異世界転移 123話目




「それでフォルトリが落ちたって本当か?」


「ええ、お父様、陛下とお兄様に報告していたら商王国から緊急の伝令がきて、援軍を求めてきたわ。」


「フォルトリが落ちたらあとは商王都まで砦が2つ有るだけっちゃ、しかもどっちもフォルトリよりも防備が堅いわけじゃないっちゃよ。」


服を着てクッコネン達を呼び寄せ、皆が集まったところでケンはエルフリーデとリンカに現状の説明をしてもらっていた。




ちなみに、エルフリーデはエルフの王女で女王ではない。

ベヒーモス騒ぎの時は、両親に兄弟達は地方の集落に視察に出ており不在だったため、指揮をとっていたのだ。


そして国王である父や、王妃の母に兄達が帰ってきたので、エルザと一緒にフェルデンロットに入り浸っているのだ!


あと、リンカはアクリーナとは関係なく気ままに行き来をしている。


「しかしフォルトリがこうもアッサリと落ちるとはな。」


「商王国は大慌てよ、お父様にいつ頃に援軍が来るかしきりにたずねてたわ。」


「そりゃあなぁ……リンカじゃないが、あそこを抜かれたら商王都まで簡単に行かれちまうからな。」


ケンがそう言って顔をしかめると、クッコネンがケンやエルフリーデにリンカを見回してから質問をする。


「しかしフォルトリと言えば要害として知られた城塞都市です、私は見たことはないのですがそれほどの都市が簡単に落ちるのですか?」


「うーん。 誰かフォルトリに行ったことが有るやつは?」


そう言って今度はケンが皆を見回すと、エルフリーデとリンカの2人だけが手を上げる。


「やっぱりお前らだけか……レーベン王国からは離れてるし、商王都に行くのに必ず通る必要もないからな、あそこは。」


「ねぇケン、あなたは行ったことが有るの?

それにフォルトリは名前とカルタサーラとの国境を護る都市ってのは知ってるけど、どんな都市なの?」


「あー、あそこはな? 主要街道からも離れてるんで交易にも向かない城塞都市なんだが、元々はダンジョンが有ったダンジョン都市だったんだ。」


「へー……有った?」


「ああ、邪神戦争の時にドライトが討伐したらしいんだ、邪神が乗っ取ってたらしくてな。


だが崩壊したり消えたわけではなく、中には普通にモンスターが繁殖してかっ歩してるし、鉱石やレアな薬草の採れるフィールド型の階層が残っているから、有ったと言うか有ると言うか……ただ宝箱やモンスターが新しく現れたり、ダンジョンの構造が変わることが無くなったんで機能は停止てるみたいなんだが、ドライトに聞かないと正直分からん。」


