異世界転移 108話目
王宮の正門が吹き飛ぶと同時に、5人組の者達が王宮内に走り込んでくる。
「よし、王宮に着いたぞ、獣王アクロフを探しだしてぶっ殺すんだ!」
「獣王様、出てきなさい!」
「あなたは包囲されてるのです!」
「今なら痛い思いをしないで済むわ!」
「サクッと死ねるよ~?」
ケン達はとうとう獣王国の王宮に突入したのだった……そして犯罪者か悪人にしか見えない言動だった。
「っち! 玉座の間にも居ねぇ、どこに行きやがったんだ!」
ケン達は早くも玉座の間にまで来ていた。
「ていうか、散発的に兵士と遭遇するだけで王宮に仕える使用人もほとんど居ないわね。」
「きっとみんな、私達に恐れをなして逃げたのです!」
「敵前逃亡は死刑よ!」
パールとチェルシーにアルマは辺りの様子をうかがいながらそう言っていると、ポリーが辺りをキョロキョロと見回して言う。
「ん~? 話し声が聞こえるけど……こっちかなぁ~?」
そう言って耳の良いポリーは、犬耳をピクピクと動かしながら1つのドアの前に行く。
「本当です、このドアの向こうから話し声が聞こえます!」
そして着いていったチェルシーもそう叫ぶのでケンが注意する。
「でけぇ声をだすな! 気づかれるだろうが!!」
「主人様の方が大きいわね。」
「パール、いきなり俺の下の話をしだすなんて、あれだけ可愛がってやってるのに欲求不満か?」
「ち、違うわよ! 声の大きさの話でしょ!?」
などと話ながら全員が扉の前に行き、ケンがドアに耳をつけて中の様子をうかがうとニヤリと笑って言う。
「間違いない、アクロフの声だ、野郎はこの中に居る。」
そう言うとケンは、ドアを蹴破る―――ようなことはせず、気づかれて逃げたり抵抗されないよう、慎重に音もたてずにドアを開けるのだった。
「フハハハ! ワシこそが獣神サンダータイガー様だ!
ひざまずけ、そして命ごいをするがいい!」
「おのれ、サンダータイガー! 世界の平和はこのクレセントムーンベアが守る! ベアパンチ!」
「ぐぉ!? おのれこしゃくな!」
「食らえ! ベアキック!」
「ぐおぉぉぉ! お、おのれクレセントムーンベア! このサンダータイガー様をここまで追い込むとは!
だがこの技に勝てるかな? サンダーテイル!」
「キャアァァァ!」
「フハハハ! 死ねえ、クレセントムーンベア!」
「く、くぅ! クレセントムーンよ、私に力を!」
「ふん! 無駄な事を……な、なにい!? 三日月が輝いて……ぎゃあぁぁぁ……あ?」
「……ブハハハ! サンダータイガー、久しぶり! ギャハハハ! く、苦しい!」
「ケ、ケン、何でここに!?」
ケン達が忍び込んで見たものは、孫とゴッコ遊びをする獣王アクロフ改め、獣神サンダータイガーだった。
「ヒィーヒィー……ア、アクロフ、いや悪い、サンダータイガー様、どうぞ続けてください。 ハァハァハァ。」
ケンは笑いすぎて息がヤバくなってきている、そして獣王アクロフはなんでコイツがここに!? っと、信じられないものを見る目でケンを見ていた。
「姫様、陛下にお客様なのでお遊びはここまでにして、おやつにしましょう。」
「おやつ!? わーい!」
侍女がサンダータイガーと戦っていた、クレセントムーンベアを連れて行くとサンダータイガーはフラフラとケンの元に歩きより。
「フン!」
「ヒィーヒィー……な、何度思い出しても笑えブフ!? な、何しやがる!」
いきなり殴り付けた。
「黙れケン! 孫とのゴッコ遊びを知られたからには生かして返さグオ!? しゃべってる途中に蹴るな!」
そしてケンはケンでポーズをきめているサンダータイガーを蹴る。
こうしてケンによる獣神サンダータイガーの討伐戦が始まったのだった。
