異世界転移 147話目
「ダンジョンが有っただぁ?」
「は、はい。 ロットリッヒの北側でフェルデンロットからは東方、フェルデンロット寄りにダンジョンが発見されました。」
朝早くにフェルデンロットに帰還したアランの緊急の報告に、ケンは幹部達も召集し執務室で話を聞いていた。
そしてアランの口からでたのは、思いもしなかったダンジョン発見の報告だった。
何にしろ、ダンジョンを見つけた以上は何かしらの対策をとらなければ、モンスターあふれるなど碌なことがないのでケンはクッコネンに視線で合図を送ると、クッコネンは鍵付きのかなり頑丈な戸棚から2枚の地図を取り出す。
それは邪神戦争前のものと、最新のものだが確認されている箇所のみが書かれているものだった。
邪神戦争前のものは正確だったが古すぎて地形などが変わっているところが多々あり、最新のものはロットリッヒとフェルデンロット間の街道と、今後に主要街道になるであろう場所と優先的に開発が進められる予定の場所のみが探索されて書かれているものだった。
「それで、どの辺りだ?」
「……ここですね、フェルデンロットの東方でロットリッヒの北西のこの辺りです。」
「ここか? またこんな所のをよく見つけたな?」
「はい、ここの近くの開発予定地がハロネン子爵の領都になる予定地で、邪神戦争前の領都でもあったそうなのです。
それで冬の間に確保しておこうと、ロットリッヒから冒険者のクランが3つ送られていたそうなのですが、そのうちの1つ、楽園の探索者というクランのパーティーが周辺の偵察中に見つけたそうなんです。」
「アルヴァーのところか……最近見かけねぇと思ったら、そんなことをしてたのか。
ってか、ダンジョンが見つかったからって、緊急で報告することか?」
よくよく考えると、ダンジョンの1つ2つを発見したからと言って緊急で会議を開くほどの事ではないと思ったケンは、そう言ってため息を吐くと解散を宣言しようとしたが、アランがそれを遮って言う。
「それが、楽園の探索者のミルカとカウノのパーティーが探索に入って、帰ってこなかったのだそうなんです。」
「あの2人がか!? そうか……アホな2人だったが死んだのか、なら墓の1つでも建ててやるか。」
「ケンのアニキそりゃないでしょ!」
「俺達はここに居るじゃないですか!」
ケンの言葉にアランの後方にいた2人の男が前に出ながら叫ぶ。
「……誰だお前ら?」
「アニキ、ミルカっすよ!」
「カウノっす、まさか忘れたわけじゃないですよね!?」
「……ああ! アランの後ろに居たからモブ兵士ABかと思った!」
「「ひでぇ!」」
ケンの言葉に2人は叫んで抗議しようとしたが、ケンはそんな2人を手で制して問いかける。
「ってかお前らダンジョンで死んだんじゃないのか?」
「死んでねえっすよ!」
ミルカは半泣きでそう言い、カウノはガックシとうなだれている。
「ダンジョンに入って出てこねえって聞いて、俺達が救出したんだ。
ケン、あのダンジョンはヤバい、今のうちに討伐しないとマジでヤバいぞ?」
そんなやり取りをしていると、新たにスキンヘッドで強面の男が執務室にそう言いながら入ってくる。
それを見てケンは驚きながらクッコネンとアランに命じる。
「屋敷に山賊を入れたバカは誰だ、さっさと捕まえて打首にしてこい!」
「お前、俺まで忘れたのかよ!」
「山賊に知り合いはいない、さっさと死んでこい!」
「アルヴァーだよ、長年ロットリッヒで一緒に冒険してただろうが!」
「……アルヴァーじゃねぇか! 久しぶりだな!」
「こ、こいつ!」
「あなた、バカなことしてないで何があったのか説明しなさい!」
ケンの態度にアルヴァーが殴りかかろうとしたが、その背後に新たに現れたのはアルヴァーの嫁であるフェリシーだった。
「ケン、お久しぶりね。 じゃれあってないでちゃんと聞いてほしいんだけど、あのダンジョンは本当に危険よ。
だからアラン君に緊急と頼んで緊急会議をしてもらったの。」
フェリシーの言葉にケンも本当に緊急事態だと考え、フェリシーの話を聞くことにする。
ミルカとカウノ、アルヴァーは何だったと言われるとそれまでだがとにかく話を聞くことにするケン。
「聞いてると思うけど、ハロネン子爵の領都の予定地に私達、楽園の探索者と、他に2つのクランで予定地の確保と周辺の魔物の討伐をしていたの。」
「おお、さっき聞いた。」
「さっきって……何にしろ私達、楽園の探索者は全員が参加していたのじゃなくって、カウノとミルカ達に他4パーティーが参加していたのよ。
それで他の2つのクランと交代で周辺の魔物の討伐と、予定地の警備をしていたのだけれども、この子達がダンジョンを見つけて他のクランに話をつけて偵察に入ったの。」
「おお、それで死んだんだろ?」
「酷いっすよ!」
「死んでない!」
「3人とも黙ってて、それでカウノとミルカのパーティーが戻ってこなくて、残されたうちのクランのパーティーと他のクランは慌てたのよ。」
フェリシーがそう言い終えると今度はアルヴァーが話し出す。
