異世界転移 60話目




「おおお!? な、なんなんだ!? ケンがたくさん居るぞ!?」




「ハッハッハッ! 俺はたくさん居るんだよ!」




「フェリクス様とケンの声が聞こえるのに姿が見えない! ってか真っ暗だぞ!?」




「あんたら! アホな事を言ってないで酌をしな、酌を! ペトラ様に!」




「………………美味しいわ?」




「オラオラオラ! まだまだ飲むし、食ってやるよ!?」




「わんわんわん! わふーん!!」




宴会はひどい状態になっていた、フェリクスは明後日の方向を見てケンがたくさん居ると言っている。


ケンはケンでテーブルの上で高笑いをしながらそれを肯定していて、アルヴァーは兜を逆さまに被って真っ暗だと叫んでいる。


そんなケン達にヘルダはペトラに土下座しながら酌をしろと叫び、ペトラは黙々と注がれる酒を飲んでいる。


ジャンナはチェルシーと他の冒険者達とで大食い大会状態になっている。


「ケ、ケン様が……。」


「フェリクス様もあんなに乱れて!」


冒険者ギルドでパーティーに参加していたアネットとライナーは、あまりの惨状に呆然となってしまっている。


「……子供達の教育に良くないわね。」


「フェリクスもあんなに酔っちゃってもう!」


それを見てフェリシーとパトリシアもあきれている。


「フェリシーさん、アネットちゃんは家の弟と一緒に連れて帰りますね? 今日は家に泊めますので。」


「そう? 悪いけどお願いね。

それでミラーナ様もクリスちゃんも帰るのですか?」


「私はあんまりお酒に強くないですし、他の子達の手前もありますから。」


大酒飲みのクリスはそう平然と言ってアネットとライナーを、ミラーナはやはり呆然としているハロネン達の子供達を連れて外に出ていく。


フェリシーとパトリシアはそれを見送ると、キッ! とケン達をにらみ走り寄る。


「「ちょっとあなた達! 私達の分を残しておきなさいよ!?」」


こうして止める者が居なくなった宴会は暴走するのだが、ある者の暗躍でさらにひどくなるのだった。




「ほれほれ、美味い酒だろ? もっと飲んでくれ!」




そう、ロットリッヒの冒険者ギルドマスター、絶叫のコリンズの暗躍によって!




そしてこの日、王都の冒険者ギルドで非公式ながら、迷酒オーガキラー、別名鬼殺しの消費量の新レコードが叩き出されたのだった!




そして―――




「おおおおお……な、なんてこった……なんてこった!」


ケンは泣いていた、どこなのか分からないこじんまりとした部屋の中で泣いていた。


記憶の中では冒険者ギルドの屋根の上でフェリクスやアルヴァー達と酒を飲んでいたはずなのだが、どこかの宿の1室なのだろう。


それなりに調度品なども整っているので、それなりに高い宿だと分かる1室でケンは男泣きに泣いていたのだ! 何故か?




それはケンが泣きながら見つめる先に、シーツを頭から被ってケンを警戒をする少女2人が居たからだった!


「また酔った勢いで奴隷を買っちまったのか……!


クリスになんて言い訳をすれば!」


そう、ケンはまた酔った勢いでまた奴隷を買ってしまったのだ!


何故分かるかと言えば、ケンは先ほどシーツの間から首を見ていて、そこにはクリスが着けているのと同じ黒いチョーカーが見えていたからだった。


だがケンは奴隷を買った覚えどころか、冒険者ギルドを出た覚えさえないのだ!


「ストレートに怒るミラーナより、静かに怒るクリスのが怖いのに……マックス……は、どうでもいいが、クラーラにはなんて言い訳をすれば!


あああ……ライナーとアンナに蔑んだ目で見られる……今度クリスに頼んでみるか? 新しい世界が開けるかも!」


ケンが現実逃避を始めているなか、シーツを被った2人が動き始める。


「ね、ねえ、あなたクリスの知り合いなの? ロットリッヒの北西部で、フェルデンロットって言う町で宿屋を経営していたマックスの娘のクリスよ?」


「はい、知っております、私の嫁です。」


「あなた、嘘はよくないですよ。


あなたの様なおじさんと、クリスがなんで結婚……あ、あなたまさか無理矢理!?」


「いえ、家族ごと買ったら向こうから迫られました。」


「「あ、納得した。」」


2人同時の声に、正気に戻ったケンは顔を上げて見てみると、そこにはなんと!




「陽炎と不知火が居る!?」




「誰よそれ?」


「誰かと間違えていませんか?」


そう、シーツから現れたのは艦○れの陽炎と不知火にそっくりな少女達だった!




「へー、クリスとは幼馴染なのか?」


「はい、よく3人で遊んだんですよ。」


「フェルデンロットが魔物から攻撃された後、放棄された時にクリス達はロットリッヒに、私達は王都の親戚を頼って逃げたんです。」


「まぁ、私達は王都に来る途中で魔物に襲われちゃって、家族は皆死んじゃったんだけどね……。」


「それに王都に着いたら着いたで親戚とは連絡がとれないですし、冬になったら2人揃って風邪をひいちゃいまして、スラムでなんとか生きてた私達はこのまま死んじゃうより奴隷になった方が生き残れるって考えて、自分から身売りしたんです。」


「そうしたら高笑いをしながら来たおじさんに買われたんでこれは失敗だったと……でも、買われて大正解でした。」


そう交互に話す陽炎さんと不知火さん、そんな2人の名は陽炎さんがカリーナで不知火さんがシリヤって言うのだそうだ……偶然か?


なんにしろそんな2人を連れて、俺は王都の仮の屋敷に向かっていた。


身の上話などを聞きながら屋敷の前に着くと、俺はさっきも言った通りの事を繰り返す。


「いいか2人とも、たまたま奴隷商に行った俺が2人がクリスの知り合いだと知って、助けるために買い取った。


これでいくからな、頼んだぞ?」


「了解!」


「任せてください。」


こうしてケンは、また酔って奴隷を買ってしまったことを誤魔化すために、2人と口裏を合わせてから屋敷に帰ってきたのだった。




「……帰ったぞ~?」


「ご主人様、お帰りなさい……カ、カリーナ! シリヤも!」


「「クリス!」」


出迎えに来たクリスは俺の左右にいるカリーナとシリヤに驚き、クリスを見た2人はたまらずに抱きつく。


ウンウン、友情は美しいな。 それが女同士ならさらに美しい……まさに白百合だ。


そんな事を考えているとクリスが何かあったのかを聞き、2人の家族が亡くなっていると知って3人で泣いている。


そして何故に俺と一緒に来たのかと聞くと、カリーナとシリヤの2人は計画通りに答える。


「ご主人様がたまたま奴隷商に来て、私達がクリスの知り合いだと知って。」


「家族も失ってるなんて可哀想だと買い取ってくれたのです。」


「そうだったの……ご主人様……2人とも……。」


『いよぉーっし、なんとかなった!』


「「うん、そーいう風に言えって言われたわ!」」


「うおい!?」




「……ご主人様?」




2人に速攻で裏切られ、クリスにニッコリと微笑みかけられた俺は死を覚悟したのだった。




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