異世界転移 129話目
「カルタサーラ奴隷兵が前進し始めました!」
「はええな……もう少し悩むと思ったんだが。」
「ケン子爵、何にしろ戦闘準備を始めます。」
「よし、全軍戦闘体制だ、リンカ、頼むぞ!」
「わかっとるよ! みんな気合いをいれるっちゃ!」
カルタサーラとリキッド王国との二回戦目は、こうして始まったのだった。
「奴隷兵は前進だ、前進しろ!」
「おい、リキッド王国軍は陣に引きこもるつもりみたいだぞ。」
「そりゃこの数の差だからな、防戦に徹した方が奴隷兵にも損害が増えるし当たり前だろ?」
「なら王都なりで籠城戦をすれば良いんじゃないのか?
それにあの陣は穴だらけだぞ。」
「そんなこと知るか、おいお前ら逃げるな! さっさと進め!」
「貴様ら私語をするな、そろそろ例の魔道具を発動させるぞ!」
「「了解!」」
カルタサーラの督戦隊は徐々に奴隷兵達から距離を取り、後方に集まり始める。
そして少し距離が開くと隊長らしき者の合図で一斉に何かの呪文を唱える。
「「「……ガァァァアアア!」」」
すると焦点の合わない目をしていた者や、表情の抜け落ちていた奴隷達から順に殺気だちリキッド王国軍の陣に向かい走る速度が上がる。
督戦隊から離れたり、逃げようとしていた奴隷兵や恐怖の表情を持っていたものなど、まだ少しは感情や思考能力が残っていた者達も、少しすると先に駆け出した者達と同じ様に殺気に満ちた表情になり走り始めるのだった。
「よし、上手くいったぞ。」
「この数の差だ、あんなちゃちな穴だらけの陣なら……な、なんだ?」
「魔方陣!? いや、幻術の魔術陣か!」
奴隷兵がリキッド王国軍の陣まであと少しという所で陣から魔方陣が浮かび上がる、そしてそれを大軍同士の戦いで使う戦術級クラスの魔法や魔術を使うための魔術陣だと気がついたカルタサーラの兵士達は困惑をする。
戦術級殲滅魔法などで奴隷兵を吹き飛ばす気かと思ったのだが、展開されたのは幻覚を見せる幻術の魔術陣だったからだ。
そんなもので奴隷兵を止められるものかとカルタサーラの兵士達は思い、だがそれはリキッド王国側も解っているはずでは? そう思い困惑してしまったのだ。
そして魔術陣は発動して光輝く、かなりの威力と規模だったようで、奴隷兵だけでなくカルタサーラの督戦隊も巻き込まれ5千ほどいる内の半数近い2千以上が幻覚を見る。
姿は奴隷兵に紛れ込むためにみすぼらしい装備だが、正規兵よりも良い装備で対魔法の耐性も高かったにもかかわらずだ。
それに督戦隊の隊長達も舌を巻くが、1人の隊長だけがブルブルと震えて真っ青になっていた。
それに気がついた他の隊長達が回復魔法で通常の状態に戻すが、幻術にかかった真っ青のままで震えている、周りの他のもの達が「おいおい、何を見たか知らんが怖がりすぎだろ……」っとあきれていたがそれを無視するように真っ青になっている隊長は叫ぶように言うのだった。
「ま、不味い、奴隷兵を戻せ! 引き返させるんだ!」
他の隊長達はいきなり何を言い出すんだと驚くなかで、リキッド王国の陣地に突入した奴隷兵達のほとんどが、陣に空いていた穴から陣地に入り込み。
そのままほとんどの奴隷兵がリキッド王国軍の陣地の向こうに駆け抜けて行ったのだった。
「奴隷兵が抜けます!」
「ほとんどの陣が無事です!」
「作戦通りだな、あの魔道具は薬で思考能力を落とし、さらに狂わす事で操ってる。
つまり幻術なんかにはかかりやすいってことだ。」
「幻術で我軍の陣地を岩にみせかける。
そして下りで勢いのついた奴隷兵達は岩を、陣地を避けて走り抜けてしまう。 そう言うことですな。」
リキッド王国軍の将軍とケンがそう話している間に奴隷兵は陣と陣の間の穴を走り抜けていく。
いくつかの陣に少数の奴隷兵が入り込んだが、問題なく押さえ込むか倒されていた。
「思考能力がほとんど無いやつに、どうやって命令するのか? 簡単な命令、それこそ突撃しろ、敵を殺せぐらいの単純な命令のみをしているんだろ。
で、奴隷兵は命令通りに突撃する、すると敵が消えてしまう。
そしたら奴隷兵はどうする? 命令通りに突撃をし続けるしかない、そしてカルタサーラの命令権を持つ兵士達と距離が空くとどうなるか、ああなるってこったな。」
そう言ってケンが後ろを振り向くと、丘を駆け降りてカルタサーラの兵士と距離が空いた奴隷兵が次々と命令が解除されてオロオロとし始めている。
「しかしなぜカルタサーラ兵は一緒に行動しなかったのですか?」
「凶化させてるからな、下手すりゃ自分達が殺されちまうんだろ。
よし! 始めるぞ、前進だ!」
「全軍前進! カルタサーラの督戦隊から潰すぞ!」
「陣を作戦通りに放棄しろ、その後は駆け足だ、進め!」
ケンが始めろと言うと、リキッド王国の将軍達がそれぞれの部隊に命令を下す。
そしてリキッド王国軍は陣を作っていた柵などを、向きを変えて奴隷兵達の方に向ける。
すると柵や石などがそのまま丘の下にいる奴隷兵達に向かい、障害物となるのだった。
「クソ! なんで支配の魔道具の弱点が解ったんだ!」
「裏切り者でもいるのか!?」
「おい、奴隷兵を呼び戻そう!」
「バカ野郎、ここから奴隷兵にどう命令をするんだ、魔道具もこの距離では届かないんだぞ!?」
「貴様ら、そんなことよりも防御体勢だ! 下の本隊が来れば丘の上を取っている我軍の方が有利になる、早くしろ!」
混乱するカルタサーラの督戦隊は、それでも防御体勢に移った督戦隊の兵士達に歓声が聞こえてきた。
自分達の背後から―――
そしてその声に振り向いた督戦隊が見たものは、森の中を迂回して来たエルフと獣人の連合軍に襲われて混乱している、本隊だった。
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