異世界転移 143話目




「奥様、本当に止めてください!

あなた達も見てないで馬をしまって!」


「ちょっとクリス、奥様なんて呼ばなくていいってば、それに妊娠したことをお祖父様や両親に知らせないとでしょ、だからちょっとロットリッヒに行ってくるだけだってば。」


「絶対にお止めください! 皆、乱暴にせずにミラーナ様を捕まえて寝室にお連れして!」


「そんなん無理でしょ……」


「クリスもテンパってるんですね。」


捕まえることも出来ずに、馬とミラーナの間に入りクリスは何とかミラーナが馬に乗るのを妨害している。

他の侍女や館の護衛の騎士や兵士も、普通なら押さえ込むなりして捕まえるのだが主君の正妻であり、妊娠していることも聞いているのかミラーナを遠巻きにしているだけでどうすればいいか分からずに困っているようだった。


それを少し遠くから見ているカリーナとシリヤもこれどうすればいいの? っと呆然とその騒ぎを見るのだった。




「奥様、ロットリッヒには伝令を出します、ですからご自分で行くのはお止めください!」


「いや、お祖父様には自分から報告したいのよ、色々と心配をかけたからね?」


「それでもお止めください!」


「なんで大人しく出来ないかな?」


「本当に奥様って大貴族のご令嬢に見えないよね?

何にしろ誰かが説得しないと本当に騎乗してロットリッヒに行っちゃいそうだわ。」


馬は騎士が馬屋に入れたが、ミラーナはもう一度出せと騒ぎクリス達は困り果てていた。

そしてシリヤが最後にそうつぶやいた時だった、ブタのいななきと共に颯爽と救いの主が現れたのだ!


「ブヒヒィィィン!」


「クリスお姉ちゃまを困らせてるのはどなたなの? このクレセントムーンが赦さないのよ?」


突然に現れたブタと救世主に、ミラーナが挨拶をしようとする。


「あらアンナちゃ……な、何に乗ってるのかしら?」


「乗馬の練習なのよ? いきなりお馬さんに乗って落ちたら危ないから、ドラしゃんがお馬さんの代わりをしていてくれてるの。」


「ブヒィン。」


そうアンナは鞍や鐙を着けた―――ドライトに乗っていたのだ!


「そ、そうなの……なんと言えばいいのか正直、分からないわ。」


「何にしろミラーナのお姉ちゃま、赤ちゃんが出来たら安静第一なのよ?