「つ、着いたぞ!」
「獣王様はどこ!?」
「アクロフ様、成仏してください!」
「「ハァハァハァ……いい加減にくたばれ! グハァ!?」」
「「「……どうなってるのこれ?」」」
フェリクス達が王宮に突入し謁見の間に踏み込むと、ケンとアクロフが壮絶な殴り合いをしていた。
「お、フェリクス様お久しぶりですね。」
「パトリシア様とジャンナ姉さんも元気そうでなによりっちゃね。」
「ハクトウにリンカじゃないか、なんでケンとアクロフ様は殴り合いのケンカになってるんだ?」
殴り合いのケンカをしている2人に驚いていたフェリクス達に、横から声をかけてきたのは獣王国四天王のハクトウとリンカだった。
「いや、アクロフ様のゴッコ遊びをケンが見てしまって……。」
「それでアクロフ様がケンは絶対に面白おかしく言いふらすじゃろうから殺してでも止めるちゃ! っていうてね……。」
「うん、ますます意味が分からん。」
ハクトウとリンカの説明にますます理解できなくなったフェリクスに、リンカが詳しく説明してくれる。
フェリクス達が獣王国の支援を受けて魔王を倒した1年前、つまり6年前に獣王国でめでたい事が起こる。
獣王アクロフに初孫が生まれたのだ。
フェリクス達が魔王討伐の旅に獣王国から旅立った後なので、フェリクス達は知らなかったのだが、女の孫が生まれていたのだ。
で、初孫と言うことでアクロフはアッサリと孫バカになった。
そして6歳になったアクロフの孫、アクリーナの最近のお気に入りが悪の獣神サンダータイガーと戦う正義の獣人、クレセントムーンベアになってゴッコ遊びをすると言うものだった。
「……ゴッコ遊び?」
「じゃ、じゃあ、アクロフ様は本気で獣神サンダータイガーを名乗ってる訳じゃないのね?」
「ハァ……ドライト様から討伐命令が出たから本気で心配しちゃったじゃないさ。」
「ドライト様? なんにしろ最近の王宮のトレンドが、そんな幸せ全開のアクロフ様をコッソリ盗み見する事なのちゃね。
だからゴッコ遊びが始まると王宮勤めの使用人や衛兵達がみんな集まっとうてしまうから、国境の辺りに私やエルフ達が監視結界を展開しちゃって、一定以上の力を持つものが通過するとアラームがなるようにしておいちゃたのよ。」
「それにテクタイト様や俺達が引っかかったってことか。」
「そそ、まぁアッサリとケンには防衛線を突破されてもうたんやけどね……。」
「それはリンカさんが結界から離れてたからでしょ?
まぁ、ケンもそれを見越して行動したんでしょうけど。」
「いやまぁ、そうなんやけど……あ、決着がつきそうちゃわ。」
「お! アクロフ様、ケンをぶっ殺すんだ!」
リンカの説明を聞いている間に、ケンとサンダータイガーの勝負に終わりが見えてくる。
2人ともフラフラだがサンダータイガーの方が足取りも動きもしっかりとしていて、ケンは今にも倒れそうだ。
それを見たフェリクスがアクロフを応援してケンに死ね! っと叫んだと同時にケンの体がパァっと光、怪我が治って足取りもしっかりとなる。
「無詠唱のハイヒールね。」
「威力は落ちるけど、けっこう回復、あ、また回復した。」
「アクロフ様の負けやね。」
「卑怯すぎるだろ!?」
ケンは無詠唱でハイヒールを使い回復したようだ、さらに続けて使ったので完全に回復している。
フェリクスが卑怯すぎると叫んでいるが、パトリシアとジャンナとリンカはそれも能力の1つだと平然としている。
そしてケンがトドメとばかりにラッシュに入ると、もはやサンダータイガーの負けるのは時間の問題かと思われたとき、少女の悲痛な叫びが響くのだった。
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