異世界転移 72話目




「まったくもう! 親に相談もせずに結婚をするなんて!」


「いででで! お母様、痛いです!」


母親のシルヴィアはミラーナにウメボシ、ぐりぐり攻撃をしながら叱りつける。




「それでミラーナ、なんで結婚をすることの許しを得なかった?」


父親のヴォルターは静かに怒りながら聞く。


「だってお父様が用意するお見合い相手って、情けないやつばかりなんだもの……しまいにはラルフなんかどうか? なんて言ってきたじゃない!」


「ちょっとあなた、その話は私も知りませんよ?」


ヴォルターが言い訳をする前に、シルヴィアがニコニコとヴォルターの前に出て詰問し始める。


「い、いやラルフ君と結婚をすればアイヒベルク侯爵家との仲がだね?」


「その話は前にもしたでしょう! アイヒベルク家とロットリッヒ家が結べば王家を越える可能性が有ります、だからレーベン王家は絶対に認めないし忠誠心の篤いお義父様も認めないと! あなたは何を考えているんですか!」


「いや、分家を作って……」


「それでも認められません!


ラルフがどうのこうのではないのです、国家を乱すような婚姻は「お母様、ラルフは嫌です。」ミラーナ、あなたがラルフを嫌ってるのは知ってますが、貴族の娘として婚姻は契約だと知ってるでしょうに、好き嫌いなど「ならお母様が」あれはダメですね、母として認めません。」


シルヴィアにも貴族としての考えとか色々有ったが、ミラーナの一言ですべてを翻してミラーナと一緒になって夫と敵対する。


「で、でもロットリッヒ家の利益を考えたら……」


「このバカ者! 大局を見極めろと何度も教えただろう!」


シドロモドロにヴォルターが反論をしようとしたが、天幕の外からの怒鳴り声にかき消される。


「ち、父上!」


「お義父様!」


怒りながら入ってきたのは現ロットリッヒ辺境伯だった。




「すまんな総督、息子夫婦が帰ってきたと報告があったと思ったら、ミラーナを連れて出ていったと聞いて慌てて追ってきたのだ。」


「はぁ……でも本当にご両親って居たんですね、ロットリッヒでもあんまり聞いたことがなかったんで、不思議だなぁ? とは思ってたんですよ。」


「ケン、あなたも子爵になったんだからもっと貴族の事を……無理か。」


ロットリッヒ辺境伯の言葉に貴族と言うか、ロットリッヒに住んでるならある程度は知っている常識を知らないケンに、ミラーナがもっと勉強をと言いかけるが諦める。


「それでなんで両親はロットリッヒに居なかったんだ?


母親が帝国の皇女だとは聞いてるけど、それ以外は何にも知らんから、俺。」


「君は本当にロットリッヒで高ランクの冒険者として活動してたのかね?」


「いやぁ~、貴族と関り合いになると面倒そうなんで、逃げ回ってたので!」


「……正直、あってるから何にも言えないな。」


「なんにしろ私達がロットリッヒに居なかったのは普段は王都に住んでるからなのですが、帝国に外交のために去年の春から行ってましたのでお会いできなかったのです。」


「……あー、食糧問題で?」


俺の言葉にヴォルターがうなづき説明をしてくれた。


帝国の食糧不足は一昨年の秋から問題になっていたそうなのだ、帝国は一昨年も不作で備蓄の食糧などを放出して耐えたそうだ。


そしてその時の放出で備蓄は無くなり来年、つまり去年の作付け次第では飢饉、それも国家を揺るがす大飢饉になる可能性があると問題になっていた。


そこで帝国はレーベン王国に食糧支援を早い段階で打診していて、さらにはロットリッヒ辺境伯に嫁いだシルヴィアにも連絡を入れていたそうだ。


そしてレーベン王国も帝国が揺らげば周辺国、特に自国にも強い影響が出るとして外交官としてヴォルターを派遣して、間に立って調整してもらうべくシルヴィアにもついていってもらったそうな。




「それで帝国に食糧を輸送できて、魔人や魔物の軍勢を討伐できたからめでたいと、パーティーなんかしてたら冬になっちゃったから春に帰ろうってなって……帰ってきたら娘が結婚をしてるんですもの、驚かない方が無理でしょ?」


「今年は食糧はなんとかなりそうだし、ロットリッヒと帝国との交易路も復活しそうだからもう帰ろうってなって、やっと帰ってきたら可愛い娘が……父上が認めたとはいえ自分の父親には一言ぐらいあってもな?」


ミラーナの両親がロットリッヒに居なかった理由が聞けたが、ふと気になることが出来たケンは質問をする。




「……帝国との外交なんかをやってきたと言うことはご両親やお兄様は文官なのですか?」


「うん? もちろん騎士としての訓練を受けているから戦えるが、どちらかと言えば私は内政が得意で妻は外交的だな? 息子は文武の両立できる立派な跡取り候補だが?」


「ほうほう……ところで部下の方々は? 王国からも文官が派遣されているのでは?」


「うむ、辺境伯家からはもちろん、王国からも100名以上の文官が帝国に行っていたぞ? 護衛の軍も1000名ついていたが……父上、何故天幕の出入り口に立ちふさがるのですか?」


「ハッハッハッ、息子よ、良いタイミングで帰ってきたな? 流石はワシの自慢の跡取りじゃ!」


ヴォルターはケンだけでなく自分の父まで異様な雰囲気になったのを感じ取り、妻と息子を守るように2人の前に立つ。


「ははは! 何をそんなに怯えてるのかな? ああお義母様、出入り口は辺境伯が立ってる所だけですよ? 他は魔法で塞いでるので出られませんよ?」


「いえ、実家……帝国に忘れ物をしたので急いで取りに戻ろうと……あ、こらミラーナ、離しなさい!」


ケンがジワジワ寄ってくるとシルヴィアは天幕の布をめくって外に出ようとしたが、めくれずにミラーナに捕まる。


「お祖父様、妹に子爵殿、急に雰囲気が変わりましたが……何事ですかな?」




「「「……仕事を手伝え!」」」




こうしてミラーナの両親と兄に、随伴の文官達が強制労働することに決まったのだった。




そして貴族の話し合いに入り込まないように空気になっていた2人が動き出す。


「私達には関係ない話しだったわね。」


「狩りでも行きますか?」


[[ガシッ!]]


ロットリッヒ辺境伯とケンに逃げうとして捕まった両親、それに諦めきった顔で着いていくコンラートを見送ったカリーナとシリヤ、狩りにでも行こうとするがその2人も肩を掴まれ止められる。


「2人ともどこに行こうとするんですか? お茶や軽食の用意などやることはイッパイ有るんですよ?」


2人を捕まえたのはクリスだった、ひきつる頬を意識しながら掴まれる肩にかかる握力で逃亡を諦めた2人だが、シリヤがあることに気がついて質問をする。


「……チェルシーちゃんはどこに行った?」


「いつの間にか消えてましたね……」


「あ、あの小娘、1人で逃げたな!?」


「わお~ん!」




天幕から少し離れた丘の方で、聞きなれた遠吠えが響くのだった。





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