異世界転移 74話目
「ちょっとケン……ケンってば!」
「ミラーナ様、気絶してますから無理だと……」
ケンに詳しい話を聞きたいが、ミラーナからの痛恨の一撃でケンは気絶してしまっている。
「なんとか起こせないかしら……」
「うーん……え!? カリーナとシリヤ、カウノさんとミルカさんに襲われたの!?」
「なんだと!? 死ね!!」
「「ぎゃあぁぁぁ!!」」
ミラーナの言葉にクリスが恐ろしいことを言うと、カウノとミルカは驚く暇もなく飛び起きたケンに殴り倒されたのだった。
「……襲われたんじゃなく、教わったのね?
ごめんなさい、私の勘違いだったわ。」
「あははは、クリス、酷すぎ。」
「どうやったら、素手で鋼鉄製の胸当てに穴が開けられんでしょうか?」
「わんわんわん!」
「チェルシーちゃん、頸動脈を噛んでとどめを刺そうとしちゃいけません。
バッチイでしょう!」
「なんだ、言い間違いか……2人とも悪かったな? なに? 気にしなくて良いです? そうか、元気そうだし大丈夫だな!」
どうやらクリスの聞き間違いだったようで、カリーナとシリヤは冒険者としての心得を教わったのだそうだ。
カリーナとシリヤはケンに殴られてボロボロになって気絶しているカウノとミルカを眺めながら片方は笑い、もう片方は真剣な表情で自分とケンの拳を見比べている。
そして白目をむいて泡を吹く2人にとどめを刺そうとする、チェルシーとそれをバッチイからと止めるミラーナ。
そして一言も発せない2人を部屋の中の全員が見なかったことにして、ケンにどう言うことか聞こうと迫る。
「さっきもその2人が言ってたけどよ、アルヴァー達をクッコネンより先行させておいたんだ。
俺やアルヴァーに、ヘルダのばばあ達冒険者ギルドの認識は一致しててな? フェルデンロットにはたいした魔人は居ないだろうし、フェルデンロットを占拠してるのも数だけ多いオークがメインだろう? ってな?」
「え、ええ、それは聞いたけど、それでフェルデンロットは取り返せたの?」
「ああ、報告通りなら取り返すことに成功したはずだ。
あとはクッコネン達がある程度の場所を確保して軍の駐屯地を造り、屯田兵をそこに入れて一気に残骸の撤去を始める。
秋までには屯田兵の家族もロットリッヒに入れたいな、家族がいれば屯田兵達のやる気も違うからな?」
「いや、まて総督、クッコネン達やアルヴァー達ならまだ分かる、精鋭に優秀な冒険者達だからな?
だが屯田兵達や家族は違う、新兵に毛が生えたようなのと一般人だ、そんな彼等に道もほとんど残っていない荒野を進ませるのだ、半年ほど猶予が有るとはいえ厳しいのではないか?」
「何故ですお祖父様? 王都からここロットリッヒまで1ヶ月で来れました、ならほぼ同じ距離のフェルデンロットまでなら同じぐらいの時間で行けるのでないですか?」
早速地図を取り出して物資と人員の輸送のために距離などを計算し始めていたヴォルターとシルヴィアはなにかに気がついたのか、「あ!」っと言う表情で固まっている。
「王都からロットリッヒまでは軍の護衛が多数いた、それに街道はしっかりと整備されているし都市や町にはある程度の宿泊施設も有った……しかしここからは道もほとんど残っていないし、宿泊施設なんぞないんじゃぞ?
それでどうやって王都からと同じように移動できるのだ?」
祖父に言われてミラーナだけでなくロボネンやクリス達も気がつく、ロットリッヒから先には道などほとんど残っていないのだと。
だがそんな空気を感じてないかのごとくケンがのほほんと言う。
「いや、道は有るだろ?
