異世界転移 82話目



ここはカルタサーラにある屋敷の一室、初老にさしかかった男とケンが探していた豪華な装備を身につけ、奴隷狩りを指揮していた若い男が2人で顔を見合わせていた。


初老の男に表情は無いが、若い男の方は怒っているようでどこか焦ったような表情をしていた。




「……やってしまったな?」


「父上、申し訳ありません……しかしあの男には必ず報復をしてみせます!」


「……もうよい、下がれ。」


「ち、父上……! さ、下がらせてもらいます。」


報告を聞いた初老の男はやはり表情を出さずにそう言い、若い男を部屋から出す。


そして別室につながるドアに視線を送ると、軽く自分の座る椅子を3度叩く。


するとドアが音もなく開き3人の男が入ってくる。


「……あいつにも困ったものですね、まさかレーベン王国にまで奴隷狩りに行くとは。」


「補佐につけた傭兵達はかなりの手練れだったんですが、アッサリと負けましたな?」


最初に話し出したのは部屋から出ていった若い男よりも数歳年上に見える青年で、次に声を出したのは初老の男と同年代の剣を腰に着けた武人の様な男だった。




「相手は天槍のケンだったそうだ、英雄と言われているが実力に疑問が有ると参謀達が言っていたが、な?」


「ふん! 自分の目で確認もしないで何を言うかと……! 若もあいつ等の戯れ言に惑わされてはなりませんぞ?」


「ははは……ジイは相変わらずだな。」


「ふぅ……なんにしろやってしまったことに関しては仕方がない、評議会に報告して今後の事を考えないとだな……すまんが準備をしてくれ。」


初老の男がそう言うと、今まで一言も発しなかった男が一礼して部屋を出ていく。




「父上、それでレーベン王国にどう対応いたしますか?」


「ふむ……お前達ならどう対応する?」


「外交的にはレーベン王国の出方を待つしかありませんね、何かを言ってきたら謝罪をして、言ってこなければ惚ける。


これしかないでしょう。」


「軍の準備は出来ていますがレーベン王国が相手となると、かなりきついですぞ? それに北方の帝国は婚姻同盟を何度も結んでおりますし、こちら側につくとは思えませんな。」


「……やはりそうか、それで天槍のケンについてはどの程度と考える?」


レーベン王国に対する対応を決めると、ケンにどう対応するかの話になる。




「情報部から黒竜王テクタイトと面識が有り、タイマンで勝ったとの情報がありましたが……参謀達は笑い飛ばしてましたがね?」


「だからあの頭でかっち共は使えぬのだ……例え話し半分でもテクタイトと渡り合って生き残ったと言うだけで、警戒するべき相手なのですからな?」


「そうですね、私は勇者クラス、しかも風の勇者フェリクスと同等と考えています。」


「フェリクスと同等か……厄介だな?」


「レーベン王国のほかの勇者や将軍達は我軍の将が相手にすれば問題ないでしょうが、フェリクスとケンについてはワシ等12将が相手をしなければなりませんでしょうな?」


「レーベン王国の軍は精強だぞ? 我軍の将達で勝てるかのか?」


「奴隷兵をあてれば問題ないでしょう、奴隷の中にもかなりの使い手が居りますから、そいつ等を数であてれば……」


「そうだな、奴隷兵ならいくら死んでも構わんし、良い口減らしにもなるか?」


「では父上、私は参謀部に帰ります。


ついでに外交部にも召集をかけて今回の件を今話した方向でまとめてきます。」


「評議長閣下、私も軍に戻りレーベン王国との戦いについて話し合ってきます。」


そう言うと青年と武人の様な男達も部屋から出ていく、それを見つめながら部屋に残った男はポツリとつぶやく。




「レーベン王国か……先に小国家群をなんとかするべきか?


そうすれば奴隷兵も増えるからな? ……ふむ。」




1人目をつぶり考え事を始める初老の男、カルタサーラ共和国の評議長スカルファロット、彼はおのれの野望と今後の事をユックリと考えるのだった。




だが彼の次男は自分の不手際を言い訳するために、ある重要な情報を伝え忘れていた。


そう、カルタサーラ共和国の主力である奴隷兵、その奴隷兵の隷属の首輪を簡単に解除する魔道具があると言う情報をーーー




そして現在の鍵の持ち主であるケンと言うと。


「それで肉を渡せば赦してくれるんだな?」


「そうです、あれは家族と居候とで食べた時に、居候の分をちょろまかして用意したものなんですからね!」


頭にしがみつき離れなくなったドライトと話し合っていた。


「わかったよ、肉を用意すれば良いんだろ? それで何の肉なんだよ?」


「よくぞ聞いてくれました! 馬刺の本場の1つの熊本で220年続く菅乃屋さん、その通販サイトで買い求めた国産の最上級馬刺のブロックです!


さあ! 用意してください!」


「用意できるか!」


「な!? 用意すると言ったじゃないですか!」


「お前、地球の物を俺にどうやって手に入れろってんだ?」


「世の中、異世界や元に居た世界の物を手に入れられるスキルが有ります、それを気合いで覚えればなんとかなりますよ、さぁ、レッツチャレンジ!」


「出来てたまるか!」


一瞬、ドライトが何かしらスキルをくれるのかと思ったら、まさかの根性論だった。


そしてギャアギャアと騒ぎながら揉めていると、クリスがドライトに近づいてあるお願いをする。


「ドライト様、この解錠の魔道具を複製してもよろしいでしょうか?


これが有れば騙されたり無理矢理に奴隷にされた者達を助けられるので……」


それを聞いたドライトはチラリとクリスを見ると、言い争いを止めてクリス達に言う。




「私も神の端くれです、可哀想な人々は助けたいですが神にも色々と制約が有るのです……具体的にボカして言うと賄賂をくれと言うことです!」


こうしてクリスはドライトに色々と手料理を作り食べさせ接待し、解錠の鍵の劣化版で解放の指輪という魔道具を設計図ごと貰ったのだった。




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