異世界転移 109話目
「お祖父ちゃん、頑張って!
そんなやつに負けちゃダメ!」
「アクリーナ!? ヌオォォォ! 孫に無様な様は見せられん、ケンよ、死ねえぇぇぇ!」
「ガッハア!?」
サンダータイガーに、アクロフに声援を送ったのはアクリーナだった。
アクリーナの声援を聞いたアクロフはどこにそんな力が残っていたのか、ケンのラッシュを受けながら強烈な一撃を繰り出しケンを吹き飛ばす。
「アクロフ様、トドメだ!
みんな、俺達も支援するぞ!」
「死ぬのだ、ケンよ!」
「くぅ! て、てめぇら!」
フェリクスも声援を送りながら攻撃魔法を練り始める。
……攻撃魔法は支援じゃないだろ。
なんにしろ周りのみんなも呪文を唱えるなりして、アクロフの攻撃で吹っ飛んだケンに魔法を叩き込む。
無言で様子をうかがっていたチェルシー達も、アルマとパールは魔法を撃ち込み、チェルシーとポリーは奥の手のパクっておいたポーションを投げ込んでいる。
「やったか!?」
フェリクスがお約束の言葉を言ってしまったためか、爆風から無傷のケンが出てくる。
鎧を着込んでいるその姿は、冒険に出るときなどの銀色装備だったが、違いが1つだけ有った。
今まで見せたことがない兜をかぶった姿だったのだ。
そしてケンは覚悟を決めたアクロフやフェリクス達に、なぜかドアが開かずに逃げられない犬っ娘4人衆とリンカを見回して言う。
「……てめぇら、皆殺しだ!」
こうして、戦いはケンの勝利で終わったのだった。
「で、ゴッコ遊びをしてたんだって?」
「そうじゃ、まったく、ひどい目にあったわい……。」
「いてて……その装備は卑怯だろ。」
フェリクスにアクロフ達はケンに叩きのめされて、ひざまずかされている。
勇者のフェリクスや獣王のアクロフが居るのになぜにアッサリと叩きのめされてしまったのかと言うと、装備の差だった。
フェリクス達はテクタイトの負担を減らすために装備を身につけておらず。
そしてその装備は剣以外はドライトにもらったもので良いものなのだが、自動装着のような機能は付いておらず、それはパトリシア達も同じだった。
アクロフも孫と自宅でくつろいでいたので装備なんか身につけておらず、防御力の差で叩きのめされたのだ。
リンカと犬っ娘4人衆は真っ先に尻叩きと尻揉みをされて撃沈した。
ハクトウ? ハクトウはポリーがあさっての方向に投げたポーションの直撃を食らっていまだに伸びている。
「はぁ……まぁなんにしろ死んでくれや、俺とクリス達の未来のために。」
「い、いや、待てって! ゴッコ遊びだったんだろ!? ナチュラルに殺そうとするなよ!」
「そうよケン、ゴッコ遊びなんだから問題ないでしょ。」
トドメを刺そうとしたケンを、フェリクスとパトリシアが止める。
だがケンはそんな2人を見ながら言う。
「あの龍はアホだ、だがその力は知ってるだろ? アイツが言う以上は天罰とやらを加えないとダメだろ。
そして命令を遂行しなければ、どうなるのか忘れたのか?」
「あ! た、民が!」
「飢饉は……飢饉だけは回避しないと!」
フェリクス達はアクロフを始末しないと大飢饉が発生するのを、忘れていたようだ。
そしてアクロフも少し向こうで、
「な、なに! 神を名乗ったのが銀龍様の逆鱗に触れたと!
そして不作が10年は続き、飢饉が発生するだと!?」
っとジャンナに色々説明を受けたようで、真っ青になっている。
そしてそんなアクロフはフラフラになってケンの元に来ると、頭をたれてケンに頼む。
「……孫と民のために死のう。
ケンよ、友よ、お前の手でワシの首を落としてくれ。」
そう静かに頼むアクロフ、周りが唖然としているなかでケンは槍を掲げると、何の表情も出さずに言うのだった。
「俺も後から地獄に行くからよ、先に行って住みやすいようにしといてくれや。」
一方その頃、さらにフェルデンロットでは―――
「ケンのお兄しゃんはどこに行ったのかしら、ぜんぜん見かけないのよ?」
「アンナ、ご主人様は獣王国に用事で行ってるの、いつになったら帰ってくるかは分からないわ。」
「そうなのね? 寂しいけどご用事ならしかたないのよ。」
おやつ中のクリスとアンナがそんなことを話していると、ミラーナがため息をつきつつ言う。
「獣王様は大丈夫かしら、本当にお優しい方だから、今頃どうなっているのやら……。」
その言葉に隣に居たカリーナが聞いてくる。
「ミラーナ様は獣王様に会ったことが有るんですか?」
「ええ、3年前にシュテットホルンと獣王国の都との連絡が回復したときに、獣王様がレーベン王国に来て昔のように仲良くやっていこうって挨拶に来たのよ。
会談は色々な理由でロットリッヒで行われたんだけど、ローデリヒ陛下もわざわざ王都から来て盛大に歓迎会が行われたのよ? それでそのときに獣王様の接待役をしたのが私なの。」
「あー、なんとなく聞いたりした覚えが……あれ、獣王様ってなんの獣人でしたっけ?」
シリヤが何かを思い出すような仕草をしながら、フッとそんなことを聞いてくる。
「獣王アクロフ様は熊の獣人よ、月の輪熊のね。」
そんなシリヤにミラーナが答えると、別の場所から興奮した声が上がる。
「ふおぉぉぉ! 熊さんなのね、熊さんの獣人なのよね!
2本足で歩いたり、おしゃべりしたりするのかしらね!?」
椅子に座ったまま興奮して手足をバタつかせるアンナ、そんなアンナの様子にミラーナが驚きながらクリスに聞く。
「ちょ、ちょっとクリス、アンナちゃんはどうしたのよ!?」
「あー、アンナは熊のヌイグルミを昔もらってから、熊が大好きなんですよ。
もちろん本物の熊は恐ろしいものだと教えてますが、獣人の熊さんだったら抱っこしてもらったりモフモフさせてもらえるんじゃないかって言って、熊の獣人に会いたいと昔から言ってるんですよね……。」
そう言ってアンナの今の状態を説明するクリス、そしてそんなアンナは自分の隣に座りクッキーをかじっているドライトに、キラキラした目で話しかける。
「ドラしゃん、熊さんの獣人なのよ、しかも月の輪熊さんですって!
私もケンのお兄しゃんと一緒に行きたかったわ……でもお仕事なら仕方ないのね。
でもでもやっぱり、熊さんの獣人さんに会いたかったわ!」
そう言って来たアンナに、ドライトはクッキーをかじりながら椅子から飛び降り、ドアの前に行くとアンナの方に振り向き言うのだった。
「なら会いに行くのですよ!」
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