異世界転位 166話目




「ん~、いい買い物が出来たな。」


「我々も儲かりましたよ、ドワーフの氏族で白金貨15枚も入ってきますから。」


「今年は多くの食料を買っていけますよ!」


「「「ハハハ!」」」


「「お前ら少しは隠せよ!」」


ケンは支払いをして冒険者ギルドと帝国にそれぞれ白金貨10枚づつ渡し、ドワーフを受け取っていた。


「ペトラ嬢、これは問題ですぞ? いくら冒険者ギルドが中立とは言えこの様に露骨にするとわ。」


「それに帝国のお前、近衛騎士だろ、帝室も関わってると取られかねないぞ?」


「あー、あんまり2人を責めるな、こりゃ最初から決められていたことだし、俺も剣聖の願いじゃなかったらこんなことしてなかったよ。」


「剣聖の頼み? お前は剣聖とも知り合いなのか?」


「ああ、昔にちーっと会ったことが有ってな? 何にしろこのドワーフ達は剣聖の弟子達の剣を鍛えてる部族の一部らしいんだわ。」


「なんと、それなら帝国で保護されように!?」


「侯爵閣下、さっきも言いましたが一部なんですよ、何でも剣聖の鍛冶は5部族がやっててそこの赤石の腰飾りとか言う部族の分家らしいんですがね……?」


「……新しい部族長を誰にするかで揉めて、わし等は中立としたんじゃが新しい部族長に絶縁されてしまってな……。」


「それを聞いた剣聖が俺に保護して欲しいと頼んできたんだよ、でも俺の最低条件が黒石に詫びを入れるってことでして。」


「わしもさっき聞いたんじゃが、追い込まないと条件を飲まんだろうからと、ひと芝居打たれたんじゃ。」


「まぁその迷惑料だな、帝国と冒険者ギルドに渡したのわ。」


「そう言うことだったのか……。」


「こっちも黒石を掴む手が親族の氏族を集めて部族になろうとしているからな、他の部族から絶縁されて追い出されてるし黒石とは敵対しているのを入れるのはあまりよくないと思ったんだが……剣聖に頼まれちまったからなぁ?」


ケンの言葉にフッとアイヒベルク侯爵は疑問を持ち、聞いてみることにした。


「フェルデンロット子爵がそこまで気を使うとは珍しいな、私も何度か会ったことが有るがそんなには気難しい方ではないし、何かあったのか?」


「いやぁ昔にちょっと揉めて、アイツの愛剣を折っちゃった事が有るんですよ。」


「お、お前、愛剣ってまさか、剣聖達が代々の剣聖に引き継いできた、月影じゃないだろうな?」


「そうだが何か?」


「このアホゥがあぁぁぁ! 死んで詫びろ、いや俺がぶっ殺してやる!」


「止めんか。」


フェリクスは怒鳴ると殴りかかろうとするが、アイヒベルク侯爵に止められしぶしぶ引き下がる。


「お前な、剣を使う者の憧れである月影を折るだなんて、何考えてやがるんだ……。」


「何言ってやがる、俺だってドライトにもらった槍の穂先を切り落とされたんだぞ?」


「ドライト様にもらった……神器ではなかったか?」


「ええ、まぁすぐに生えてきたんですけどね? 代わりに切り落とされた穂先を強奪されましたが。」


「……前から気になってたんだが、その槍の素材って何なんだ?」


「ドライトの爪とそこらに有った鉱石を混ぜたもんだ、アイツが暇潰しに作って俺にくれたんだ。」


それを聞いて全員が驚く、神と同格の龍の爪である。 どれだけ恐ろしい性能を秘めた槍なのかと、あと生えてきたってなんだ?とも。


「それでか……わし等の部族に修復依頼がきたのじゃが、誰も剣聖様の剣を直せなんだ。 同時に持ち込まれた何かの欠片は焼こうが魔力を込めようが傷すらつかなんだ。」


「あれ? でも剣聖様の剣が折れたなんて聞いたことがないぞ?」


「それなんじゃが、途方にくれたわし等の鍛冶師の1人が折れた月影の上にその欠片を置いたら、月影に吸い込まれて光ったと思ったら直っていたそうなんじゃ。」


「そんなことが有ったのか……。」


そう言ったフェリクスがふと顔を上げ、ケンを見ると聞いてくる。


「なぁ、その槍の穂先って残ってないのか?」


「ん? 何個かに砕けたから有るぞ。」


そう言ってケンは自分の魔法袋から欠片を取り出す、するとフェリクスはその内の1つを素早く奪い取ると、ケンが文句を言う間もなく自分の聖剣を取り出すとそれに押し付けた。


