異世界転移 101話目
ドライトが連れ去られたことにより、ケンとフェリクスのド付き合いは互角になっていた。
「ケン! お前、俺になんの恨みが有るって言うんだ!」
「フェリクス、てめえが民衆を煽ったのに気がついてないとでも思ってるのか?」
「それ以外で頼む。」
ケンとフェリクスはどっこいどっこいだった。
「っち! 今回は引き分けか……!」
「いやお前な、うちの採石場に石が無くなったんだが?」
「そんなもん周りの山を切り崩して、新しく作ればいいだろうが。」
「いくらかかると思ってるんだ! 少し払え!」
「アホが、死ね!」
「なんだと! やるか!?」
ケンとフェリクスは採石場の事で再度もめ始める。
「あっちはほっときましょう、それでミラーナ、今回の件はどう落とし前をつけてくれるのかしら?」
「パ、パトリシアお姉様、フェリクス様だって民衆を煽ってフェルデンロットに押し付けたじゃないですか!」
「……フゥ。 そういうことを言うならちゃんと証拠を「はい、お姉様。」これ、どこから手に入れたのよ!?」
パトリシアは証拠がないと押し切ろうとしたが、ミラーナはしっかりと書類にまとめられた証拠を差し出して押し返す。
『ちょっとノルダール、こんなわかりやすい証拠をどうして処分しなかったのよ!?』
『パトリシア奥様、引っかけですよ! ……不味い、データなどかなり正確です、本当にどこから?』
ノルダールに引っかけだと言われてパトリシアは慌ててミラーナを見ると、ミラーナは凄いどや顔をしている。
そしてノルダールは証拠が捏造されたものだが部分的に本物が混じってて、フェリクスに不利になるものだと素早く理解する。
「……ミラーナ、今回の事はお互いになかったことにしましょう?」
「……パトリシアお姉様、石材で手を打ちますわ。」
「「オホホホ。」」
パトリシアとミラーナそう言ってから目で会話をすると、どこからともなく扇子を取り出して口元を隠し、乾いた笑いをあげるのだった。
「あーあー、嫌だねぇ、貴族の戦いってのはねぇ……」
「あのジャンナさん、ミラーナ様はなんでパトリシア様の事をお姉様と呼ぶんですか?」
「ん? ああ、昔、子供の頃によく遊んでて、その頃にお姉様、お姉様って呼んでたから癖なんだってさ。」
「はぁ……ミラーナ様は昔の事だからって教えてくれなかったんですが、そう言うことなんですね。」
「私もそんなに古い付き合いじゃないけど、ミラーナ様は姉妹が欲しかったって話だよ。
……あ、ケンとうちの旦那が逃げようとしてるね。」
「え? あ!」
ジャンナとクリスは世間話を始めたが、ケンとフェリクスが殴り合うフリをしてジリジリと妻達から距離をとっていたのにジャンナが気づく。
「ちょっとパトリシア、フェリクスが逃げるよ!」
「ミラーナ様、ご主人様が逃げます!」
「「あ、こら待ちなさい!」」
ケンとフェリクスは本気で殴り合っていたが、逃げ出す用意もしていたようで上手く息を合わせて妻達から距離を取っていた、だがジャンナに気づかれパトリシア達にバレてしまい2人同時に走って逃げ出した。
「こ、こら! なんでこんな時は息ピッタリなのよ!?」
そんな2人を見てパトリシアはあきれながら怒っている、対してミラーナは―――
「パール、チェルシー、アルマー、ポリー、Go!」
「ゴーってなによ、ゴーって……」
「追いかけっ子なら負けません!」
「はぁ……仕方ないわね。」
「噛みついてもいいのかなぁ~?」
犬っ娘+ワンに命じて追いかけさせる。
さらにジャンナも参加して5人で追うが、さすがにケンとフェリクスである、巧みに逃げてジリジリと追跡者との距離を離していた、が。
「旦那様、向こうでお話ししましょうね?」
「あ、あれ!?」
「はい、お疲れ様。」
「逃げようとしないでくださいね。」
「い、いつの間に!?」
追い込み漁よろしく、パトリシア達の方に誘導されていたようで囲まれて捕まってしまう。
「いやぁ、あんた誘導が上手だね。」
「私は獣人じゃないからさ、チェルシー達と狩りとかに行くとどうしても差が出ちゃうのよ?
