異世界転移 67話目




冒険者ギルドでスキルや鑑定などの話があり、サバを読み過ぎたセンターギルド長のヘルダが、冒険者どころか受付嬢からも怒鳴り付けられるという一幕も有ったが、その後はユックリとした時間が流れていっく。


カリーナとシリヤはクリス達と共にケンから様々な訓練を受け、冒険者としての腕をメキメキと上げていた。




とにかくケンは冒険者としての活動もしながらも、フェルデンロットの復興の準備や地方軍の練兵をこなし、さらには連れて行く寄子に軍、さらにはその家族の移動計画を建てるために幹部との話し合いもしていた。




「なんか俺、働きすぎじゃね?」


「ケン、頑張って!

私も頑張るから……夜を。」


「俺に任せとけ!」




余計な事に気がつきかけるケンをミラーナが誤魔化しながら。




「過労で死んでしまうわ!」


「ご主人様、どうしたんですか、いきなり?」


春先の出発前にフェルデンロット男爵邸で行われる送別会のために庭に出ようとして、突然に叫んだケンにクリスが心配しながら話しかける。


「いや、やっぱりおかしいって!


なんで練兵の計画に指導、移動計画を考える、カリーナとシリヤやチビ達の冒険者としての面倒をみる!


さらには今日のパーティーって、働きすぎだろ俺!?」


「ご主人様、夜も頑張ってくれてるのでお疲れなんですね……」


「あ、それは生き甲斐だから問題ない。」


働きすぎだと言うケンと、そんなケンを労りの声をかけるクリス、話の内容はあれだがなかは良いようだ。


「2人してなんて話してるのよ……」


「ミラーナか、そうは言うが夜の生活の話は大事だぞ?」


「時と場所を選べって言ってるの!


それで招待客は揃ったから、ケンから挨拶をしてあげて?」


「えー、めんどくさ……わ、分かったからにらむなって!」


仕方なくケンはミラーナを伴って屋敷から出る、そして庭にまわるとかなり広い庭は多数の人で埋め尽くされていた。




「えー、本日はお日柄もよく~」


「ケン。」


「フェルデンロット地方に住んでいた者達にこれから住む者達よ、いよいよ春が来た。


雪は溶け暖かくなり新芽も出るだろう……そして私達の、諸君の故郷を取り返し復興へと取りかかるのだ!


今日ここで正式に発表する、来週の春の日にフェルデンロット地方に向けて我等は出発をする!」


「「「おおぉぉぉ!!」」」


ケンの挨拶にパーティー会場から雄叫びのような歓声が上がる。


前半はスルーしたようだ、そして次にミラーナが挨拶をしてパーティーが始まる、するとすぐに初老の貴族が女性をともなって話しかけてくる。


「総督閣下、ミラーナ様。」


「ハロネン子爵、奥様もようこそ。」


「お久しぶりです、ハロネン夫人。」


「やっと、やっと故郷に帰れるのですな……」


「フェルデンロット男爵、感謝いたします。


あそこには息子夫婦も眠っていますので、これでお墓参りも出来ます。」


ハロネン子爵の嫡男はフェルデンロットが最初に襲撃された際に戦死しており、その妻も心労から後を追うように亡くなったそうだ。


そしてそんなハロネン子爵夫妻の視線は、少し離れている所でライナー達と遊んでいる男の子に注がれている。




「イストなら心配要らんぞ?


アルヴァーが重戦士として、フェリシーが回復と支援に才能が有るって太鼓判を押してるからな?」


「父と母の才能を受け継いだんですね……あの子がこの間、自分は聖騎士になってハロネンの町と父さん母さんのお墓を守ると言い出した時には……」


ハロネン夫人はそう言うと涙ぐむ、そんなハロネン夫人にそっとハロネン子爵が寄り添うとライナー達と一斉に駆け出した孫を見守るのだった。




ハロネンとそんな話をしていると、クッコネンとロボネン男爵がやって来る。


「ハロネン子爵殿、総督閣下!」


「閣下、盛大なパーティーですな? 天気も良くてこれからのフェルデンロット地方を祝福しているようですぞ!」


2人はそれぞれに家族を連れていた、クッコネンは若い女性とライナー達と同世代の少女を、ロボネン男爵はやはり夫人と子供達を連れていた。


「いょおーうガキ、調子はどうだ?」


「だ、男爵様……お祖父ちゃんにはちゃんと謝りました。」


「そうかそうか、クッコネンは歴戦の戦士で優秀な指揮官なんだからな? 見た目で判断しちゃだめだぞ? 特に身内のお前がな?」


「……ごめんなさい。」


クッコネンが連れてきたのは孫で魔導士としての才能が有ると言われている女の子で、名前をティーアと言った。


この子がクッコネンをオンボロの爺ちゃんと呼び、近接戦闘を軽視していた子だ。


ケンが子供達連れて森にキャンプに行った時から色々と話し合った結果、ティーアはお祖父ちゃんの事が大好きだが周りの友達にオンボロの鎧を着ていてカッコ悪いと言われて、悲しく思わず言ってしまったとの事だった。


何にしろそんなティーアはしっかりと祖父のクッコネンに謝って仲直り出来たようで、今はクッコネンの上着の裾を握って祖父から離れようとしていない。


「まあでも、ティーアちゃんの言うことにも一理あるわよ?


クッコネンはこれからフェルデンロット地方軍の副司令官になるんだから、ちゃんとした鎧を着てもらわないと地方軍全体が侮られるわ?」


「ミ、ミラーナ様、何とか鎧を新調しようとは思っているのですが……」


ミラーナの注意にクッコネンはしどろもどろに答える、世襲の騎士爵だが貴族階級としては一番下に近く、将軍としてはそれなりに部下が居るクッコネンは常に貧乏だった。


そのために自分の装備がなかなか買い換えられなかったのだ、困ってしまったクッコネンとそれを哀しそうにみるティーア、ハロネンやロボネンも助けたいがクッコネンに借金をこれ以上させるわけにもいかずに困っていると、クリスが助け船を出す。




「ご主人様、寄子のクッコネン将軍が困っているのですから、ここは寄親のご主人様が助けるべきでわ?」


「……なんか詐欺って言葉が脳裏を横切ったが、真剣なクリスが可愛いから良いもんをやろう!」


「余計なことはいいから新しい鎧を出してあげて。」


周りが余計なことに気がつく前に、さっさと話を進めるようミラーナがうながすと、ケンは自分の魔法袋を漁りだす。




「……あれ? んん!? ……ちょ、ちょっと待てよ?」


「ちょっとケン、ティーアちゃんを喜ばすために用意した鎧はどうしたのよ?」


「他の魔法袋に入ってるんじゃないんですか?」


「い、いや、確かにこの魔法袋に入れたんだよ? ミラーナも見てただろ?」


「ええ、そこからは出してないんでしょ?」


「ああ……お!? なんか硬い物が! これか!?」




ケンは漁っている袋の中で指先に硬い物が触れたので、それを掴むと引っ張りだす。




「ども、ドライトさんです。」




だが、出てきたのは鎧ではなく、銀龍ドライトだった。




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