異世界転移 146話目




「お、俺の子は無事なんだよな!」


「……ごめんなさい、私達がかなり本気で視ちゃったから、どうなってるか分からないわ。」


「魂が無いと、普通に視ても見えないのを完全に忘れてたわ……」


「そ、そんな……」


「ケ、ケン……」


シリカとサルファの言葉に膝をつきポロポロと泣き始めるケン、その姿に当人のミラーナもオロオロとするばかりになってしまう。


「い、いや! まだだ、また子供を作れば良いんだ、ミラーナ、早速今から仕込むぞ!」


「こ、こんな真っ昼間から何を言ってるのよ!」


ケンの言葉に真っ赤になるミラーナだったが、ケンに手を引かれるとうつ向きながら着いていこうとするが、ドアの前に立ちふさがる者が居た!




「いやですから、妊娠しているんですから止めなさいと言っているのですよ?」




「さてドライト、言い訳の時間よ?」


「ふざけたことを言ったら本気で私達と決闘してもらいますからね?」


「こ、怖いです! 母様もシリカ達も普段の5割増しで怒ってます、本気で怖いです!」


今、ドライトはセレナに抱っこされるように捕まっていて、その回りをシリカ達4人の妻達が囲んでいる。

セレナとシリカ達はニコニコと笑って……おらず、真顔をでドライトを見ている。


「い、いやですからね? 誰かが看破や龍眼で視ちゃうかもなーっと考えて、ミラーナさんのお腹の中の赤ちゃんに加護を与えて守っていたのです!

ついでに偽装もして!」


「偽装は要らないでしょうに!」


「絶対わざとでしょ!」


「ダーリン、私達がどれだけあせったと思ってるんだ!」


「……私達も孕ませる。」


「助けてください!」


シリカ達に怒られているドライトは、セレナの腕の中で自分の腕で頭を抱えるようにして顔を隠し助けて! っと叫んでいるがセレナはもちろんシリカ達に自分の眷族ですら白い目で見られていた。


「息子よ、早く生まれてくるんだぞ? 生まれてきたらすぐに武術を教えてやるからな。」


そしてそんな騒ぎの中でケンはと言うと、ミラーナのお腹に耳を当ててそんなことを呟いている。

大工や建築に関することは教えなくて良いのかとドライトは問いたいが、いまだにシリカ達に囲まれて責められているのでそれもできないでいた。


「ケン……旦那様、早すぎるわよ。

まずは健康に育ってくれるように見守りましょう。」


そしてそんなケンの頭を抱えるように抱き締めながら、ミラーナは幸せそうにそう言うのだが、空気を読まない龍が余計なことを言う。


「最初は女の子が生まれますね、だから長女が生まれてくると思いますよ?」


「女だろうが男だろうがどっちでも良い! とうとう俺にも子供が!」


「私の眷族からとんだ変態が!

男も女も両方いけるだなんてとんでもない変態さんです!

……ちょっと反応してくれないと寂しいんですが?」


ドライトの言葉をケンがスルーしたのでドライトが寂しがっていると、ミラーナが少し悲しそうに言ってくる。


「女の子……っか、嬉しいことは嬉しいけど、後継ぎの男の子がよかったわね。」


「ミラーナ、男だろうが女だろうがかまわん、俺達の子供だ!」


「ありがとう旦那様。」


「……どうしたんだ?」


ミラーナは無理矢理に笑うので気になりケンが聞くと、黙ってしまったミラーナに代わりクリスがケンに教える。


「その……王宮や一部の貴族から圧力が有るんです。 後継ぎの男の子を産めと……」


「戦争の準備だ!」


「旦那様! おめでたい事なんだから止めて!」


クリスの話を聞いてケンは激怒しながら立ち上がろうとするが、ミラーナがまた頭を抱えて落ち着かせる。


「子供は授かり物よ、それに次の機会もあるでしょうし、次に期待するわ。」


「ミラーナ……」


「奥様……」


ケンとクリスがそう言うミラーナの健気さに心を打たれていると、最早わざとしか思えないタイミングでまたもや空気を読まない龍が!


「ちなみに二卵性の双子で、下の子は男の子ですね。」


「この駄龍、本気でぶっ殺してやる!」


セレナに抱っこされたままのドライトに飛びかかるケン、だがそんなケンの頭を掴み止めるものが居た!




「貴様、我が妻と息子に飛びかかるとは良い度胸だな。」


それはディアンだった、実はディアン、最初から応接室に居てくつろいでいたのだが、妻のセレナが怒りのオーラを駄々漏れにしてやって来たので、応接室のすみで小さくなって隠れていたのだ!