だから動植物の知識を勉強してたら、狩の指揮を取るようになってね。」
「それであの指揮なら才能だね、 大したもんだよ。」
どうやらパールが指揮を取って追い込んだようで、ジャンナがしきりに褒めている。
そして絶賛褒め殺されてるのはケンとフェリクスだった。
「まったく、次から次へとよく問題を起こせるわね、尊敬するわ。」
「ケン、貴族として以前に、人としてまっとうに生活できるようになりましょう?」
「さすがは私のご主人様ですね。」
ミラーナは違った。
なんにしろ先ほどにミラーナとパトリシアの裏取引で決まった事を遵守する方向で、ケンとフェリクスは言い含められ今後の話し合いをさせられる。
「それで、嫌がらせだけじゃなく、本気で石材が欲しかったんだな?」
「ああ、タダでな?」
「なら、俺の領地から産出するんだから、一声かけてくれればだな……」
「うん、タダで欲しいんだ。」
「今持ってる分もお買い上げありがとう!」
「なんでタダで手に入れたのに金を払わないといけないんだ!」
しかし平行線だった。
「とにかく今回の分は仕方ないわね……そちらの巨人族がフェリクスの曽祖父の部下で、この採石場を守っていたなんて情報も知らなかったんだし。」
「若! 若き頃の曽祖父、フェリクス様とそっくりなお姿ですぐに分かりましたぞ! ご帰還おめでとうございます!」
「「「おめでとうございます!!」」」
この巨人、フェリクスの曽祖父に使えていて、シュテットホルンが陥落する際にこの地にとどまりフェリクスの曽祖父が大事にしていた山、採石場を守りながらシュテットホルンの一族の帰還を待っていたらしい。
だがフェリクスにはその後の混乱でその話が伝わっておらず、魔人が使役するサイクロプスが採石場に居たために今まで接触など出来なかったために、巨人族が居ると気がつかなかったそうだ。
ちなみにフェリクスの曽祖父に使えていて巨人族の長の話だと、フェリクスと曽祖父は同じ名前で姿や顔がそっくりなんだとそうだ。
「まぎらわしいな、フェリクス、スケコマシって名前に変更しろよ?」
「お前こそ女の敵って名前にした方がいいと思うぞ?」
「「ハハハ! ぶっ殺すぞ!」」
ケンとフェリクスはそう言い合うと、胸ぐらを掴み合う。
「「「止めなさい!」」」
「「はい。」」
再度殴り合いになりかけたが、パトリシアとミラーナとクリスに怒られて再度土下座体制になる。
「とにかくお姉様、今回は私達に非が……っと言うことで帰りますね。
巨人族がフェリクス様のところに行けなかった原因の魔人の討伐代金はサービスしときます。」
「ちょっとパトリシア、ミラーナ様は今、自分に非が有るってハッキリと言わなかったよ?」
「さすがはミラーナ様……」
ジャンナは信じられないようなものを見る目で、ノルダールは感心しながら言う。
「ジャンナは黙ってて! 私達も民を押し付けて事に非が……じゃあ私達も巨人族の忠臣達に詳しい話を聞かないとだから、またね?」
「こっちもハッキリと言わなかった、同類だよ!?」
「ジャンナ、パトリシア様にしたら造作もないことですよ?」
パトリシアもパトリシアで言葉を濁し、言質を取らせないようにする。
「「……俺達はえらい嫁をもらっちまったな。」」
そしてそれを見てあ然とするケンとフェリクスだった。
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