異世界転移 90話目




「おう、帰ったぜ?」


「ああ、悪いなアルヴァー、それでなにか分かったか?」


「ああ、それなんだがな? ケン達が来る前にあげた報告書は読んでるか?」


「あれか? フェルデンロット地方の魔物の分布と予想される数。」


「ああ、あれに大森林の浅い部分のことも少し書いてあったろ?」


「確かオークのかなり大規模の巣が有るって……おいまさか?」


「そのまさかだよ。」




ドライトがブレスを放ってから1ヶ月、ケンは仮の屋敷を建ててそこで執務を取っていた。


そして今、話しているのは楽園の探索者を率いるアルヴァーだった。


ケンはドライトがいきなりなぜブレスを放って、いったい何をしたのか調べるために、アルヴァー達を雇いブレスが放たれた方向の探索を頼んでいたのだ。


「前にオークの斥候や狩りをする部隊の位置や数から、ドライト様がブレスを放った方向にオークの巣が有るって報告してあっただろ?


その場所を俺とフェルシーにカウノとミルカのパーティーで確認してきたが、オークの集落が有っただろうな? って確認だけ出来たわ。」


「……つまり全滅してたってことか?」


「ああ、多分な、オークの建物と同じ特徴の跡が残ってるって、レンジャーや斥候達が口をそろえて言っててな……建物も何も、影も形も綺麗に無くなってたんだけどな?」


「……そういや、アンナの親友やその家族を食ったのはオークとオーガだったな、だからアンナは特にオークとオーガを見るとパニクってしまうらしい。」


「なるほど、それでドライト様はオークの巣を狙い撃ちにしたのか……なんにしろ予想ではこの周辺で一番ヤバイ魔物の集落だったんだが、綺麗さっぱり消えてるからな? 今後は2~3年はフェルデンロットを襲うような魔物は居ないだろうな。」


アルヴァーの言葉に安心せずにケンは言う。


「魔人以外は、だろ?」


「ああ、魔人が率いる軍勢以外は、だな。」


ケンとアルヴァーはそう言い合いながら今後の予想を話し合っいると、執務室のドアが開きフェリシーが部屋に入ってくる。




「ああ、いたいた、あなたケンもちょっと聞いてちょうだい。」


「なんだフェリシー、アルヴァーと別れるのか?」


「お前は何を言ってやがる!」


「違うわよ……アルヴァー達には話してあるんだけど、オークの集落跡の話よ。」


「? オーク共は綺麗に消えちまったんだろ?」


ケンがそう言うとフェリシーはうなづきながら答える。


「ええ、周りの動植物には一切被害がなく、オークやその建造物だけが消えてたんだけど……あそこは問題よ? 物凄く濃密な魔力が渦巻いてるわ、低級な魔物なんかならそれはそれで死んじゃうほどだけど、魔力を食べるタイプなんかは寄ってきて力を増しちゃうかもしれないわ?」


「……ドライトがそんな失敗するとは思えんが、一応定期的に見回ることにするか、それで他には異常は無かったか?」


ケンがそう言うと、アルヴァーとフェリシーはお互いに顔を見合わせてから答える。


「ああ、異常は無しだ、いや、無さすぎだな。」


「そうね、異常が無いのが異常ね、大森林の浅い部分に魔物がまったく居ないのよ、異常と言えるのはこれだけね?」


「ドライトのブレスの効果か……?


なんにしろこれがどれだけ続くか分からんが、チャンスと言えばチャンスだな……民の移動を始めるか? まずは貴族や各文武官に屯田兵達の家族達だな、次は若い者が多い家族だな。」


ケンはそう言うと、移動計画を前倒しにするとどうなるか頭のなかで考え始める、そんなケンにフェリシーが苦笑しながら質問をする。




「ケンったらすっかりと指導者ね……それでケン、肝心のドライト様は結局帰ってこないの?」


「ああ、飯の途中に現れた例の絶世の美女に連れ去られてから、帰ってこないな。」


フェリシーの質問に移動計画をどうするか考えていたケンは、思考を止めてフェリシーにそう返す。


「あなたやクリスちゃんが見た限りだと、ドライト様と同等かそれ以上の存在なんでしょ? ちょっと信じられないけど……」


「ああ……それでミラーナとクリスの考えだとドライトの親族じゃないかって言うんだ、ドライトが一切抵抗をせずに連れていかれたからってな?」


「……人の姿で白髪に金の目、それでいて絶世の美女か。


正直、ドライト様のことは謎が多すぎるのよね? 教会はマリルルナ様の使いだと言っているけど、今までのマナル歴史でドライト様が現れたことはないのよ。


だからドライト様に関する情報は極端に少ないの、正直、名前だってケンからの伝で最近になってやっとわかったんだからね?」


フェリシーの言葉にアルヴァーもうなづくのを見ながらケンは言う。


「俺だって詳しく知ってる訳じゃないからな?


ドライトに出会って15年、最近はやたらと見かけるけど今までは連絡すらつかなかったんだからな?」


そう言いながらケンは地図と何かの書類を取り出して、執務室の外の部屋に居るマックスを呼ぶとクッコネン達を呼ぶように頼む。


「クッコネンにロボネン、ミラーナを呼んでくれ、アランは……街道の巡回か、アランはいい。


それとそのあとにロットリッヒ辺境伯と陛下に手紙を出す、代筆を頼む。」


「かしこまりました。」


すでに家宰として貫禄が出てきたマックスは、一礼すると部屋を出ていく。


「ドライトの問題は置いておくとして、民衆の移動だ。


クッコネンやロボネンと話し合いをして、早期に移動を開始する、アルヴァー達も頼むぞ? 街道沿いの魔物と盗賊の討伐をしてくれ。」


「おう、報酬としてクランハウスが貰えるんだろ? カウノとミルカはもちろん、フェリシーも気合いが入ってるからな、楽園の探索者は総力を決してやらしてもらうぜ?」




「あ、その事で聞きたいこ「ケ、ケン大変よ!」ミラーナ様!?」


フェリシーがなにかを言おうとしたと同時に、ミラーナが焦った表情で執務室に飛び込んできた。


「ドライト様が居ないって探してたアンナちゃんが、召還するとか言い出したの!」


「! 悪魔の召還をさせるな! 急いで止めるぞ、ミラーナはクリスを呼んでアンナを説得させるんだ!」




とんでもないことを言い出したアンナを止めるために、ケンは執務室の扉を蹴り破る勢いで出て駆け出したのだった。




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