で、妻と息子に変質者が飛びかかったので、殺してやろうと頭を掴んだのだった。


「あなた、お止めなさい。

今回はドライトに非が有るわ。」


「だがこいつはドライトではなく、お前の胸に向かっていたぞ?」


「……ミラーナさん、クリスさん。」


「「あとでよぉーく、言っておきます。」」


「お願いしますね、ではケン、あなたに一度だけチャンスをあげましょう。

1度だけ本気で息子を、ドライトを殴るなり切るなり、何をしても良い権利を差し上げます。」


突発的な行動がバレて、お仕置きコースが決まったケンだったが。

ドライトに1発かましても良いと聞き死なばもろともとニヤリと笑う。


「この世界の神々よ、俺に力を! この駄龍を殺せる力を一時でも良いから貸してくれ!」


ケンがそう叫ぶと、天から光が射し込みケンを包み込む。


『ケンよ……あなたに力を授けましょう……駄龍に死を!』


光と共に、そうささやくように……そして最後は叫ぶように女性の声、まぁ管理神のマリルルナの声なのだが、他にもなんかぶっ殺せなどと声が聞こえてケンの力が爆上げされる。


さらに―――


「あなた、シリカ達も力を貸しなさいな。」


「いやセレナ流石にそれは……わ、分かった。」


セレナに睨まれディアンはセレナの肩に触れる、シリカ達も数珠つなぎになってシリカがセレナの肩に触れるとドライトが光始める。


「ち、力が抜けます! 力が抜けていってますよ!」


どうやらセレナが何かをしていてくれているようで、ドライトが騒ぎだす。

そんなドライトをセレナが小わきに抱え直すと、ケンに向けてドライトの尻を向けてきた。


「さぁ……槍で刺すのは認めません。」


流石に尻の穴からの串刺しはダメだったようで、何でもから刺すのはダメにされてしまったが、それでもケンは今までに鍛え経験した全てをぶつけるように、槍を尻に叩きつけた!




「なんにしろめでたい、今からだと秋ごろに産まれるのか。」


「そうね……そうだわ、赤ちゃんのために厚手の布や寝具を用意しないとだわ。……ちょっとロットリッヒに行ってくるわ!」


「奥様、いい加減にしないと頭をかち割りますよ?」


「じょ、冗談だから! クリス、顔が怖いわ!」


ケンは幸せそうにミラーナのお腹に耳を当てていて、ミラーナも幸せそうにクリスと話している、ドライトはピクリとも動かずに尻を抱えて床に転がっていた。 するとケンはふいに顔を上げて言う。


「……よく考えたらミラーナは夜のローテーションから外れるんだよな? なら今日は……久しぶりにクリスと2人っきりか。」


「そ、そうですね……頑張ります!」


「まぁ、適度な運動は必要だけど、あれは過度な運動だからね……仕方ないわね。」


そんなことを話していると、床で声も出せずに悶絶していたはずのドライトがケン達の前に飛び上がり言う。


「だから妊娠しているんですから止めなさいと言いまくっているのです!」


悶絶していたはずのドライトが平然と飛び上がり話しかけてきたのも問題だが、ケンはドライトの言っている意味が分からずに聞き返す。


「いやだから、ミラーナは安静にするって言っているだろ?」


「誰がミラーナさんの事を話しましたか、今言っているのはクリスさんの話です! ちなみに男の子ですね。」


「……え?」


「クリス……も、妊娠している?」


「ミラーナが、妊娠しているんだろ?」


「ですから、ミラーナさんは二卵性の双子で女の子と男の子を、クリスさんは男の子を妊娠しています。

なので夜の営みは止めなさいと言っているのです。」


ドライトの言葉に静まり返る室内。


「えっと、クリスも?」


「はい。」


「わ、私も男の子をですか?」


「そうですよ!」


「……なんで今になって言うんだ?」


「いや、最初から妊娠しているんですから止めなさいと言っていました、誰かとは聞かれなかったので言いませんでしたが。」


「……夫……尻は痛かった?」


「実は全然痛くありませんでした、でも痛がらないとお仕置きが追加されるので痛いふりをしました。」


ドライトの言葉にさらに静まり返る応接室、セレナなどはフルフルと震えながら怒りを押さえている。




「祭りだ、祭りをするぞ!」


「旦那様、止めて。」


「ご主人様、止めてください。」


呼び出されたクリスの両親、そして父親のマックスに祭りをすると宣言をしたケンだったが、こんな冬の時期にするなとミラーナとクリスに止められていた。

だがケンは2人が同時に妊娠したのだから、ドライトが外で公開尻叩きにあっていてめでたいからやろうと言って聞かない。


そんな平和なフェルデンロットに、アランの騎馬隊が緊急の連絡を持ってきたのは次の日の朝だった。



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