「……教えてくれるのかしら?」


「たぶん無理だろうな、って言うよりアイツがまたいつ来るかも分からんし。


なんにしろ俺もダンジョンに挑戦しようと、若い頃に行ったことがあるから知ってるんだが、あそこは外と内側に向いてる3重の城壁が有るんだ。」


「外と内側に向いてって……あ、そうか、ダンジョンモンスターの氾濫に備えてるのね。」


「そう言うこった。」




話が一段落したのを見計らって、リンカが一歩前に出て周りを見回して言う。


「そんなことよりもフォルトリの件っちゃね。

どうやって落としたのか知らんけど、同じ手を使われたら商王都やアズ・エーギク・エーレ・ファもひとたまりもないちゃよね?」


「ええ、要害と言われるフォルトリがあんなにアッサリと落ちちゃうんじゃ、アズ・エーギク・エーレ・ファもさすがに持ちこたえられないと思うわ。」


リンカの言葉にエルフリーデは顔をしかめながら答えると、懐から地図と紙の束を出す。


「これで見てもらうと分かると思うけど、商王都が抜かれればエルフの住む森まで半月の距離よ。

そうなると彼奴等の事だから奴隷狩りの部隊を多数送り込んでくるでしょうね。


それでこっちは商王国から聞いたフォルトリが落ちるまでの戦況の推移が書いてあるわ。」


そう言って地図と紙の束を指し示すエルフリーデ。

そしてこの中で立場が1番上のケンがまず戦況報告書を手に取り読み始める。


「なになに……カルタサーラは奇襲ではなく、国境に軍を終結させてからやって来た、その数は15万以上で正規兵が1万、奴隷兵が15万ってマジかこれ?」


「ずいぶんと正規兵が少ないわね、これで奴隷を統率できたの?」


「出来たんだろ? その結果、フォルトリが落ちたんだろうからな。 って、オイオイオイ、エルフリーデはこれを読んだのか。」


「ええ、一応は読んであるけど……何か問題があるの?」


ケンはミラーナと話ながら報告書を読み進み、陥落したときに何があったのか知ると驚きながらエルフリーデに問いかける。

エルフリーデは読んだと答えて何か問題が有るのかと不思議そうにして逆に聞いてくる。


「最初はフォルトリを囲んでたそうなんだが、10日後にカルタサーラ軍が揃うと一斉に攻撃してきたそうだ、奴隷達が。」


「な! ほ、本当ですか!?」


「そんな馬鹿な、カルタサーラの正規兵は1万だったのですよね。」


「え? え? なんなの? 何が問題なのよ!」


ケンの言葉に、今まで黙って聞いていたクッコネンとハロネンがそろって驚きの声を上げる。

そしてそのために訳が分からなくなったエルフリーデは、驚きながら回りに視線を送る。


そんなエルフリーデにケンが説明をし始める。




「エルフリーデ、奴隷には隷属の魔道具が使われるのは知ってるな? それで隷属の魔道具には色々な種類があるんだよ、最初の物は邪神が広めたとかダンジョンから出たとか諸説有るが、現在の隷属の魔道具は国の政策やギルドなんかに合わせて改良されたものが色々とあるんだ。」


「そんなことは知ってるわよ?」


「でだ、カルタサーラの物はカルタサーラの兵士や役人の命令には、どんな命令にも従うように出来てるんだが……完全にではないんだ。」


「え、どう言うこと?」


「例えばだ、エルフリーデが奴隷だったとして俺が命令を出せるとしてこう命じたとする、市場に行って何か美味そうな物を買ってこいと、そうしたらお前はどうする。」


「……そんなの普通に行って買ってくるわよ。」


ケンの言葉に何を当たり前の事を……っと言った感じで答えるエルフリーデ。


「じゃあ次の命令は、オッパイを好きなだけ揉ませろ。」


「はっ倒すわよ!?」


今度の命令には怒って拒否するエルフリーデ、それを見てうなづきながらケンが最後の命令を出す。


ミラーナに頭を叩かれながら。


「最後の命令だ、今日もアクリーナとエルザがアンナのところにお泊まりに来ているよな?


……それをぶっ殺してこい。」


「な! あ、あなた、何て命令を!」


最後の命令を聞いて激昂しながらエルフリーデはケンに詰め寄る。


「エルフリーデ様、今のは例えだっちゃよ。

それでケン、なんで例えだとしてもそんな命令をしたっちゃ?」


「そ、そうだったわね……」


詰め寄ったエルフリーデを止めたのはリンカだった、だがリンカも自分が使える主君の孫を殺せと発言したケンが気に入らないようで、睨み付けている。




「今の3つ命令はな、隷属の魔道具を説明するのにちょうど良いんだよ。

最初の命令が普段の生活などで当たり前に行うこと、2つ目の命令が性の相手などをさせられる、そして3つ目が、犯罪をしろって言う命令だ。」


そう言ってエルフリーデやリンカに、いまいち理解していなかったアランとクリス達にも分かるように説明をするケン。


「例えばレーベン王国や商王国に帝国の隷属の魔道具は、本人の承認なしに性奴隷にはなれないようになっているし、性奴隷でなければ相手をするように命令されても普通に断れる。

そして犯罪については各国ともに厳重に法で縛っているんだ、レーベン王国だと国家反逆罪にあたるほどにだ。」


「それは当たり前っちゃろ。」


「そうよね?」


顔を見合わせてそう言うリンカとエルフリーデ、そんな2人にケンが心底嫌そうに言う。


「だがカルタサーラのは違う。

殺人なんかの命令も、出来てしまうんだ。」


「それって……」


カルタサーラの隷属の魔道具の話を聞き驚く、だがその隣でリンカが何かに気がついたようで不思議そうに聞いてくる。


「あれ? でも完全に命令を聞かせられないっちゃよね?」


「それなんだよ、さっきエルフリーデに命令した妹とその友達を殺してこいって命令、あれを実行させるには命令権を持つ俺がつきっきりで命令し続けなきゃダメなんだ。


それに、実際に実行できるかは分からんしなぁ。」


「え? 意味が分からないんだけど?」


「当たり前だがエルフリーデは妹やアクリーナを殺したくない、それを強く思うだろ?

その状態で命令をした俺から少し離れると命令を拒否できるんだ、つまりカルタサーラの隷属の魔道具は心の奥から強く思えば、嫌な命令には逆らえるんだよ。」


ケンの説明を聞いてリンカは何かに気がついたのか、ハッとした表情で聞いてくる。


「それって離れちゃいけんとしたら、奴隷達をどうやって使役して、フォルトリを落としたっちゃ。」


「それが謎なんだよな、行軍するだけなら奴隷100人を1人でも監視が出来るが、野戦だと最低10人に1人は監視係が必要だって言われているからな。」


「しかも攻城戦ですからな、商王国側もそれを承知してカルタサーラの兵士を城壁から狙い射つでしょうし。」


ケンに続いてクッコネンもそう言いながら首をひねっている。




「……明日になったらアズ・エーギク・エーレ・ファに行こう、続報で何があったのか分かるかもしれないからな。」


ケンはそう言って回りの皆を見回し、困ったことになったとため息をつくのだった。



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