異世界転移 68話目




「ども、ドライトさんです。」


「……へ?」


「わ、わああぁぁぁ!?」


「ぎ、銀龍様だあぁぁ!」


ケンが魔法袋から引っ張り出したのは鎧ではなく銀龍ドライトだった。




突然に現れた銀龍に周りに居た人々は当たり前だが混乱する。


「な、なんで俺の魔法袋に入ってたんだよ!?」


「いや、ちょっとケンさんに用が出来たんで、魔法袋の中に忍び込んでたんですよ?」


「なんで忍び込んでたんだよ!?」


「ビックリしたでしょ?」


「そりゃしたよ!」


「なら良かったです!」


ドライトは訳がわからない事を言う、ケンはそれを聞いてドライトの行動を深く考える事をやめる。




「それで用って、なんの用があるんだよ?」


「それなんですが、この間に邪神の召喚陣を見つけたじゃないですか?」


「ああ……悪魔が教えたって言う元大公家にあったやつか。」


「ええ、それを解析したら変なところが有って、グシオンさんとも話して調べたんですがどうも討ち漏らしがいたんですよ。」


「へぇー…… な、なんだとー!?」


ケンは驚き叫ぶ、周りの皆もどう言うことか聞きたいが、神とも言える龍の会話に割り込むことが出来ずに困っていると、横から声がかけられる。


「銀龍様、どう言うことなのか説明をしていただけませんか?」


横から声をかけてきたのは重臣達にフェリクスやアルヴァーを連れたレーベン王国国王、ローデリヒ三世だった。


だが銀龍ドライトはそんな国王をチラッと見てからケンの方に向き直ってしまう。


一部の貴族が不敬だと一瞬騒ぐが、国王の後ろに居たロットリッヒ辺境伯にアイヒベルク侯爵や宰相と近衛騎士団長ににらまれて黙る。


まぁ、神と同等かそれ以上の力を持つ相手に不敬とか、アホが言うことだよな? 何にしろ何も喋らなくなった銀龍だが、何故かは分かっている。


何故ならドライトのそばに[賄賂 絶讚募集中!]とのノボリが立ててあるからだ!


「賄賂っても、金目のものじゃダメなんだろうな……」


「ケン、なんとかしな、なんとか!」


「ヘルダのババアも居たのかよ!?」


いつの間にかすぐ側にペトラを連れたヘルダがやって来ていて、ケンに何とかしろと言っているが、ケンにもドライトが何を求めているのか分からずに困ってしまう。




だが、1人の少女が気がつく、この小さな龍が自分の方を見ていることに。


その少女はサッと祖父の背後に隠れるが、顔を出して見ると龍と目が合う、そして龍は顔を反らして口笛を吹いているが視線は少女を見ていたからだ。


ここまでくればこの少女、ティーアが何かを持っていて、銀龍はそれが欲しいのだと周りも気がつくが、肝心のティーアはオロオロしている。


そこにクリスが近づき話しかける。


「ティーアちゃん、なにか持ってない? 1つ1つ出して見て?」


そう言われてティーアは持っているものを1つづつ出していく、するとドライトはボロボロの人形が出されるとソワソワしだしたが、すぐにため息と共に諦めた表情を浮かべて静かになる。


「あれは、義母が娘のために作ってあげた……」


クッコネンの横に立つ若い女性がそう言って続ける。


「娘のティーアは夫や私に義父が前線に行く時には、先年に亡くなった義母が面倒をみてたのです。


その義母が古着やボロ等を縫い合わせた人形でティーアの宝物なんです。」


ティーアは宝物の人形にドライトが興味を持ったので、取られてたまるかと抱きしめて守ろうとする。


するとその拍子に懐から小さな袋を落とす。


するとドライトはまたもやソワソワしながらその袋をチラチラと見るのだった。


「ねぇ、ティーアちゃん、あの袋の中には何が入っているの?」


クリスがそう質問をすると、ティーアは袋の中から入っているものを取り出しながら言う。




「ティーアが焼いたクッキー、お祖父ちゃんとの仲直りのお礼に、男爵様にプレゼントしようと思って……」


そう言って取り出したクッキーは焦げていたり形がいびつでお世辞にも美味しいそうではなかった。


だがドライトはもはや我慢ならないと、いつの間にかティーアに目の前に居てクッキーを凝視していた。


「りゅ、龍様、1つお食べになりますか?」


そう言ってティーアがクッキーの1枚を手に取って差し出すと、ドライトはムッとした表情で言う。


「賄賂ですか? これでも私は誇り高き龍族の一員です、賄賂は受け取れませんよ! ……ですが捧げ物なら別です。


あ、捧げ物なんですか? なら頂きましょう! あーん。」


うん、ティーアちゃんは何も言ってないぞ?


何にしろドライトは勝手に断ってから勝手に自己完結して、口を大きく開けるとクッキーを今か今かと待つ。


あと断るなら、賄賂募集中のノボリをかたずけろ。


何にしろそんなドライトにティーアちゃんはオズオズとクッキーを差しでして、クッキーを口の近くに持ってく。


するとドライトは[バクン!]っと口を閉じてクッキーを食べる、ティーアちゃんの手も一緒に。




「きゃ、きゃあぁぁぁ!?」


「ティーアちゃん!」


「駄龍!」


手に食いつかれたティーアちゃんは悲鳴を上げる、クリスも慌てるがどうすればいいのか分からずにいる。


俺は槍を取り出すと一気にドライトに駆け寄って槍を突き出す!


「今までの恨み、食らえ!」


ティーアを助けるために、今までの恨みを晴らすために槍を突き出すケン!


しかし―――[カーン。]


槍はドライトの頭に当たるも、アッサリと弾き返されてしまう。


「もごもごもご、美味しいです! これは美味しいですよ! すごく思いがこもってます! もごもごもご。」


ドライトはもごもごと咀嚼をしながらどうやってか、美味いと感想を言っている、周りは何とかしようとするがどうすれば良いのか困っていると、若い少女の声が響く。




「我が子らよ、ここは私に任せない!


このクソボケ龍、死にさらせぇ!」




その雄叫びと共に現れ、ドライトに双剣を振り下ろす金髪のツインテールを揺らす神々しい美少女。




それを見たヘルダが驚き漏らす。




「女神、マリルルナ様!?」




この世界の最高神が降臨したのだった。



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