異世界転移 107話目




「………………。」


ケンは無言で自分を取り囲む獣人達を見て、スタスタと歩き獣人の1人に近づいていく。


獣人は警戒しているのかケンと一定の距離を保つように後ろに下がる。


それを見たケンは目を細めると……。


瞬間移動でもしたように1人の獣人の横に移動して、小柄な獣人を小わきに抱える。


そして右手を天に掲げ―――思いっきり尻に下げおろし叩きつけたのだった。




「あぶぶぶ……。」


「右尻があぁぁ……!」


「私は~、左尻だけ地獄の苦しみだよ~?」


「あへぇ……主人様あぁ……。」


ケンを襲った獣人達、チェルシーにアルマ、ポリーはそれぞれに尻を叩かれて悶絶している。

パールだけはなぜか揉みしだかれて、別の意味で悶絶している。


「お前ら主人の俺を襲うとはいい度胸だな。」


「か、軽い冗談だったのよ!」


「的確に首なんかの急所を狙って、飛び退く先にもナイフやら投げていて何言ってやがる!」


「でも全部かわしたじゃない!」


「お前ら当たらなかったから良いとかなぁ……誰に似たんだか、まったく。」


ケンとアルマが話をしていると、ケンの背後からアルマ達を擁護するように声がかけられる。


「主人に似たっちゃね、犬人族は主人に似るって言われとるし。」


「お前、それは俺に失礼すぎるだろ!

とにかく早く獣王都に行ってアクロフをぶっ殺すぞ。」


「あらあら……私達の王を殺そうちゃなんて、いい度胸やね? 都まで行けるな、ちょっと待つちゃよ!」


ケンの背後から声をかけてきた巨乳の美女、そんな美女をケンは無視すると、まだ悶絶しているチェルシーとポリーを抱えて歩き出す。

アルマもパールを背負って着いていってしまい、まさか無視されるとは思わなかった美女は慌てて追いかけながら待てと言う。


「獣王国四天王、狐火のリンカ様を無視するなん、いや、本当に無視して行くなっちゃ!?」


ケンはリンカを無視してパールを背負ったアルマをさらに背負うと、空を駆けていってしまったのだった。




「よーし、都が見えてきた。

一気に突っ込んでアクロフの所に行くぞ!」


「ね、ねぇ主人様、テクタイト様すら撃墜されたんでしょ、このまま空から行っても大丈夫なの?」


「大丈夫だ、さっきの魔法は今のリンカが放ったはずだからな。


四天王はアクロフと一緒で脳筋ぞろいでアホだ、唯一リンカだけが狐人族なんで魔法を得意として頭が良い、アホだが。


で、アイツがここに居るってことは都にはたいした魔導士は居ないはずだ。」


「へー、と言うか、主人様は獣人の四天王って知ってるんだ。」


復活したパールがそう聞くと、ケンは昔に会ったことがあると説明をする。


「以前にな、ロットリッヒの屋敷を建てるために木を伐採しに来たんだよ、その時に獣王国の木を勝手に伐採するな! って文句言われたから叩きのめして貰った事があってな。」


「それは奪ったって言うんじゃ……。」


「主人様は強盗だったのか?」


「犯罪者だ~。」


パールは飽きれ、チェルシーとポリーは失礼なことを言う。


「……獣人にとって一番大事なのは力だろ? そして四天王は俺に負けた、なら俺には木をもらう権利が有るのだ!」


「いや、獣王様に勝ったって言うならともかく、四天王に勝ったからってそれはないんじゃない?」


「アルマ、獣王にもちゃんと勝ってるぞ。」


「「「なら問題ない(わね。です! ね~。)」」」


「そうだろう、そうだろう!」


「いや、大問題なんじゃ……。」


ケンの完全な反論にチェルシー、アルマ、ポリーは納得し、パールは頭を抱えるのだった。




「よし、もうすぐ都の上空だ。」


「へ~、獣王国の都ってこんなんなんだ~。」


「木と石が混ざった家がいっぱい建ってます!」


「長老から伝聞として聞いてたけど、本当にこんな風景だったのね。」


ケンはチェルシー達を抱えたり背負ったままに、獣王国の王都上空に迫る。

ここまで来ると都の様子もよく見える、獣王国の建物は一軒一軒がそれぞれ1本の木に寄り添うように建てられており、幻想的な雰囲気をかもし出していた。


そして初めて見る犬っ娘4人衆は、珍しそうにその光景を見ているのでケンが教える。


「獣王国はエルフの都市を参考に造ったって言われてるんだ、エルフの都市は本当に大木と建物が一体化してるがな。」


「なるほどね、こうなるとエルフの都市も見てみたい……あら? 何か飛んできたわよ。」


パールが感心しながら感想を言っていると、都から鳥人族らしき人物が飛び上がってくる。


「ケンよ! ここは四天王である天空のハクトウが通さ「ふん!」ぐわあぁぁ!?」


が、アッという間に槍でケンに叩き落とされる。


「おお~、流石は主人様だ~。」


「すっごい墜ちていきます!」


「ちょ、ちょっと、大丈夫なのあれ?」


撃墜されて家に突っ込んだハクトウをアルマが心配する。


「大丈夫だ、あいつは天空のハクトウ、またの名を撃墜王ハクトウと呼ばれる強者だからな。」


「なんかアッサリと主人様に落とされたけど、そんなに強いのなら大丈夫ね。」


パールが感心しながらそう言うと。


「いや、アイツは強いことは強いんだが、アホで真正面から敵に突っ込むんだ。

だからアッサリと撃墜されるもんで撃墜王って呼ばれててな。」


「すっごいアホです!」


「バカだね~。」


「さっきのリンカさんもだけど、四天王なのになんでこんな……あ、主人様、なんか下で騒いでるのが居るわよ?」


アルマが同族ではないが、仲間の獣人族の面目なさに嘆いていると、都の出入り口の門の上で騒ぐ2人の人物を見つける。




「……降りて……こ……!」


「……卑怯……が!」


騒ぐ2人の周りに獣人の軍隊が居るので軍人だと思うのだが、ケン達は空中の高い場所に居るためによく見えないし、よく聞こえない。


「象人と……猫、じゃなくって虎人かしら?」


「流石はアルマなのです!」


「よく見えるよね~。」


「私なんか大きい人と普通の人にしか見えないわ。」


犬っ娘4人衆の中でも特に目の良いアルマが言い当てると、ケンはあきれながら言う。


「ありゃ四天王の残りだな、戦いには卑怯もなにも無いって昔も嫌になるほど教えたってのに……。

チェルシーにポリー、俺の左前の魔法袋、そうだ、そこの中に例のポーションが入ってるから出して、俺が合図を出したら4人で一斉に落とせ。」




「……今だ!」


[どっかーん!!]


「「「ギャアァァ!!!」」」


「おおお! い、いいのかしら!?」


「すごい爆発です!」


「みんな吹き飛んだわ!」


「門もバラバラだ~。」


ケンは一度通りすぎた門の上までわざわざ戻ると、4人に奥の手を使わせて四天王の残りを倒す。


「よし、王宮に突入するぞ!」




こうしてケンと犬っ娘4人衆は獣王国四天王との死闘を突破し、獣神サンダータイガーを名乗った熊人の獣王、アクロフの待つ王宮に突入するのだった!



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