宿泊施設なんかも簡単な物なら屯田兵が行けばすぐに用意できるだろうし。」
「「「はぁ?」」」
「ただいっぺんに何千人も移動は無理だからな? 千人前後で移動してもらって冬が来る前には全員がフェルデンロットに移動したいな?」
「いやちょっと待ってくれ総督、道が有るとはどう言うことなのだ?」
話を進めようとするケンを止めて、ロットリッヒ辺境伯がなぜ道が有るのか聞く。
「どう言うことって、クッコネンの精鋭三千がフェルデンロットに行きましたよね?」
「ああ……」
「んで、アランの騎馬隊がフェルデンロットとロットリッヒを何往復もしましたよね?」
「う、うむ?」
「なら歩兵と騎馬によって道が踏み固められてるでしょう、あとはその踏み固められた道を屯田兵が整備して、馬車や徒歩の者も歩きやすいように整備すれば問題ないですよ。」
「! な、なるほど!」
「ご主人様がアランさん達騎馬隊に、何度も往復させたのはそういうことだったんですね!」
ロットリッヒからフェルデンロットまではなだらかな平原が続く。
だがいくらなだらかとはいえ石や窪地が無いわけではない、そんなところを馬車が走れば車輪がとられるし速度も出せない。
また馬車もだが徒歩で移動する民達にとってなだらかな平原というのがくせ者だった。
なぜなら目標が無いので道に迷いやすいのだ、例えば低い丘が有ったとする、そこを登るのは低いとはいえ疲れるし時間がかかるので迂回するとして右側を通るの左側を通るかで丘の向こうに出る場所が微妙にズレてしまう。
出た先に標識でも有れば迷わないだろうがもちろんそんな物はない、あとは日の出や星の位置などを見て感で進むしかないのだ。
うまく進めればフェルデンロットに着けるだろうが、微妙なズレが続けばそのまま平原をさ迷い餓死か魔物に襲われて全滅である。
「だが立派な石畳の道じゃなくても、道が有ればそこに沿って歩いていくだろ? これで移住者達も道に迷わないし歩きやすいって訳だ。
それに屯田兵六千が夜営した場所に、簡易的な拠点を造ればその後の民達が使えるからな?
あとはアラン達の騎馬隊で巡回警備させれば問題ないだろ。」
ケンの言葉に静まり返る室内、だが慌ててハックネンやミラーナの両親が地図と書類を見比べ始める、ロボネンは資材などをまとめてハックネン達に渡し始める。
「ロボネン男爵、この資材は準備できてるんだな?」
「は、はい、総督閣下から必ず用意するように言われていたので、すぐにでも用意できます!」
「この地図にある場所って、フェルデンロット子爵が書いてた場所ね? ここに簡易的な拠点を造れば移民もスムーズに移動できるわ!」
「い、いけるぞ……辺境伯様、これならいけます!」
「そうか、そうか……! 私の代でシュテットホルンを奪還して、フェルデンロットを復興出来るとは……そうか、そうか!」
ハックネンの言葉にロットリッヒ辺境伯は感無量と言った感じで涙ぐんでいる、そしてケン達も……
「す、凄いわケン! ちゃんと考えることが出来たのね!」
「さすがはご主人様です! 計画を立てることが出来たんですね!」
「さすがは私達の旦那様だわ! ところでミラーナ様とクリスは褒めてるのか貶してるのかどっちなの?」
「いえ、もろに貶してますよね? 何にしろこれで私達も帰れますし、家族のお墓がたてられます。」
「チェルシーも家が欲しいのです!」
「ハッハッハ! 見たか俺の実力を!
あと、褒めてるのかよく分からない感想を言ったミラーナ達4人は今夜は俺に奉仕するように!」
「へ? な、なんで私とシリヤまで!?」
「ついでだ。」
「な、納得いかない!」
「4対1ならなんとか出来ますかね?」
こうしてフェルデンロットへの道は開かれ、ミラーナ達4人はこの夜は眠れなかったのだった。
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