異世界転移 58話目




「ケン! かっこ良かったわよ、惚れ直しちゃった!」


「ご主人様、お疲れ様でした。」


「わおーん!」


「はっはっはっ、俺はやるときはやるからな?


ってか、やらなくても良いときにやるのは、お前達を抱くときだけだし。」


「ケン、カッコ悪いわ。」


「さすがにハッキリと言うのは……。」


「クゥーン……。」


演説を終えたケン達は、訓練を再開した屯田兵達を見て回っていた。


ミラーナ達もケンと一緒に見回っている、ちなみに国王陛下は演説をして帰っていった。




「「「えい! やあ! とう!」」」


「どうしたどうした! さっきの気合いを見せてみろ!」


「やっぱり屯田兵は兵士としては全然ダメね。」


掛け声と共に槍を振るう屯田兵、その屯田兵を叱咤する騎士だがその叱咤を聞いても屯田兵の槍はフラフラと頼りなく振られていた。


それを横目にミラーナは諦めたように言う。


「ミラーナ様、仕方がありませんよ。


彼等は今まで普通の農民、普通の市民だったんですから。」


「でもさ、これからは郊外の町や村に住むのよ? そりゃ正規の騎士や兵士みたいに戦えるようになれとは言わないけど、あれじゃあゴブリンにも苦戦するわよ。」


「ゴブリンはなで斬りが基本ですわん。」


クリスとミラーナは屯田兵の練度がやはり気になるようで、困った顔で話し合っている。




「うむ、ミラーナよ、チェルシーの淑女教育は諦めろ。


語尾も変になっているしな。」


「ケン、チェルシーの事は分かったけど、今は屯田兵達の事でしょ? どうするのよケン。」


「うーん、なんか変なんだよな、騎士も兵士も戦いの教え方を知らない訳じゃないはずなんだけど、なんだって個人技ばかり教えてるんだ?」


「へ? なに言ってるのよケン、魔物との戦いで大事なのは個人の力でしょ?」


ミラーナはそう言ってケンをなに言ってのよ? っといった感じで見る。


見られたケンは、ん? っと足を止めて訓練の指導をする騎士や兵士達を見る。




そして―――




「よっし、とりあえず対人戦闘だ、始めろ!」


「「「おおぅ!」」」


ケン達やハロネン達に騎士や屯田兵達が見ている前で、騎士に率いられた兵士同士の模擬戦が始まる。


「ケン、なんで急に模擬戦なの。」


「んー? ちょっと騎士や兵士の戦い方を見たくてな。」


そう言うと黙って模擬戦を見つめるケン、ミラーナも仕方なく模擬戦に視線を戻して見つめる。


そして30分ほどで片方の部隊が勝つ、そして勝った部隊は嬉しそうに、負けた部隊は悔しそうにケンの元に来る。


双方会わせて20数人が前に来ると、勝った方にケンは金貨3枚を渡して負けた方には金貨1枚を酒代として渡す。




「おお! やったな!」


「負けた方にも貰えるなんて、男爵は気前が良いぜ!」


兵士達はそう言って去ろうとしたが、ケンが呼び止める。


「お前らちょっと待て。


合同でもう一戦してもらう、おい、用意しろ。」


呼び止められた兵士達は不思議そうにしていたが、ケンの命令で魔法兵が呪文を唱えると体長3メートルから5メートルのゴーレムが5体、生み出される。


「設定は泥のゴーレムだ、トロールとほぼ同じ強さになっている。


戦場はさっきと同じ平原だ、用意しろ! ……始め!」


集結して戦闘準備が終わると、ケンの号令でまた戦闘が始まる。


精鋭を揃えてあったのでトロールクラスのゴーレムとはいえ、小一時間で倒される。


「閣下、戦闘が終わりましたが?」


戦闘が終わっても、黙って兵士達を見ているケンにハロネン子爵が声をかけると、困った顔でミラーナやハロネン達に言う。


「うーん、こりゃあれだな、騎士にしろ兵士にしろ、農民の集団戦ってのが分かってねえな。」


「お、お待ちください、彼等は精鋭です! いくら閣下とはいえその言葉は納得できません!」


クッコネンが部下達をかばうようそう言うが、ケンはそんなクッコネンを手で制して言う。


「あー、クッコネンもその口か、ちと見てろよ?


全員聞け! 今のゴーレムとの戦い方を見てて、違和感を感じたものは手を上げろ!」


ケンがそう言うと、遠巻きに模擬戦を見ていた屯田兵のほとんどが手を上げたのだった。




「よし、お前ら準備が出来たか?」


「「「はい!」」」


「うっし、魔法兵、さっき言った通りに頼んだぞ。」


「「「は!」」」


ケンの指示で屯田兵の中から先ほどと同じ位の人数が並ぶ、若くて戦闘経験もそこそこ有るのを選んでいて、指揮官としてケンが後方に控えていた。


そして魔法兵はケンに言われると再度ゴーレムを作成する。


だが今回のゴーレムは体長1メートルから1、5メートルのが50ほどに、2メートル前後のが5体生み出される。


「相手はゴブリンが約50、オークが5だ! 柵の内側に入らさせるな!」


屯田兵達の前には事前に造った柵が建てられていた、高さは2メートルほどしかないが丸太の太さはそれなりに太く、そう簡単には壊れそうもない。


そして柵に殺到するゴブリンゴーレムに、屯田兵達は一斉に矢を放ち槍を突き出す。


ゴブリンゴーレムはゴーレムとはいえ、ゴブリンと同じ強さと強度にされていて、屯田兵達はケンの指揮のもと5人が一組になって攻撃していた。


「オークが来るぞ! 弓隊は1番右のオークに集中斉射だ!」


弓隊、6人だけだが弓隊はケンの合図と指示に従いゴーレムオークに向けて矢を放つ。


しかし同時ではなくバラバラに放たれた矢はゴーレムオークが手にした丸太のこん棒で振り払われてしまう。


「何をしている! 自分のタイミングで放つな! 再度斉射用意、放て!」


今度はケンの命令通り、矢は一斉に放たれてゴーレムオークに数本が刺さる、そしてそのうちの1本が首に突き刺さると魔法兵が致命傷と判断したのかゴーレムオークは倒れたのだった。


「その調子だ! 槍隊はゴブリンを柵の中に入れるな! 5人一組で確実に倒せ! 弓隊、次は左から2番目だ……放て!」


こんな調子でケンの指揮のもと、ゴーレムオークとゴーレムゴブリンとの演習は屯田兵の勝利で終わったのだった。




「でだ、今の演習を見ていて違いが分かったか?」


ケンはそう言うとクッコネンやアラン達を見回す。


「……私達が個人個人で戦ってるのにたいして、彼等は集団で戦っていました。」


「そう言うことだ、農民や市民なんかはゴブリンを倒すのにも何人かで組んでボコる。


ああ、騎士としての名誉とか言うなよ? 練度不足で戦闘スキルと連携度の低い彼等は集団で戦うのが1番なんだ、自分一人だと当たらない槍も皆で一斉に突けば何人かが当たる、これが彼等の戦い方だよ。


弓隊に関しては猟師なんかが担当する、彼等の弓の腕前は大したもんだ、だがな? 猟師として長年の経験が集団で戦うのを邪魔をする、狩りの時は自分のタイミングで矢を放つからな。」


ケンの言葉を聞いたクッコネンは真剣な表情で考え始める。


騎士やしっかりと訓練を積んだ兵士達は、戦闘スキルがそれなりに有るので集団で戦う時にもバラバラに動く。


しかし素人の集団である屯田兵達は徹底して何人かが組んで戦う。


でなければ相手がたとえゴブリンだったとしても、槍をかわされて懐に入り込まれて怪我を、最悪死んでしまうことがあるからだ。


つまり高い戦闘能力を使い連携もしながら個人個人で戦うのではなく、ひたすら集団戦で戦う農民達との違いをクッコネン達騎士や兵士達は見せつけられたのである。




「なるほど、つまり私が槍を連打してオークを倒したとして、彼等は人数で手数を増やしていると言うことですか?」


「そうだアラン、だから彼等は薙ぎ払いなんかはしない、出来ないんだ。

そんなことをしたら味方に当たるからな。」


「……訓練内容を見直します、彼等屯田兵達とも話し合いながら。」


クッコネンはそう言うと、早速士官達や屯田兵のリーダー格を集めようとした時だった、アランが余計なことを言ったのは。


「しかしこれでは盗賊なんかには一方的に殺られてしまうのでないですか?

個人戦が弱すぎますからね。」


「……なら試してみるか?」




「ちょ、待て! うぉ!? イデエェェェ!」


「う、うそ? アランは私の護衛騎士の中でも1番強くて、戦闘経験もわりと有ったのに……アッサリと死んだわ!?」


「ミラーナ様、まだ死んでません。」


「主人様、とどめを刺すアルカ?」


騎士のアランはアホみたく屯田兵の戦列に突っ込んで槍で殴られてボコボコにされてしまい、倒れてピクピクしている。


「チェルシーは本当に淑女教育を止めとけ、んでアランクラスでも油断してりゃあ見ての通りだ。」


「い、いったい何故!?」


クッコネンも信じられない目で倒れたアランと倒した屯田兵を見る。


「……平地なんかの集団戦で槍ってのは突くもんじゃねぇんだ、振り下ろすもんなんだよ。


盾で防げば良いと思うだろうが、5人を並べて3列にしてあるだろ? どれか1列は常に平行に槍を構えているからな、盾を上に向けて突っ込めば串刺しで正面に構えれば上から殴られる。


良く出来てるだろ?」


そう言ってケンは肩をすくめると、魔法兵にアランの治療を指示してクッコネンに向き直る。




「アラン君の貴重な自己犠牲で屯田兵の戦い方が理解できたか?


屯田兵達は個人の武よりも連携や集団戦を重視して練兵しろ、クッコネン達は指揮の仕方だな。


んじゃ、かいさーん!」


ケンは解散を宣言すると、色々と考えさせられて経験させられたクッコネン達と、ボコボコにされていまだにピクピクとしているアランを残し、ミラーナ達を連れて帰るのだった。



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