淑女がどうとかでなく、お腹の赤ちゃんを守るためなのよ、分かったかしら?」


「は、はい、ごめんなさい……え? もしかして私って10にもならない子に常識を諭されてる!?」


アンナの言葉に思わず謝ったミラーナだが、周りの皆はよく言った! っとアンナに向けて拍手をしている。


「分かったらいいのよ、それじゃあお姉ちゃま、私は練習で遠乗りに行ってくるわね。

はいよ~ドラしゃん!なのよ~」


「ブヒヒヒィィィン!」


アンナはそう言うと、ドライトの尻に猫じゃらしをフワリフワリとぶつけて、ギャロップで走り出してしまう。


「うぉ、アンナちゃん!? 豚に乗って何処に!」


「チャージ、なのよ!」


「ギャアァァァ!」


「ドラしゃんをバカにしたら赦さないの!」


そして門のところに居たアランの余計な一言に敏感に反応すると、ドライトごと体当たりをしてアランを吹き飛ばすと門から外に出ていってしまった。




「ねぇ、どう考えても1番失礼なのはアンナちゃんだと思うんだけど?」


「いや、それよりもドライト様ってお母様のセレナ様に捕まったんじゃ……」


「深く考えない方がいいわね。」


「……あ!」


「ど、どったんシリヤ?」


「ドライト様が居るんだから、ここでミラーナ奥様が本当に妊娠しているのか確認すればよかったわ。」


「……あー、クリスが視ても確認できなかったんだっけ?」


「ええ、けどもう居ないわね。」


「追いかけても追いつかないか……あ、あれアンジェ様じゃない?」


「本当だわ……あ、そうだ、アンジェ様に聞けば良いのよ。」


「そっか、行ってみましょ。」


そう言うとカリーナとシリヤは先ほどの出来事について考えるのをやめて、ボーッとしなからポテポテと歩いているアンジュラの元に向かう。


「アンジェ様、少しよろしいですか?」


「ちょっとお願いが有るんですよ。」


「……何?」


「奥様、ミラーナ様が妊娠したらしいんですが、クリスが視ても確認できないんです。」


「でもドライト様が妊娠していると言ったらしいんですよ、それでちょっと確認してもらえたらと。」


2人がそう言うとアンジュラはチラリとミラーナを見る、だがアンジュラは首を傾げてポテポテとなにやらショックを受けているミラーナの元へと向かう。


「あ、アンジェ様、それにカリーナにシリヤも、どうかしたの?」


「ああ、やっと二人も来てくれたんですね。

これからは私達3人と母さんが用意してくれている侍女とで、奥様を見張ります。 いいですね?」


ミラーナが3人が歩いてくるのに気がつき挨拶をすると、クリスもこちらを見て安堵しながらそう言ってくる。


「ラジャラジャ、それよりもクリス、やっぱり視ても妊娠しているとは視えないの?」


「ええ、健康体としかでないわ。」


「それでアンジェ様、どうですか?」


カリーナはクリスに再度確認するが、やはり妊娠しているとは視えないと言うとシリヤが隣をポテポテと歩いて着いてきたアンジュラにそう聞くが。


「……妊娠?……夫が本当にそんなことを……言った?」


っと、首を傾げながらミラーナを視てそう言うのだった。




「へ? ア、アンジェ様、私は妊娠しているんですよね?」


「……私が視ても、妊娠しているとは……視れない。

……本当にそんなこと……言った?」


アンジュラの言葉にミラーナは顔色を悪くしながら聞く、隣に居たクリス達も真っ青になっている。

そして聞かれたアンジュラは、つまりつまりだが珍しく長くしゃべっている、どうやら同じ女性として悪質な嘘を言った相手を怒っているようだ。


「え、えっとドライト様が妊娠しているから子作りはやめた方がいいって……」


そうミラーナの言葉を聞きアンジュラはますます眉を寄せるが、それは怒っているよりも困ってしまってだった。


「……夫は平気で嘘をつく。 ……でも、こういう嘘は言わない……だから、妊娠してるはず。 ……セイネ来て。」


「はーいアンジェ様、ご用ですか? って! アンジェ様が地面に座ってる! は、早くこちらにお座りください、お召し物がよごれます!」


色々と話して疲れたのか、アンジュラは地面に体育座りをしてから眷族のセイネを呼び出す。

呼ばれて何もない空間に突然に現れたセイネは、アンジュラが地面に直に座ってるのを見て慌ててデッキチェアを取り出すとアンジュラを抱えて座らせる、周りに居るミラーナ達に殺気を向けながら。


「……セイネ、彼女達は悪くない。 ……こっちに来る。」


セイネの殺気に当てられて真っ青になるミラーナ達だったが、アンジュラがそう言うと何かをしたのかセイネの殺気を感じなくなるが、呼ばれたセイネはまだミラーナ達を睨みながらアンジュラのすぐ側に行きアンジュラからボソボソと何かをささやかれている。


「はぁ、ミラーナさんが妊娠してるんですか? ……いや、妊娠してるとは思えないんですが……ああ、そっか、リティアを呼べば良いんですね。」


アンジュラの話を聞き睨むのも止めて、ポンと手を叩くとそう言い、アンジュラもコクコクうなづくのを見てからセイネは虚空に呼びかける。


「リティア~、ちと用が有るから来て~」


セイネの突然の奇妙な行動にミラーナ達や遠巻きに見守っていた侍女や兵士達はギョッとするが、屋敷の方から2人の女性が現れるのを見て何らかの手段で彼女達を呼んだのだと納得をする。




「何んですかセイネさん、今サルファ様のお茶を用意するところだったのですよ。」


「ああ、悪いんだけどミラーナさんをよく視てくれない?

サルファ様のお茶は私が入れるからさ、アンジェ様もお茶をお飲みになりますか?」


「……飲む、梅昆布茶がいい。」


「何かあったのかしら? あ、セイネさん、私は紅茶を……そうね、たまにはセイネさんのお勧めでお願い。」


お茶会を始めてしまったサルファとアンジュラを呆然としながら見ていたミラーナ達だが、リティアが面白くなさそうにミラーナの前にやって来るとそちらに注目する。


「サルファ様のお茶は私が入れる予定でしたのに……健康体としか言えないわですわね、何かしらの呪いも受けてないですわ、セイネさんこれでいいのかしら? あ、サルファ様のお茶請けは私が準備しますから!」


「いやちゃんともっと視てよ。

いやさ、彼女は妊娠してるってドライト様が言ったらしいのよ?

でもアンジェ様が視ても妊娠していると視えないらしくって……そこでリティアの出番っ訳よ!」


「……へ? ほ、本当なのですか!?

サルファ様、すいませんが時間をかけてしっかりと視ますので、セイネさんの不味いお茶で我慢してくださいませ。」


セイネの言葉を聞き、リティアはギョッとしながらもサルファに一礼してから、睨むようにミラーナを視始めるのだった。



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