異世界転移 73話目
「子爵、ロットリッヒの西門に集めさせてる移民だが、陣地から溢れそうだぞ?」
「テントというか馬車の中にも寝泊まりさせているが、それでも足りなくなってきているな……」
「ちょっと誰です! 食糧の備蓄の書類を持ち歩いてるのは!?」
「閣下! 新しい馬車が来ました、テントと建設木材を積んだ隊です!」
「あれ? 予算案の原本が……あれ!?」
「あ、あのご主人様、輸送隊や一部の冒険者に民衆からアランさんの騎馬隊が移動の邪魔だと苦情が……。」
「辺境伯、西門以外にも陣地を造って対応させましょう、北門にです!
ヴォルターお義父さん、地面に雑魚寝なんかさせないでくださいよ? 死者でも出たら、暴動か疫病が発生してもおかしくないですからね!?
シルヴィアお義母さん、さっき新しく食糧を積んだ輸送隊が着いたからチェックのために文官達が持って行きました!
ハロネン、北門に持っていかせろ! 西門には人が溢れてて置く場所がないからな!?
ロボネン、原本は写しを作るために持っていった! それよりもフェルデンロットに運ぶ物資の書類に目を通しておいてくれ!
それからクリス、アランの騎馬隊は命令厳守でそのまま往復させてろ!」
ケン達はロットリッヒに帰ってきていた。
ロットリッヒのケンの私邸は指揮所となり、フェルデンロット地方軍を支える幹部達とロットリッヒ辺境伯達やその幹部が詰めていた。
ロットリッヒ辺境伯の城の方が規模は大きいのだが、城にはロットリッヒ辺境伯の者達にフェルデンロット地方軍の者達、さらにはヴォルター達が連れていた王国の者達が入った結果大混乱になっていた。
そこでケンの豪華な私邸を幹部達が使用して、臨時の司令部として機能させていたのだがここも混乱し始めていたのだ。
「……ケンよ、やはり手が足りなさすぎる。
一部の民は追い返すべきではないか?」
「辺境伯様、それは不味いです。
ここで追い返せばフェルデンロットの復興に失敗したと言うのと同じです……今度は軍のみが駐留するシュテットホルンに民を募集する時に、誰も集まらなくなりますぞ?」
ロットリッヒ辺境伯の言葉に、ケンではなくハロネン子爵が答える。
そしてその言葉は正しいとここに居る者達は理解できるので、反論ができなかった。
「ね、ねぇケン、なんとか言ってよ?」
そしてそれが分かっているはずのケンは黙々と指示を出し、今のような話が出ても黙っているだけだった、細々としたことを手伝うために司令部に居るミラーナは不安そうにそう聞くがやはりケンはフェルデンロットに運び始めた物資のリストを見ているだけだった。
そしてそんなケンの後ろにはクリスが居たが、やはりクリスも沈痛な表情でお茶を入れたり足りない備品を補充したりと甲斐甲斐しくケンを手伝っていた。
「ねえ! ケンってば!」
そしてそれに耐えきれなくなったミラーナが叫んだと同時に司令部の部屋のドアが勢いよく開けられる。
「ただいま帰りました!」
「つ、疲れた……」
「チェルシーちゃんは元気ですね……」
「ケンのアニキ、行ってきやし……げ!? 辺境伯様!?」
「おいどうし……な、なんだこの面子!?」
ドアの外から入ってきたのは、チェルシーを先頭にカリーナとシリヤ、そしてカウノとミルカだった。
「帰ったか! それでどうだった、フェルデンロットの様子は!?」
5人が、正確に言えばカウノとミルカが部屋に入ってきた途端にケンはそう叫ぶ。
いきなりの事にミラーナ達は驚き固まるが、カウノとミルカはケンに報告をし始める。
「ケンのアニキの言う通りでしたぜ、数は多かったですが高位の魔物はほとんどいやせんでした。」
「アルヴァーの親父が中心部に陣取ってたオークロードぶっ殺したら、散り散りに逃げ始めたんですけどクッコネンのおっさん達やうちの者が張ってたんでほとんど討伐しやしたよ。」
「いよぉし! 市街地はどうだった? クッコネン達が占拠したのか!?」
「はい、アランが去年に見たときよりも荒れてたようなんで、命令通り建物なんかは壊していってやす。」
「さすがに数が多すぎるんで大まかにですが、作業の方は進んでますぜ。」
「よしよしよぉし、兵の駐屯地をまずは確保だ、屯田兵を出発させて到着しだい兵舎と倉庫を造らせるぞ!」
「わお~ん!」
ケンはそう叫ぶと拳を振り上げる、だがそれに反応したのはチェルシーだけだった。
「なんだよお前ら、フェルデンロットを取り戻したんだぞ? 嬉しくないのか?」
反応の悪い皆にケンがそう聞くと、逆にミラーナが困ったように聞き返す。
「ね、ねぇケン、フェルデンロットを取り返したって、どう言うこと?」
「……クッコネンの精鋭部隊だけじゃなくって、アルヴァーのアホが率いる冒険者のクラン、楽園の探索者にも向かうように依頼を出しといたんだよ?
ついでにチェルシーとカリーナにシリヤも行かせて実戦訓練をさせたんだ。
カウノ、ミルカ、3人はどうだった?」
「いや、どうだったって、何なんすかあの3人。」
「カリーナは安定していて隙がなくてオークをいっぺんに10体相手にしてもびくともしませんし、シリヤは遠距離から弓矢でオークの指揮官クラスを倒しまくりますし……」
「チェルシーちゃんなんか、影から影に飛ぶたんびにモンスターの首がポンポンと面白いように飛んでましたし……」
「本当に新人なんっすか、この3人?」
「うむ、俺がじきじきに鍛えたが毛の生えたての……うん、そこそこ生えてるのが2人と全然生えてない新人だ!」
「どこの事を言ってんのよ!」
「ぐえ!?」
カリーナ達の股間を見ながら下品な事を言ったケンは、ミラーナに股間を蹴りあげられて悶絶している。
「ア、アニキ……」
「さすがに下品すぎやすぜ……」
「それで、いったい何があってフェルデンロットを取り返したと言うのだ?」
このままでは話が進まないと感じたロットリッヒ辺境伯がカウノとミルカに話を聞く。
「あ、あの、ケンのアニキから聞いてないんですか?」
「うちらのクラン、楽園の探索者が先行してフェルデンロットに入って、ボスを討伐したら残りをクッコネンの旦那が率いる軍が殲滅するって……」
「ケンのアニキとうちの親父の予想だと、大物はいないはずだからボスさえ討伐すればあとは烏合の衆で、楽に殲滅できるはずだと……」
「実際、オークが主体でフェルデンロットを占拠してたんですが、支配していたオークロードが倒されたら逃げ回るばかりで楽勝でしたよ。」
カウノとミルカの言葉に、質問をしたロットリッヒ辺境伯はもちろん、部屋に居た皆が驚き固まるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます