異世界転移 57話目



「閣下、全員揃いました。」


「……おーい閣下、呼んでるぞ!」


「フェルデンロット男爵、あなたの事です。」


「……なんで閣下なんだよ?」


「子爵の私達や同列の男爵達が敬語だとまずいですが、軍団の司令官や総督なら役職なので問題ありません、取りあえずですが。」


ケンは嫌そうな顔だったが、ハロネン子爵は絶対に譲れないと言うのでそのまま話を進める。




「んでアラン、こいつ等が新しい幹部達だ、フェルデンロット地方軍の中枢をお前と担うからな。


ハロネン子爵、こいつがアランって言って第1大隊を率いることになる、最近は鍛えているし、馬の扱いに関してはかなりのものだから騎兵がメインの第1大隊を任せることにした。」


「よろしくお願いします。」


「んでこっちの2人はハロネン子爵にロボネン男爵だ、フェルデンロットの内政や財務の担当をする。


軍の補給品や装備品に、町や村の再建用の資材の手配なんかもするからな、よく話し合ってくれ。


そんでこっちはクッコネン将軍だ、フェルデンロット地方軍の副司令官をしてもらう、ま、実質的な総司令だな。


そして俺はただの男爵だ、実質何もしない人だな。」


「「「働いて下さい!」」」


一斉に怒られたぞ!? 何故だ! あ、やべ、ミラーナがこっちをにらんでる!


「今のは軽いジョークだ、一応は俺が寄親になるらしいから、それなりには働くつもりだ。


何にしろ国王陛下も居るし、クッコネンとアランは兵士を整列させろ、屯田兵はしょーがないから出来るだけ綺麗に並ばせろ。」


「「はっ! 整列! 整列だ!」」


俺の命令でクッコネンとアランが兵士達を整列させ始める、クッコネンは騎士や士官に兵士達を並べさせ、アランは屯田兵を並べさせようとして混乱している。


「……閣下、あれでは夜まで待っても並べませんぞ?」


「しょーがねえな、アラン! 並べさせなくても良い、同じ町、同じ村の奴で集まらせろ!」


「は、はい!」


こうして俺達の前にフェルデンロット地方軍約二千と、屯田兵約八千が並んだのだった。




「……やはり屯田兵の練度は問題外か。」


「気合いは感じるが、戦いに参加した経験が無さすぎるし、歳をとりすぎてる者も多い、これではな……。」


「フェルデンロット男爵、本当にこれで大丈夫なのか?」


アイヒベルク侯爵、ロットリッヒ辺境伯が不安そうに屯田兵達を見て、ローデリヒ国王は俺を不信げに見てくる。


後ろでは王国軍の将軍や士官達がニヤニヤ笑っていて近衛騎士団長に、にらまれている。




そんななかで俺は土魔法でちょっとした高さの台を作り、国王やフェルデンロット地方軍の幹部達が兵士からよく見えるようにした。


そしてまず俺が前に出ると挨拶をする。


「おーう、俺がフェルデンロット地方軍の、お飾り総司令官のケンだ。


ミラーナがにらんでるんでドンドン進めるぞ、まずは幹部達は前に! うん、皆がご存知の方々だな。」


ケンに呼ばれてハロネン達が前に出ると屯田兵達から、「ご当主様!」や「領主様だ!」等の声が上がる。


その声を聞いて国王達は理解した、この戦意だけ高い、兵とはとても言えない兵士達は、ハロネン達の家臣や親族に元の領民なのだと。


そしてハロネン子爵が代表して前に出ると、屯田兵達に向かい話し出す。


「フェルデンロット地方を故郷に持つ皆よ、苦労をかける。


そしてまた苦労を強いるだろう、だがこれからの苦労は……我等の土地を取り返し、生活を取り返す苦労だ! 今回、フェルデンロット地方軍総司令官にして、フェルデンロット地方の総督に就任が決まったフェルデンロット総督の好意により、我等は故郷に帰ることが出来る! 来年の春にはフェルデンロットを取り返し復興が始まるだろう、そして……そこを足がかりに我等の土地を取り返すのだ!」




「「「……オオオォォ!!」」」




ハロネン子爵の宣言に、屯田兵から凄まじい雄叫びが上がる。


その雄叫びを聞いて国王はチラリと後ろの将軍達を見る、将軍達はまっすぐに屯田兵達を見れずに自分達の行いを恥じて真っ赤になって目をそらしていた。


『自分達の愚かさと恥がまだ判るなら、きつい罰は許してやるか。』


国王は満足気にうなづき屯田兵達に視線を戻す。




そしてハロネン子爵にうながされてまた前に出たケンは静かになった屯田兵達に声をかける。


「おーう、気合いが入ってるな?


気合いが入ってるところ悪いが、お前達屯田兵はそんなに武術を鍛える必要ないからな。


お前達のメインの仕事は戦うことじゃない、土地を耕し道を整備して家や防塁を固く守って家族を守ることだ。」


静まり返った兵士達や屯田兵達はケンの言葉を真剣な表情で聞いている。


そんな兵士達にケンは人差し指を1本立てて言う。




「基本働かねぇ俺だが、これだけは約束してやる。


1週間だ、魔物や盗賊なんかが攻めてきた時に、自分の町や村を守れる相手なら1週間守ってみろ?


基本、第1から第3大隊の精鋭がフェルデンロット地方を巡回して魔物や盗賊を討伐するが、西の大森林から魔物が溢れたりアホな奴はどこにでも居る、そしてそいつ等が攻めてきた時に絶対に無理な相手って時は逃げろ。


だが、1週間守れる相手なら守れ。


1週間守ってる間に……必ず俺が行ってやる、そして魔物だろうが盗賊だろうが殲滅してやるよ。」




ケンの話は終わるが、兵士達は静まり返ったまんまだった。


だが、次の瞬間―――




「「「ウオオォォォ!!!」」」




「レーベン王国万歳!」




「我等の英雄に神の祝福を!」




爆発したように歓声が上がる。


それは屯田兵だけでなく、いつの間にか居た王都の民衆も万歳と叫んでいたのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る