異世界転移 142話目




「イヤッホオォォウ! 俺にも子供が出来たぞおぉぉぉ!」


「ちょっとケン!?」


「ご主人様!」


「おりゃ!」


「ギャアァァァ!?」


「ケ、ケン!?」


「ご、ご主人様ぁ!」


ミラーナが妊娠していると知ってケンは奇声を発して執務室から飛び出したが、ドライトの声と共に部屋の中に吹っ飛んで戻ってくる。

どうやらドライトに殴られて戻されたようだ。


「クリスさんに賄賂を貰った以上、これ以上の職務放棄は許しません!」


そう言ってドアから入って来てポーズをきめたドライトだったが、その背後からやって来たセレナにヒョイっと抱き抱えられ。


「ならドライトもちゃんと働きなさいな。」


っと、言われると拳を握りしめたポーズのまま連れ去られてしまったのだった。




「ひ、ひでぇ目にあったぜ……それでミラーナの妊娠は間違いないのか?」


「私の体調に変化はないんだけど……」


「ドライト様が言ったのですから間違いないと思うんですが、私が視ても妊娠とかは出ないです。」


何とか復活したケンはミラーナにそう聞くが、ミラーナとミラーナを先程から視ているクリスは妊娠の兆候は無いと言う。


「あのアホはこんな時に確実に役に立たねえな……いや、母親が居るってことはあいつの嫁が居るかもしれん、探して視てもらおう。」


ケンがそう言うと執務室から出ようとするが、ハロネンとロボネンに阻まれる。


「総督はお仕事をしてください。」


「本当にこの書類の決済をしなければ、民達が困窮してしまいます!」


「い、いや、子供がな?」


ケンはそう言うと、クリスがため息をつきながら言う。


「どなたかすみませんが、カリーナとシリヤにパールさん達を呼んでくれますか?」


クリスの声に答えて文官の1人が執務室から飛び出していき、10分ほどで全員が執務室にやって来た。


「クリス、何か用? って貴族の仕事は手伝えないからね?」


「皆さんお揃いで……先に言っときますが主人様のお仕事の手伝いは私達には無理よ?」


ぞろぞろとやって来たカリーナにパールは書類の山に埋もれるケンを見てから先にそう牽制する。


「少しお願いが有るの、パール達はここでご主人様が逃亡しないように見張ってて、それでカリーナとシリヤは私が父と母に奥様の専属侍女の用意をお願いして準備し終わるまで、奥様が無茶しないようにお願いしたいの。」


「へ? そりゃいいけど、奥様?」


「そうです、ミラーナ奥様です。」


今までクリスはミラーナ様と呼んでいたのに、突然に奥様呼びをし始めたのでカリーナとパールにミラーナは顔を見合わせる。

シリヤは何かに気がついたようでチェルシー達は訳が分からずにキョトンとしている。

それを見たクリスはコホンと一回咳をすると、室内に居る全員に宣言をするように言うのだった。




「ミラーナ様、奥様はご懐妊されました。

これを気に奥様の事はちゃんと奥様と呼び、フェルデンロット子爵の正妻という認識を皆さんにしっかりともってもらいます。」




クリスそう言って室内に居る全員にいいですね? っと視線で確認するのだった。


「はぁ、意外だわ、クリスがあんな宣言するなんて。」


クリスがそう宣言してミラーナを連れて部屋から出て行ったあと、パールは他の面々を見ながらそう言う。


「ん? パールは文句でもあるの?」


「いや、文句はないですけど、この家の奥の事はほとんどクリス達の家族が仕切ってるじゃない?

ぶっちゃけ子爵家を乗っ取ろうと思ったら出来ちゃうんじゃないかな? ってさ。」


「それをしないからこそ、我等や奥様に執事や侍女、ロットリッヒ辺境伯も側室様を大事になさっているのだ。」


パールの言葉に自分の席に着きながらハロネンがそう言い、書類に向かう。


「本当に出来たかたですな、将来は分家を作ることは決まっていますが、最低でも子爵家になるでしょうな。」


続いてロボネンがそう言いながら席に着く、そしてクッコネンが一礼しながら部屋を出ようとして思い出したように言う。


「そうだ、ハーゲン夫妻の護衛を用意しなければ、子爵様、私の伝手で優秀な者を軍から呼んでもかまいませんか?」


「あー、本人達の了承を得たなら良いぞ。

じゃあ俺はミラーナの様子を見にいでぇ!?」


「立つことは許されてません!」


「椅子に縛りつけてやる~!」


クッコネンに返答しながらケンが立ち上がると、チェルシーとポリーに棍棒で殴られ強制的に座らされる。


「なんで俺は様子を見に行っちゃダメなんだよ!」


「総督、それはあなたがサボって仕事を貯めたからです。

夜には会えるのですから今は決済を急いでください。」


ハロネンそう言われて睨まれると、ケンはシブシブ書類に戻る。


「じゃあここはパール達に任せるわね。」


「私達は奥様の面倒と護衛をしてくるわ。」


それを見てカリーナとシリヤはヒラヒラとパール達に手を振ると、執務室から出ていくのだった。




「しっかしミラーナ様がご懐妊か。」


「カリーナ、奥様って言いなさい。

まぁ、やる事はやってたからね、やり過ぎてたとも言うけど。」


執務室から出たクリス達を追って、カリーナとシリヤはミラーナ達が居るであろう主寝室に向かう。


「はぁ……私達もそのうちに出来るのかなぁ。」


「まぁ出来るんじゃない? やる事はやってるんだから。 それよりもご主人様よ、やっぱり嬉しそうだったね。」


「まあね、ご主人様は前から家族を欲しがっていたからね。 って着いた、主寝室よ。」


等とらなしている間に2人は主寝室の前に着き、カリーナが扉を開けて中を覗きこむ。


「おろ? 居ないよ?」


「え、妊娠したなら安静にしてないとでしょ、ならここで寝ているんじゃ?」


カリーナに続いてシリヤもそう言いながら中を覗きこみ、居ないのを確認して顔を見合わせる。


そして食堂に居るかもしれないと2人は考えて歩きだそうとした時だった、屋敷の外からクリスの悲鳴のような叫びが聞こえたのだった。




「奥様、お止めください!」




その叫びを聞くと同時に走り出す2人、そんな2人が玄関を飛び出して見たものは……馬に乗ろうとしているミラーナと、それを必死になって止めているクリスだった。



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