売なので隠れて営業する人もいないだろう。
あまり高価な食事をするつもりは無かったので、桜来と和音はごく普通のファミリー向けのレストランに入って席につき、どこででもするように普通にメニューを見て食事を注文した。
待っている間に二人で話をした。
「店ってのはどこも変わらないな」
「変わったことと言えばメニューが日本語だったことかしら」
「それのどこが変わってるんだ?」
「だって、ここ日本じゃないんでしょう? 人も色んな人がいるし、不思議な島だわ」
「言われてみれば」
不思議な島だと思う。マグマク島に築かれた海上都市。ここには様々なキャラクター達が訪れている。
色んな人種がいるってのは観光地らしい光景だとも言えるが。
桜来は落ち着いて水を飲もうとして……慌てて吹き出しそうになった。
「おい、和音、和音」
「何よ、鳩が豆鉄砲を食らったように」
「あれ見ろよ」
「あれ?」
振り向いた和音の見る先。そこには四人の巫女さん達が来店してきていた。和風の美人さんと小柄で背の低い子と今風の女子らしいのと金髪の外国人だ。
みんな白衣を着て緋袴を穿いていた。
和音はそっと視線を桜来の方に戻した。
「何よ、ただの巫女さんじゃない。神社とかでよく見るでしょ」
「プライベートで見るなんて珍しいだろ。巫女さんでもこういう店に来るんだな」
「そりゃ来るでしょうよ」
巫女さん達はこれからどうするのだろうか。桜来はそっとメニューを見る振りをして様子を伺っていたが……
「有栖ちゃん、ここが空いているわよ」
「はい、そこにしますか」
「舞火の選んだ店で大丈夫かしら」
「四人掛けの席でーす」
彼女達がすぐ隣の席に来たのでびっくりしてしまった。食事が来るまでの間、桜来は隣の席の様子を横目で伺った。
巫女さん達はそれぞれの注文を決めたようだ。ウェイトレスが去っていく。このまま眺めていても良かったかもしれないが、桜来は我慢が出来なくて思い切って声を掛けることにした。
「ハロー、ユー達はジャパニーズですかー?」
ついテンパって外国でするような挨拶をしてしまった。巫女さん達はしばらく不審者を見るような目で見ていたが、
「イエス、ミー達はジャパニーズです」
「ジャパニーズジャパニーズ」
金髪の外国人巫女さんが気さくに応じてくれて、桜来はつい彼女と手を取り合って喜んでしまった。
「エイミーは日本人じゃないでしょ」
今時の女子っぽい人が呆れたように言う。和風の美人さんが隣の小柄な子の袖を引いて耳打ちしていた。
「有栖ちゃん、この子大丈夫なの?」
「はい、悪霊ではありません」
その背の低い子供っぽい子はそう言ってから立ち上がると礼儀正しく頭を下げて挨拶してきた。
「初めまして。わたしは伏木乃有栖。日本の伏木乃神社から来た巫女です」
「初めまして、神々廻桜来です」
伏木乃神社というのは聞いたことがないが、何だか子供だと思っていたらしっかりしていて、桜来はびっくりしてしまった。さらにエイミーが衝撃の事実を告白する。
「有栖はミー達の親分なのですよ」
「えー、この子が親分なの!?」
「ハハ、何とかやっています」
「そして、このわたしが有栖ちゃんの一番弟子の花菱舞火よ!」
「ちょ、誰が一番弟子。東雲天子よ」
「後輩のエイミーですー」
何だかあっという間に自己紹介が出来てしまった。同じ日本人同士だからだろうか。一人は外国人だけど。
すっかり隣の席にいついてしまった桜来に、和音ははっと我に返った。
「わ、わたしは神々廻和音よ!」
ここは故郷から遠く離れたマグマク島。みんなが楽しんでいる観光地だ。こんな場所で仲間はずれにされるのは御免被るところだった。
それからお互いに食事を取りながら話をした。
「有栖さん達はここへ悪霊を退治しに来たんですか」
「ここにも悪霊っているんですか?」
「はい、でもほとんどは害の少ない下級悪霊だから大丈夫ですよ」
「わたし達が退治して回ってるしね」
「さすがに中級が来れば大変になるけどね」
「あれは大変でしたねー。でも、ミー達が勝ちました」
どうやら彼女達はそれなりに経験と場数を踏んできている巫女のようだった。ただバイトでやってるだけの形だけの巫女では無いようだった。
桜来はウズウズして思い切って言う事にした。
「あの、もし良かったら一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」
「え? 写真ですか?」
有栖は驚いたように目をパチクリさせている。
「いいですね、写真。ミーも撮りたいです!」
ありがたいことにエイミーがすぐに乗ってきてくれた。もしかしたら気が合うのかもしれない。だが、賢そうなお姉さんの舞火が一つの条件を付けてきた。
「一つ条件があるわ」
「条件?」
その意味深な雰囲気に桜来はごくりと唾を飲み込む。大和撫子に見える彼女はどんな注文を付けてくるのか。
舞火の付けた条件はこうだった。
「それは有栖ちゃんを中央の一番目立つ前列に配置して、一番綺麗に可愛く撮ることよ!」
「そういうことなら」
桜来は舞火と握手を交わした。商談成立と思っていたら、天子が待ったを掛けてきた。
「ちょっと勝手に決めないでよ、舞火。知らない人と写真を撮るなんて有栖の迷惑も考えないで」
「わたしなら構いませんよ」
「さすが有栖。太っ腹な親分でーす」
「嫌ならあなただけは映らないでいいのよ」
エイミーが喜んで、舞火が犬でも追い払うような仕草をする。天子はぐぬぬと唸り、諦めの吠え声を上げた。
「分かったわよ! あたしも写真に写るわよう!」
そして、食事を食べ終わり、店を出てから映りの良さそうな場所に移動して一緒に写真撮影をさせてもらった。
言われたように有栖さんを中央の前列にして。彼女はちょっと緊張しているようだった。親分と呼ばれていても、やっぱり年相応の子供のようだった。
有栖さん達はこれからも仕事と観光をするようで、その場で別れた。
見送って桜来は本物の巫女さん達と写真が撮れてラッキーだったなと思ったのだった。
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