異世界転移 92話目




「よろしくね?」


「は、はぁ……」


「? どうかしたのかしら?」


「は、はぁ……「邪魔よ!」ぐぇ!?」


「おお! 凄く吹っ飛んだわ!」


よろしくね? っと言って挨拶をするシリカに、ケンは凝視したまま生返事を繰り返していたが、ミラーナが強烈な肘打ちを加えて吹っ飛ばしてシリカの前に出てくる。




「不躾ながら失礼します。


高位のお方とは思いますが、できましたらお名前を教えてもらえないでしょうか?」


吹っ飛んだケンを見ながらシリカは笑っていたが、自分の前にミラーナが出てくると微笑みながら悠然と答える。


「私が高位の存在と知りながら、私と夫の使徒との間に入るとは中々の度胸ね?」


「は、はい、ケンはあなた様の美貌に心を奪われているので、話にならないと思いまして!」


「……そう言うことね? 使徒がこの姿が話しづらいなら、こちらの姿の方が良いかしらね?」


シリカがそう言うと、その姿が一瞬で緑色の龍となった。


それに驚き一歩引くミラーナ、そんなミラーナをかばうように復活したケンが前に出ると叫ぶ。




「チェンジでお願いします!」




「ええっと、ミラーナ、だったっけ? これからはあなたと話すわ?

それと私の名前はシリカよ、改めてよろしくね?」


ケンだと話にならないと理解したシリカは、ケンを殴って吹っ飛ばすとミラーナと話すことにした。


「は、はい、よろしくお願い致します。

それでシリカ様、あなた様はドライト様の奥様で……」


「ええ、そうよ? ドライトには4人の嫁が居るけど、あなたと同じ立ち位置と言えるのは私ね?


元々は姉妹のように仲の良い4人だったんだけど、私達に見合う良い相手が居なくて……それでの力有る龍として誕生したドライトに、4人で嫁いだの。


さっき来た金髪の子がサルファって言って、次女と言うか2番目の妻ね?」


「そ、それではドライト様を連れていかれた、白髪の方は……?」


「あー、それはセレナ様ね、ドライトのお母様でこの世界にも関わりの有るディアン様の奥さんよ?」


「な、なるほど……それで今回シリカ様がこの世界に降臨されたのは何故なのですか?」


ミラーナがそう言うと、シリカが顔をしかめる、その反応によっぽどの事だと考えたミラーナ達は緊張して身構える。


「最近、夫のドライトがちょくちょく居なくなってたの、私達が普段に住んでいる世界のどこかに行ってるのだと思ってたんだけど……この世界、マナルに来ていたのよ。


まぁ、あなた達は会ってたから来てることは知ってたとは思うけど。


なんにしろそれを知った子が2人、駄々をこねて? 私達も異世界マナルに遊びに行きたいって言い出したのよ……」


「それはもしかして先ほどの……」


ミラーナの言葉にシリカがうなづくと、ため息をつきながら説明をする。




「別に行くなとは言わないわ、私や他の姉妹にその眷族の神達も別の世界に行くことが有るしね?


でもね、まだ幼いあの2人だけで行くとなると問題が有るのよ?」


「は、はぁ……」


「龍ってね、基本的に短気で喧嘩っ早いの?」


「は、はぁ?」


シリカがいきなり龍族の性格の事を言い始めたのでミラーナ達は混乱するが、それを無視してシリカは続ける。


「夫のドライトはそれこそ例外中の例外として温厚で優しいわ?


でもね、龍は本当に短気よ? 特に、若い子ほど怒りを押さえられずに暴れてしまうわ?」


「! そ、それって!」


「そう、さっきもケンがドライトの事を呼び捨てにしたけど、私が来なかったらステラとルチルに殺されてたわね? ここに居る面々も一緒に。」


「そ、そんな!?」


シリカの言葉に驚くミラーナ、他の面々は真っ青になって聞いている。


「怒りのコントロールの練習が足りない幼い龍には良くあることなの、そしてそんな幼い龍に反撃をして傷でもつければ次の相手はその親よ? その世界がどうなるか……解るわよね?」


シリカはそう言いながら力を解放する、その凄まじい力の一端を間近で見たミラーナ達は真っ青どころか、真っ白になってしまう。


こんな恐ろしいものがこの世界で暴れたら? 邪神戦争なんかお話にならない目に会うことは間違いないだろう。


それが一瞬で理解できるほどの力だったからこそ、真っ白になってしまったのだ。


そしてその事をこのに居る皆が理解したことを確認したシリカは力を押さえ、周りを見回すと言う。


「良い? 私は龍の若手の中では強い方だけど、私よりも強い龍は山ほど居るわ? その1柱がドライトよ? ハッキリ言ってドライトと私の力の差は天と地ほどあるの? その妹のであるステラとルチルの力がどれぐらい有るか……分かるわよね?」


シリカの話を聞いて、今更ながらこの世界、マナルの危機だったと気がついたのだった。




知らずに世界の危機を迎えていたと知ったミラーナ達は言葉も出せず、身動きも出来ないでいたが1人だけその事を理解していない者が動き出す。


「美人のお姉しゃんこんにちわ! 私の名前はアンナって言うの、それでドラしゃんを探しているのだけど、お姉しゃんはどこに居るか知りませんか?」


「あらあら、可愛らしい。

ドラしゃんって言うのはこのドライトで良いかしら?


このドライトだったら母親の所に居るわよ?」


シリカは手のひらにドライトの映像を浮かび上がらせ見せて確認をすると、ドライトは母親の所に居ると言ってアンナを安心させる。


「そっかぁ……じゃあ、ドラしゃんは寂しくないのねー?」


「ええ……両親や妻達に遊び道具、いえ、友達の神々が居るから大丈夫よ?」


シリカは神々を遊び道具呼ばわりしかけたが、なんにしろアンナを安心させようとしてくれる。


「……寂しくないなら安心したわ!


お姉しゃん、教えてくれてありがとうございました。」


一瞬、寂しそうな顔をしたアンナだったが、すぐに笑顔を作ってシリカに向かいお辞儀をしながらお礼を言う。




「あらあらあら! 本当に可愛らしい!」


「あ、あとさっきの双子のお姉しゃん達にも優しくしてくれてありがとうございました。 って言わなきゃだ! どこに行っちゃったんだろ?」


「キャー! 本当に可愛いわ! 安心してね? さっきの2人には私から伝えとくから。」


「本当ですか? 美人のお姉しゃんありがとうございます! 双子のお姉しゃんになでなでしてくれて、ありがとうございます! って伝えてください!」




アンナはそう言って、もう一度ペコリとシリカ頭を下げてお礼を言う。


それを見たシリカはもう我慢ならないとばかりにアンナを抱きしめて言い放つ。




「こんなに可愛らしいのだもの、私の加護を与えなといけないとだわね!」




その途端にシリカの全身が輝き、その輝きはそのままアンナに向かうのだった。



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