異世界転移 130話目




「全軍前進だ! 押し潰せ!」


「カルタサーラの奴等を1人も逃がすな!」


リキッド王国軍はカルタサーラ軍を圧倒し、エルフと獣人の連合軍と共に勝利に向かっていた。




「こりゃ完勝だな、奴隷兵の解放も始まってるし、カルタサーラの奴等もどこまで逃げられる……おい、あれは敵の司令部じゃねえか?」


「……そうみたいですね、信じられませんが。」


「王太子閣下、カルタサーラの弱兵など元々あの程度なのです。」


自軍が圧倒しているので、別の部隊を指揮していた王太子と将軍達がケンの元にやって来る。


「何を言ってやがる、カルタサーラは軍事大国だぞ? その兵が弱いわけないだろうが。

……もしかして何かの罠か?」


「あ、エルフと獣人達がカルタサーラ兵を蹴散らし始め……目の錯覚ですかね? 最前線に立っているのはアクロフ様とエルフリーデ様では?」


「あのバカ共……ありゃ間違いなくアクロフとエルフリーデだ、指揮官で王族の2人が最前線で斧と杖を振り回しているなんてアホの極みだな。」


「しかしものすごい勢いで敵陣を吹き飛ばしてますが?」


「はぁ……お前らの中であの2人に部下と共になら勝てるって奴等は、手を上げてみろ。」


王太子と話していたケンがそうリキッド王国軍の将校達に聞くと、オズオズと何人かが手を上げる。

そして将軍達は部下でなく同僚の将軍や将校達となら10人もいれば勝てると手を上げる。


「な? 今のカルタサーラは混乱しているから無双できるが、組織的動かれたらエルフリーデはもちろんのこと、アクロフや俺だって殺られちまうんだ。 あいつらカルタサーラ軍も邪神戦争を生き抜いて、周辺の都市国家を併呑した軍なんだからな、弱いわけがないんだよ。」


俺がそう説明すると、リキッド王国の王太子や将軍達が顔を青くする、どうしたと聞く前に王太子が震える手で指差した方を見ると、アクロフとエルフリーデがカルタサーラ兵に囲まれていた。




「あーあーあーあー、言わんこっちゃねぇ。 ありゃもうダメだな、諦めよう。」


「諦めないでください!」


「王太子殿……聞いてくれ。」


「な、なんだケン、こんなときに急に真面目な顔をして。」


なんとか助けたいリキッド王国の面々、そして面倒なのでもうどうでも良いやと考えていたケン。

だがそんなケンが急に真面目な顔になり王太子に向き直ると言う。


「俺の領地のフェルデンロットに屋敷があるんだがな、新築なんで建物は豪華で綺麗なんだが調度品の類いが少ないんだよ……そこで玄関に熊の剥製か敷物が有ると映えると思わないか?」


「「「あんた何言ってんだ!?」」」


真面目な話だと思ったらとんでもない話だった、一体どこの熊で剥製やら敷物を作ろうと言うのか!


「何って、アクロフがくたばったらその毛皮やらを有効活用しようって話だろ、何を聞いてたんだよ。」


「いや、本当に何を言ってるんですか。 縁起でもないことを言わないでください!」


「それにエルフリーデ様はどうするつもりなんですか?」


「そりゃお前、ギリギリのところで助けて恩を売ってやって、それをたてに生涯俺のオッパイマシーンとして生きていってもらうのさ!」


「クリス、だそうよ?」


「……ご主人様、ちょっとお話ししましょうか。」


どうやらエルフリーデの事を聞いてきたのはシリヤだったようで、その横には穏やかな笑みを浮かべたクリスと数メートルの距離をとったカリーナがいた。




「い、いやクリス、軽い冗談だから! アクロフとエルフリーデには四天王とフリッツが護衛についてるから大丈夫だって!」


「本当ですか? そのわりにはリンカさんが慌ててこっちに向かってますが……」


「へ? 本当だ、何かあったのかな。」


ケンの言い訳を聞いたクリスがそう言って指差したのでケンもそちらを見ると、先ほどまで魔方陣に居たリンカが大慌てでケン達のもとに走り込んでくる。


「た、大変だっちゃよ! エルフリーデ様が敵に囲まれてるっちゃ!」


「なんだ、慌てて来るから敵の新手でも現れたのかと思ったぜ、エルフリーデ達なら大丈夫だろ、お前以外の四天王とフリッツが護衛についてるんだから、四天王はアホ揃いだが戦力としては一騎当千だからな、アクロフのバカと合わせりゃ大丈夫だって。」


その話を聞いたリンカは真っ青になり自分の背後を指差す。

そこには象人のオリフと虎人のダーヴィト、そして空をクルクルと飛んで回っている鳥人のハクトウ、つまり獣王国四天王達が居た。


「……な、なんでお前らアクロフとエルフリーデの護衛をしてないんだよ!?」


それを見たケンもさすがに驚き怒鳴るように問う。

するとジャンナの父親でもある虎人のダーヴィットが言い訳するように言ってくる。


「い、いや、護衛をしろと言うのでリンカの護衛をしていたのだが、違ったのか?」


「………………ほ、本陣で俺やクリスにリキッド王国軍が守ってるやつを護衛しろだなんて言うかこのバカ!

ハクトウ、俺とお前で援護に行くぞ、他は支援してくれ!」


ケンはそう言うと、ハクトウを引き連れて向かおうとする。

そんなケンにリンカが祈るように言うのだった。




「ケン! アクロフ様はどうでもいいからエルフリーデ様は助けてほしいっちゃ!」


お前の主君は一体誰なんだよ!


ケンはそう思うと同時にズッコケかけながら空中に浮かび上がり、アクロフとエルフリーデの元に向かうのだった。



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