「お前何を!……って、そう言うことかよ。」


ケンが怒って止めようとしたが、フェリクスの聖剣に吸い込まれたのを見て諦めて言う。


「しゃーねぇなぁ、白金貨1000枚で勘弁してやるよ。」


「……は?」


「は? って、俺の穂先を使ったんだから金払え。」


「嫌に決まってるだろ?」


「ハハハ、ぶっ殺すぞ?」


「殺れるもんならやってみな?」


「………………。」


「………………。」


「たっだいま~!」


「やっぱロットリッヒは都会っちゃね、美味しい露店がたくさん有った……何しとるん?」


エルフリーデとリンカは、買い取った奴隷と食事を取って帰ってくると、剣と槍で無言で押し合っているフェリクスとケンを見つけるのだった。




「で、それが聖剣なの?」


「ずいぶんと形が変わったちゃね?」


フェリクスの持つ聖剣は、普段はみすぼらしいブロードソードにしか見えないが、フェリクスが持ち力を込めると光り輝くブロードソードになるのだ!


つまり何にしろブロードソードなのだが、フェリクスが今持つ剣は大剣だった。

ドライトの爪入り槍の欠片と同化した後、フェリクスが力を込めるといつも使っている大剣と同じ大きさになったのだ。


「おい、ちょっと俺にも持たせてみろ、代わりにコイツを持たせてやるから。」


そんなフェリクスの大剣を眺めていたケンが、自分の槍を取り出すとフェリクスと交換する。 そしてケンが大剣を握り締めて力を込めると光輝き、光が収まるとケンの手元にはロングソードが握られていた。


「おお!? 俺の聖剣の形が変わったぞ!?」


「フェリクス、お前も俺の槍に力を込めてみろ?」


驚くフェリクスにケンがそう言うと、フェリクスは戸惑いながらも手にしたケンの槍に力を込めると、ケンの槍も光輝き形を変えハルバートになる。


「こいつは……。」


「アイツの爪が原因だろうな……おい小僧、お前も試してみろ。」


ケンはそう言うと、リルトンに聖剣を投げ渡す。 さすがにフェリクスもムッとしたが、どうなるか興味を引かれたようで黙ってみていた、だがリルトンが握ってウンウン唸っても何も変化が起きず、普通のブロードソードのままだった。


「力の差か?」


「そうだろうな、何にしろ強化はされているようだしありがたく使わせてもらう。」


リルトンから聖剣を返してもらうと、フェリクスは自分の亜空間にしまい込んでしまう。


ケンも自分の槍をもとに戻すと亜空間にしまう、そして空気が少し落ち着き静かになったときだった。




ドカ!


「このアホ供! 早くフェルデンロットに行きますよ!」


ペトラがドアを蹴破ってやって来たのだ、しかも小わきにはアルマとポリーを抱えてチェルシーを背負っていた。


「な、なんだペトラ嬢、漏れそうなのか?」


「このアホゥ! 早くフェルデンロットに行くと言ってるでしょが! 話を聞いてないんですか!?」


「い、いやそれは聞いてるが、何だってそんなに急ぐんだ?」


「かぁ~、この腰振りマシーンが! 暗殺されたく「ぺ、ペトラさん待ってって!ハァハァハァ……」パールさん?」


「ヒィハァヒィハァ……ちょ、ちょっと待ってて……ふぅ、ご主人様、チェルシーちゃんから話を聞いてないんですか?」


走って追いかけてきたのだろう、パールは息を整えてからそう聞いてくる。


「何をだ? ペトラ嬢がションベンを我慢して事しか知らんぞ?」


「そんなことじゃないわよ! フェルデンロット山脈がゴブリンに占領されたって報告を受けてないのかってことよ! ハァハァハァ!」


「……な、なんだとー!? って前にも似たようなことを叫んだ気がする。」


ケンが何時に言ったかな?っと悩み始めた横で、フェリクス達が慌てて立ち上がるのだった。



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