異世界転移 75話目




「ケン、準備は良い?」


「ご主人様、やはりその装備だと凛々しくて格好いいです!」


「私や私の子供が贅沢できるように頑張って!」


「上手くいったら一晩どころか1週間付き合います! ……奥様とクリスとカリーナが!」


「まかせとけ! あとシリヤも一緒に可愛がるから安心しろ!」


「全然安心できないんですが!?」


ケンは屋敷から愛する妻に第二夫人、そして愛人2人に見送られて出ていく。




そう、これからロットリッヒに集まった移民達に演説をするために……


彼女達は見送る、銀龍ドライトに授かった装備一式を身に付けた愛する人を……




なんで一緒に行かずに見送るのか? 夜に色々とケンに攻められて腰が抜けているからだ!


「チェルシーちゃん、頼んだわよ! ケンが変なことをしないように、見張っててね!?」


「あおーーーん!」


ミラーナの祈るような言葉にチェルシーは遠吠えで答えるのだった。




「と、言うわけで城壁の上なんだが、何故か俺1人だけ。」


「ワンワン!」


「あ、チェルシーが俺の影に隠れてた……辺境伯様とかどうしたよ?」


「移動のための書類とか言うのを書いてるって言ってました!」


「そうか……何にしろチェルシーだけでもついてきてくれて良かったよ、小心者の俺はあんなに大勢の人の前に出たら恥ずかしくって照れちゃうからな?」


「主人様、狂ったか?」


「この駄犬、犬耳を引っこ抜くぞ?


ってか、なんでお前はついてきたんだ? お前の性格だと平原に遊びに行くか、屋台に買い食いしに行くはずなのに……」


「ミラーナ様が主人様を見張れと言ったのです、それで変なことをしたり言ったら、それを報告するのです、そして報告すればお小遣いがもらえるのです!」


「お前、スパイかよ!? あ、こら、影の中に逃げ込むな! 出てこいコラ!?


……チクショウ! 影魔法なんか教えなければよかった!」


「あ、あの総督閣下、みんな待ってますが……」


「おう、すまんなモブ騎士君、今行くよ。」


「はぁ……、アランなんですが?」


おお! 本当にアランだ! 顔とか忘れててモブの人かと思ったわ!


呆れた表情のアランを背後に、影の中にスパイを連れて俺は前に出る、そして城壁の端まで行き下を見下ろすとロットリッヒの城壁の外にはひしめく民衆が居たのだった。




「諸君! 待たせたな!」


「あ! フェルデンロット子爵様だ!」


「総督閣下!」


「天槍のケン様に栄光を!」


「我等の総督閣下に勝利を!」


おれが声をかけると民衆は俺に気がつき、一斉に歓声があがる。


「みんな、聞いてもらいたい!」


少しの間、歓声に答えて手を振るなどしていたが少し落ち着いたところで俺はそう叫び民衆に静まるように言う。


すると少しざわついたが民衆は俺の話を聞こうと静まり返る。


「ここでもっとも美しい少女を差し出せとか言ったら面白く「ワン!」冗談だって!


コホン、みんなの中には聞いている者もいると思うが先遣隊のクッコネン達とアルヴァー率いる楽園の探索者がフェルデンロットを奪還した!」


「「「……おおおおお!!!」」」


ケンのフェルデンロット奪還を聞き、噂が真実だと知った民衆から再度歓声があがる。


その歓声は城外の移民だけでなく、城内に居るロットリッヒの民衆からもわき上がる、それが静まるまでケンは5分以上待っていると民衆の一部から「閣下がまだ何かお話になるぞ!」「みんな、静かにするんだ!」等の声があがり次第に静かになる。


「みんなの期待は分かる、だが焦って行動に出れば混乱してしまい上手くいくものもダメになってしまう。


だからこそ従ってもらいたい、フェルデンロットに向かうのは最初に屯田兵達で、次に彼等の家族だと!」


ケンの言葉に民衆は少し騒がしくなる、その中にやはり落胆の声と不満の声が混じっているのは仕方がないことだろう、だからこそケンは腹に力を込めて怒鳴り付けるように言う。




「諸君の中には何故、屯田兵の家族が先なのか不公平だと思うものも居るだろう!


だが! 彼等、屯田兵がまず最初に向かうのには理由が有る!


彼等はクッコネン達、先遣隊が踏み固めた道を整備して、簡易的な拠点を造るという仕事が有るのだ!」


ケンの力のある声に民衆はまた静まり返る、それを確認すると静かに語り出す。


「日中は道や拠点を造り、夜は野宿で夜営をしてフェルデンロットまで向かうのだ、その苦労は先遣隊よりも多いかもしれない……さらにはフェルデンロットに着き次第、休む間もなく彼等は君達の受け入れ体制を整えるのだ……だからこそ、彼等の家族を先に行かせてやりたいのだ!」


ケンの言葉に民衆の中からポツリポツリと肯定的な意見が出てくる。


「仕方がないか……彼等は俺達のために働いてくれるのだものな……」


「ああ、それに閣下が言うんだ、間違ったことは言わないだろうから従った方が良いよ。」


「逆に勝手な行動をすれば現場が混乱して俺達が向かえるのが遅くなるぜ?


これは長年工事現場で働いた経験から言うから間違いないぜ? 他の仕事でもそうだろ?」


「そうだな、俺は鍛冶屋だけど経験のないのに勝手に動かれれば炉が止まることもあるからな?」


「ここは総督閣下に従おうぜ!」


こんな意見が出始めると、ケンは嬉しそうな表情になりウンウンうなづきながら思う。


『よし、辺境伯の間諜や盗賊ギルドの奴等は上手くやってるな!』


まぁ、そう簡単に民衆をコントロール出来るとは考えなかったケンは、ロットリッヒ辺境伯麾下の間諜や昔にボコッた盗賊ギルドの者を使って煽っていたのだ。




何にしろここで民衆のこころを1つにする必要が有ると感じたケンは、城壁の一段高いところに上がり声を張り上げる。


「だが諸君! 落胆をする必要は無い! 屯田兵の家族が出発したあとには、君達がフェルデンロットの向かうのだから!


私はここに約束をしよう! 夏までに、夏までには君達移民や開拓民をフェルデンロットに送り出し始めると!」


「「「………………うおおおお!!!」」」


「……帰れる、帰れるぞ! 祖父母の土地に!」


「フェルデンロット子爵万歳!」


「総督閣下万歳!」


民衆、移民や帰還民は夏までに自分達も移動が開始できると聞き、一気にヒートアップして今まで1番の歓声をあげる!


こうしてフェルデンロットの本格的な復興が始まったのだった。




「あれ? チェルシーの気配が消えたな……あいつ屋敷に向かってるのか? ……ま、まさか美少女を差し出せってのミラーナ達に報告するつもりか!?」


「そ、総督閣下、どこに行くんですか!? いま去られたら民衆が不安に思います!」


慌てて追おうとしたケンだったが、アランに止められる。




「ク、クッソー! あの小娘、飯抜きだ!」




フェルデンロット子爵ケンは、チェルシーの飯を抜くか自分だけ先にフェルデンロットに旅立つかを真剣に考えるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る