「知っての通りクランを結成するには最低でもCランクのパーティーが3ついないとだ、逆に言えばCランクが3パーティーいれば結成出来る。
で、ハロネンの町の予定地にいたクランはうち以外は最近できたところでな? 2つともCランクのパーティーが最高戦力だったんだよ。
それで予定地に残った奴等全員が慌てちまったのさ。」
「おう、クランの話は初めて聞いた。
それでこのバカ2人が死んだからって、何を慌てたんだ?」
「知っとけよ! ……予定地の確保と周辺の魔物の駆除なら、Cランクのパーティーで十分だ。 ただし複数のパーティーがいるがな、何にしろこういうときは全体のまとめ役と万が一に備えてAかBランクのパーティーを要に置くんだ、なのにその要のバカなパーティーがいきなり行方不明になっちまったんだ、あとは分かるだろ?」
「よーし、そのバカが悪いな、死ね!」
「アニキ、泣くっすよ!?」
「俺達だって頑張ったんだ!」
ケンの言葉に騒ぎ出すカウノとミルカ、そんな2人をアルヴァーとフェリシーはにらんで黙らせると先を続ける。
「それでロットリッヒに連絡が来てね? 慌てて私達も向かったのよ。」
「それで現地に着いたらバカ2人がダンジョンを見つけて、偵察に入ったまんま帰ってこないってんで俺とフェリシーのパーティーで潜ったんだ。」
「……潜ったんだけども、本当に嫌なダンジョンだったわ。
基本は普通のダンジョンで、出てくるモンスターは確認した限りはゴーレムやパペット系のみなの。」
「非生物系か……やっかいっちゃあ、やっかいだな。
だがカウノに山賊が居たんだから問題なかったんだろ?」
ケンはそう言うと、カウノが背負ってる大剣とアルヴァーが脇に置いた槌、戦闘用のハンマーに目をやる。
カウノは大剣使いとしてそこそこ有名だし、アルヴァーはタワーシールドで防ぎながら戦槌で凪ぎ払うAランクの冒険者だ。
しかもクランのリーダーとして、後方で実務にとらわれなければSランク、しかもかなり上位になったと言われるほどの盾使いである。
非生物系は魔法に対する耐性が大抵高い、もちろん物理耐性も高いが大抵が魔法よりも低いので物理で殴るのが常套手段なのだ。
そしてそんな非生物系のダンジョンだったら、物理攻撃力の高いカウノとアルヴァーがいれば問題ないだろうからケンはそう言ったのだ。
だがそんなケンの言葉にアルヴァーとカウノは目を反らし、フェリシーはため息をしながらミルカに目をやる。
「アニキ、フェリシーの姉さんやアルヴァーの旦那が言ったように、あのダンジョンは危険ですぜ。
俺達のパーティーは1階だけ見て回って帰ろうと思ってたんですが、気がついたら5階まで落とされてたんです。」
「私達なんか北に向かってたのが、気づかないうちに西に向かっててね、慌てて道を戻ったら南に向かわせられてたわ。」
「そりゃお前らがバカなだけじゃ……ミルカとフェリシーだと有り得ないか。」
ケンはそう言ってミルカとカウノ、フェリシーとアルヴァーを見比べる。
「それとね、一番の問題はミルカ達と合流できた5階から下なのよ。」
「5階までは通路だけで、そこをパペットやゴーレムが徘徊してたんですが、6階から部屋が有りやして、そこをこじ開けたら整列したパペットやゴーレムがいたんですよ!」
「私達が中に入っても動かなかったんだけど、奥の何体かは攻撃してきてね? 倒して何が違うのか調べたら魔石の有無だったのよ。
ケン、ここまで聞いてあなたはどう思う?」
そう言ってくるフェリシーに、ケンは一番嫌な予想を言う。
「ダンジョンマスターだな、ダンジョンマスターがいてゴーレムとパペットの軍団を作っている。
しかもあまり友好的ではないようだな、なぜか? 友好的ならミルカとカウノが、遅くてもアルヴァー達がダンジョンに入った時に接触してくるはずだ、そして迷路で斥候として優秀なミルカや感の良いフェリシーを誤魔化せるワナの階層を5層も用意していた。
つまり軍団が出来上がるまで5層よりも下を見せたくなかったってことだ。」
ケンの言葉にフェリシーやアルヴァー達はうなづき、ハロネンやクッコネン達は顔を青ざめる。
そしてケンは少し考えてからクッコネンやアルヴァー達を見ながら指示を出す。
「よし、雪解けと共に軍を出す、ロットリッヒ辺境伯と冒険者ギルドにも援軍を頼め、フェルデンロット軍の指揮はクッコネンとアランだ。
俺はここフェルデンロットで後方支援を「まちなさい。」堕龍……なんつー格好をしてんだよ……」
ケンの命令をさえぎったのはドアを開けて立つドライトだった、しかしその格好はドテラを着ていて、その背になぜかアンナを背負っている。
なんでもアンナは昨日の夜に昔の夢を見て、幼児退行をして夜泣きをしてしまったそうだ。
そんなアンナをあやして落ち着かせるために背負っているそうだ。
何にしろそんなドライトがケンをしっかりと見ながら言い放つのだった。
「そのダンジョンにはケンさん、あなたが行きなさい……これは主命です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます