異世界転移 91話目




「アンナ、良い子だから諦めて?」


「やー!」


「アンナ! ドライト様だって暇じゃないのよ? 我が儘ばかり言うんじゃありません!」


「いーやー! ドラしゃんを呼ぶのよ! きっと寂しがってるわ!」


現在、アンナは人形やクッキー等が並べられた珍妙な祭壇の前で駄々をこねていた、クリスとクラーラが必死に説得しているが普段は聞き分けのいいアンナが、今回は一歩も引かずに祭壇の前から退かずにいる。




「ほーらアンナ、見てごらん?」


「なにしてるのよ! ゴス! ……ってなんだ、縫いぐるみか。」


ヤバイことを言い出したケンはミラーナに殴られて止められたが、その手の中にあったのは小さなドライトの縫いぐるみだった。


「いってえな? ミラーナはよく確認してからだな? ……あれ? 縫いぐるみはどこにいった?」


ケンは殴られた拍子にドライトグルミを落としてしまった様で、手の中から無くなっていた。


「ごめんなさい、変質者にでもなったのかと思って……縫いぐるみならあそこよ? でもケンってばあんな縫いぐるみを持ってたんだ?」


ミラーナはそう言いながら、アンナの祭壇の側に転がってるドライトグルミを指差す。


「ああ……俺の魔法袋の中にいつの間にか……って!」


そう言うケンの視線の先で、目をキラキラさせながらドライトグルミを拾い上げ、祭壇の中央に置くアンナの姿があった。


それを見てケンはなぜ自分の魔法袋の中にあんなものが入っていたのか気がつき叫ぶ。


「止めろ! くっそ、結界が壊れねぇ!」


槍を取り出してアンナを止めようとするケンだが、何かに阻まれてアンナの側にまで行けない。


実はクリスやクラーラもアンナを抱き上げるなりして止めなかったのは、2人も結界に阻まれてアンナの側に行けなかったからだ。


なんにしろアンナはドライトグルミを祭壇の中央に置き、その他の人形やクッキー等の捧げ物の位置を調整すると、大きな声でドライトを呼ぶのだった。




「ドラしゃーん、来て―――!」




その瞬間、世界が凍った。




ケンは自分が意識が有るのだが指一本動かせなくなっているのに気がつき、視線の中に居るもの達の様子を見る。


すると視線の中に居るクリスとクラーラと、端に見えているミラーナ達も意識は有るようだが微動だに出来ないようだった。


そして祭壇の前に居るアンナは、突然周りの皆が静かになり動かなくなったのと、風の音すらしなくなったことに驚き半泣きでオロオロしている。


「「あなたね? 兄様を呼び出した愚か者……あら可愛い?」」


そしてそんな時だった、突然になんの前触れもなく2人の少女が現れたのは。


2人の少女は現れると同時にそう言って召還者をにらもうとしたが、アンナを見て視線をやわらげて頭をなで始める。




「お、お姉しゃんは誰ですか? ドラしゃんはどこ?」


アンナは突然現れた2人に驚きながら質問をする。


「私の名前はステラ、兄様は居ないわ。」


「私の名前はルチル、兄様は母様に叱られてるわ。」


「ちょっとルチル、そんなことを言ったら兄様の威厳が損なわれるわよ?」


「大丈夫よステラ、兄様の威厳はこの程度では傷すらつかないわ?」


2人の少女は自己紹介をすると同時に兄、たぶんドライトの事だろうが不在だと言う。


そして言い合いを始めた2人にどうすれば良いのか分からずに固まってしまうアンナ。


ってか叱られてるのか……母ってドライトを拐っていった、あの白髪の美女が母親か? そんなことを考えていると体が動くようになっていることに気がつく、俺以外の全員が!


俺以外は動いてる! 何で俺は動け……この2人のせいか!?


アンナをかまっていた2人の少女、ステラとルチルの視線が俺に向いているのに気がついた俺は、そう気がつくと同時にゾッとする。


2人の視線がアンナを見るときと違い、慈しむような視線ではなく凍てつくような冷たい視線だったからだ。




「ルチル、この男は何者? 私の記憶にないのだけど?」


「ステラ、私も知らないわ。

でも兄様から使徒の称号をもらってるわね?」


「生意気ね?」


「生意気だわ?」


そう言って俺をジッと見る2人の少女、双子なのだろう12歳位の2人の美少女の見た目は片方が目の色が青色で、もう片方の目が金色と言う以外はまったく違いがなく、銀髪でこの世のものとは思えないほどの美少女達だった。


「お、俺はドライトに「「ドライトに!?」う!?」」


「ルチル。 私は今、兄様が呼び捨てにされた様に聞こえたのだけど、幻聴だったのかしら!?」


「ステラ。 私にもそう聞こえたから間違いじゃないわ!」


『ヤ、ヤバイ! くっそ、殺られる!』


呼び捨てが不味かったようで一気に2人からの圧が高まる、そのせいで俺は死を覚悟していたが不意に俺にかかっている圧が無くなった。


「ステラ、ルチル! 何をしているの!」


「「シリカ姉様!?」」


圧が無くなると同時に、いきなり俺の目の前にまたまた美少女が現れる。


新たに現れた美少女は18歳位で、エメラルドグリーン色の瞳とポニーテールにした髪を持つ美少女だった。


そしてこのシリカと呼ばれた美少女が何かをしているようで、ステラとルチルはいまだにケンをにらんでいるが圧は一切なくなっている。




「2人ともいきなり消えたから、ディアン様にセレナ様が大慌てで探しに出たわ! 龍神様達もよ! それなのにドライトが落ち着いていたから変だと思って締め上げたら、マナルの自分の使徒の所に居るって吐いたから私が迎えに来てみたら……ドライトが使徒の称号を与えたものを害そうなんて、何を考えているの!?」


「で、でもシリカ姉様、こいつは兄様を呼び捨てに!」


「そんなの今に始まったことじゃないでしょ!」


「そ、それはそうですが、納得できません!」


「あなた達が納得してなくても、ドライトが問題にしてないならあなた達も問題にせず納得しなきゃダメでしょうに!」


「「で、でも……」」


「でもじゃありません! サルファ、2人を連れていって!」


「はいはい、2人とも諦めて帰りましょうね?」


「「サ、サルファ姉様まで!?


い、嫌です! 私達もこの世界で遊ぶ……ああ!?」」


シリカの合図で現れた、ウェーブのかかった金髪に金の目の美少女が、ステラとルチルを抱き抱えると消えてしまった。


ってか、最後に本音が漏れてたぞ?


なんにしろ俺に圧力を加えていた2人が消えたので、ホッとしているとシリカと呼ばれていた美少女が俺の前に来て謝ってくる。




「ふぅ……ドライトの妹達がごめんなさいね?

それであなたがケン、ね? 私はドライトの嫁のシリカよ?


さっき締め上げてやっとあなたの事をドライトが吐いたから来たのよ。


マリルルナさんもマナルの利益になるって、だんまりを決め込んでたから私達も気がつかなくって……


なんにしろドライトが珍妙なことをし始めたら、遠慮なく私達に報告してちょうだい? よろしくね?」


そう言ってエメラルドグリーンの瞳と髪を持つ美少女シリカは、ニッコリと微笑むのだった。



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