異世界転移 52話目




「大変な1日だったさね?」


「まさか銀龍様まで現れるとはな。」


「あれが本体なのか? に、しては何の圧力も感じなかったが。」


「アイヒベルク侯爵、わし等は指揮の経験は多くても実戦経験が乏しい、ここはフェリクスとコリンズの意見を聞こう。」


大公家の土地からアンデットを駆逐して、ケンは王家から借りている屋敷に戻り、国王達は王宮の奥にある密室で話し合いをしていた。


議題はもちろん銀龍ドライトにフェルデンロット男爵こと、ケンの事だった。




部屋の中には机と5つの椅子が有り、国王とヘルダとロットリッヒ辺境伯とアイヒベルク侯爵にフェリクスが座っていて、ヘルダの後ろにはコリンズにペトラが立ち、国王の後ろには宰相と近衛騎士団長が立っていた。


そしてロットリッヒ辺境伯はそう言うと席に座っているフェリクスと、ヘルダの背後に立つコリンズを見てうながす。


「分かりませぬ、なんの驚異も感じなかったですので……ただ勘は危険だと告げておりました。」


「ロットリッヒ辺境伯様、正直に言えば私もあの龍には何の力も感じませんでした、ですが私も勘が絶対に敵対するなと告げてきてました。」


「勘……か。


いくら大英勇コリンズ殿と勇者フェリクスとはいえ、それが当てになるのか?」


アイヒベルク侯爵が当惑してフェリクスに質問するが、フェリクスではなくヘルダがさえぎって答える。


「あんたらは本当にバカさね?

あの龍の実力はあの悪魔が喚び出された時から分かったはずだよ。」


「どう言うことだ、ヘルダよ?」


国王も意味が分からずにヘルダに質問をすると、ヘルダは背後に居るペトラをうながす。


「皆様、よろしいですか。」


ペトラはそう言い席に座る上位者達を見回して許可を得ると、説明をし始める。




「今回、銀龍様が呼び出したのは悪魔グシオンです。


魔界や悪魔を研究した著書等によると、序列11番目の地獄の大公爵にして40の軍団を率いるという大物です。


そしてそんな大物の悪魔グシオンは魔方陣の“外”に呼び出されました、私達が居た場所と同じ、魔方陣の“外”にです。」


ペトラの言葉にヘルダ以外がハッとする、それを見てからペトラが続ける。


「本来なら皆殺しにされててもおかしくありませんが、あの悪魔も銀龍様が居たのでその様な行動に出られなかったのでしょう。


でなければプライドの高い悪魔が自分の失敗を知っている私達を許すわけがありません。」


「つまりあれだけの悪魔でも、銀龍を相手にはしたくなかったと言うことか……。」


フェリクスそう言うと場が静まり返る。


「……やはり上位の龍か。」


国王の言葉が静まり返った部屋に響くのだった……。




「で、次の問題はケンの事さね。」


「フェルデンロット男爵か、やはりあの者は龍との付き合いがあったのだな。」


「陛下、クリスという娘が言ってたように、こちらからは連絡は取れないようですが?」


「それでも伝が有るというのは無視はできん。」


アイヒベルク侯爵の進言にローデリヒ国王はそう言って首をふる。


「それに龍との伝が完全に途絶えていたとしてもあの武力と知識に知恵は無視できんぞ。


陛下、やはり陞爵を早めてはいかがですか?」


「……それも無理じゃな、授爵したばかりだしシュタインベルク子爵との兼ね合いもある。


シュタインベルク子爵が良いと言っても他の者がそこを攻撃しかねん、勇者フェリクスと同等とは傲慢だ! 等と言ってな?」


「あの小僧はそんなこと気にしないだろうし、逆にそんな事を言う奴を攻撃しかねないさね。」


「ハハハ、それは言えるな?」


「ロットリッヒ辺境伯、笑い事ではないぞ。


あやつの性格を考えると本当に攻撃しかねんぞ、特にミラーナ様やクリス達等が攻撃されたら物理的に攻撃しかねん、うちのラルフの一件を忘れたか?」


「ああ……あそこまでの事は……いや、確かに同じ様なことが有れば分からぬか。」


笑っていたロットリッヒ辺境伯だったが、アイヒベルク侯爵にラルフの一件を指摘されると顔をしかめる。


「しかし侯爵よ、あの者の力は王国に必要だ。


それにミラーナが居るし、王妃がクリスという者と少し話したそうだが身をわきまえているし、しっかりした娘だとの事だ。


あの2人がそばに居れば問題なかろう。」


「王妃様と直接お話しになったのですか?」


国王の言葉に驚く侯爵、国王は侯爵だけでなく他の者にも説明するように言う。


「ミラーナが連れてきたそうだ、王妃に妹が出来たと嬉しそうに報告したそうだぞ?」


「なるほど……。」


「そんなことがあったのですね。」


国王の言葉にアイヒベルク侯爵とロットリッヒ辺境伯は納得する。




「そんな事よりケンの今後をどうするかだよ。


冒険者ギルドとしてはフェルデンロットに居てもらうのに賛成だね。


あそこは帝国との国境に近いだけでなく、西の大森林のそばだからね? あの小僧ならスタンビートなんかが起きても、問題なく対処するだろうしね。」


「そうですな、帝国との交易が増えれば盗賊なんぞも増えるでしょうが、ケンならやはり問題ないでしょうな。」


「ミラーナ様やロットリッヒ辺境伯の話を聞く限り、政治的なところも大丈夫でしょう。」


「うむ……宰相よ、どう思う?」


レーベン王国冒険者ギルドのグランドマスターのヘルダ、王国西部の大貴族ロットリッヒ辺境伯、王国に古くから使えるアイヒベルク侯爵の意見を聞いた国王は、背後に控えていた宰相に意見を聞く。




「……勇者フェリクス様、シュタインベルク子爵の支援を厚くして、復興を早めましょう。


そしてある程度の復興がすんだらシュタインベルク子爵を伯爵に、そして半年か1年間をおいてフェルデンロット男爵を子爵にすれば問題ないかと。」


「やはりその方法しかないか……。」


宰相の意見に国王達は考える。

するとフェリクスが問題ないと言い始めた。


「陛下、ケンならそんなことは気にしないでしょう。


それにある程度の復興が成るまで王都に来なくて良いと言えば、喜んで復興にかかるかと思います。」


「それはそれで問題が有るような気がするが……まぁ、それが無難かのぅ?」


国王はそう言って席に座っている者達を見る、皆がうなずいたので国王は次の話に移る。




「それで次なんじゃが、フェルデンロット男爵の家臣をどうするかじゃ。


宰相、男爵家では家臣は何人位持てたかな?」


「普通の男爵家で騎士爵は2~3人、従士は多くても10人です。


裕福な家で私設騎士団を持っている男爵は幾つか有りますが、全て100人にも満たない数で練度も低いです。」


「ふぅーむ、少ないのぅ。」


宰相の話を聞いて国王は眉をひそめる。


「陛下、ケンの、フェルデンロット男爵の領地は西の大森林の近くです、少なすぎても問題でしょう。」


「シュタインベルク子爵の言う通りですな、フェルデンロット男爵が居れば問題ありませんが王都に居た場合などは強力な騎士団などが必要でしょう。」


「しかしフェルデンロットには王国軍を1個軍団派遣するのでは?」


フェリクスやロットリッヒ辺境伯は部下や兵士の数が少ないと危惧するが、アイヒベルク侯爵は王国から軍が派遣されるのではないか? っと言って、暗にこれ以上は要らないだろうと意見を出す。


「騎士団長、軍の計画はどうなっておる?」


ローデリヒ国王は宰相から近衛騎士団長に視線を移すと軍について質問をする。


「ハッ、最初は大隊を1個大隊、1000名を送る計画です。」


「ずいぶんと少ないな……。」


「1個軍団は定員が15000だ、その内の1000だけとは少なすぎないか?」


騎士団長の言葉にアイヒベルク侯爵とロットリッヒ辺境伯は疑問に思い質問をすると、騎士団長も困ったように返答する。


「現在のフェルデンロットに15000の兵を養う能力も、駐屯する場所も有りません、ならば食料などはロットリッヒから運ぶことになりますが……現在だと1000名が限界だろうと言うのが軍部の見解です。


それにフェルデンロットに常駐するのは多くても3000でしょう、軍部では国境近くに要塞を造りそこに軍団のほとんどを配置する計画のようです。」


「軍部は何を考えておるのだ、フェルデンロットを守るための新軍団だろうに……。」


ロットリッヒ辺境伯そう言うと顔をしかめて宰相を見る。


アイヒベルク侯爵にフェリクスにも見られて、宰相はため息をつきながら話し出す。


「軍の一部にフェルデンロット男爵に批判的な者が居るらしいのです、それでフェルデンロット男爵の指揮下に1個軍団も置くのはおかしいと言いはじめまして……要するに派閥争いが起きたようでして。」


「……なんたることか! 邪神戦争が神々の勝利で終わり、やっとシュテットホルンを取り返して復興が始まり、フェルデンロットとシュタインベルクは取り返したばかりだぞ!


なのに派閥争いだと! 国民が……民達がまだどれだけ苦しんでいるのか、奴等は理解しとらんのか!?


軍の司令官と軍部の者達を呼べ! わし自ら詰問してくれる!」


ローデリヒ国王は激昂して椅子から立ち上がり、宰相と騎士団長に言うが2人は動かなかった。




動かない2人にロットリッヒ辺境伯とアイヒベルク侯爵が焦れて言う。


「宰相殿、騎士団長殿、陛下のご命令だぞ。」


「愚か者達を呼んでこんのか?」


国王と勇者フェリクスにヘルダもにらむように2人を見ていると、宰相と騎士団長は困ったようにお互いの顔を見て、宰相が意を決して説明を始める。


「実はフェルデンロット男爵にも説明したのです、自警団クラスの部隊でも良いので最低限用意するようにと伝えて、軍は当てにならないと……すると男爵は、こういう時に当てにならない物ほど厄介なものはない。


なので軍は要らないからその分支援金を寄越せと言いまして……。」


「それで、支援金だけもらってどうするのか聞きましたところ、こういう時にうってつけの兵種がある。


そいつ等を使ってフェルデンロットやロットリッヒ北西部を復興させると言うのです。」


宰相と騎士団長の話に国王達は顔を見合わせる、そして何かを考えていたヘルダは頭を振って宰相達に質問をする。


「……ダメだ、分からないさね。


廃墟に行かせるのにうってつけの兵士? 冒険者なら分からないでもないが、兵士って言うと分からないさね、あの小僧はどんな兵士だって言ってたんだい。」


ヘルダに聞かれた宰相と騎士団長は声をそろえて答えるのだった。




「「屯田兵というらしいです。」」





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